一流の特許翻訳者になる

関係代名詞を極力使わない

『米国出願用特許翻訳・重要ポイント解説』の読者の方から、「第8回 みんな関係代名詞がおかしい!」についての感想メールが届きました。この方は特許翻訳者で、クライアントから関係代名詞を極力使わないように要請されているということです。私もこれに大賛成で、関係代名詞を使わずにすむなら使わないのが一番だと思います。第8回は、関係代名詞を使わざるを得ない場合の使用法の原則を述べたまでで、関係代名詞の多用を推奨しているわけではありません。(そもそも、例文「クレーム1に従属するクレーム2」などは意味のない文章です。)第8回に書いてある使用法をきちんと守って文法的に正しい英文を書いているからといって、それだけでいいわけではなく、読みやすい文章になっているかどうか考える必要があると思います。特に、関係代名詞の非制限用法を使って表される情報は、すでに述べられているなど重要でないことが多く、文章を読みにくくする原因になるため、思い切って削ったり、想像力をもってまったく違う構成の文章にするなどの対処を考えることが必要だと思います。上記のクライアントは、こういった対処を許容してくれる「話せる」クライアントかも知れません。ちなみに、読みやすさとは別の観点での話ですが、木村進一先生は、クレームでは形容詞も極力使わないようにと仰っていました。

正規表現を覚えるためのテキスト

ワイルドカードや正規表現を翻訳で使用している特許翻訳者は多いと思います。当社も使用しており、MSWordならワイルドカード、テキストファイルなら正規表現を使えることは、特許翻訳者の必須スキルだと思っています。当社はWordよりもテキストファイルを多用しており、新しく入ったトレーニーには、まず正規表現を覚えてもらうようにしています。いろいろなテキストを試してきたなかで、現在使用しているテキストは、『反復学習ソフト付き 正規表現書き方ドリル』という本です。ドリル式になっており、覚えたことをすぐにドリルで確認できるようになっています。またCD-ROM付きで、実際に手を動かしながらドリルを解くことができます。

フィードバックがあってもなくても一生懸命翻訳する

先日、クライアントから、納品した翻訳のフィードバックをいただきました。このクライアントからのフィードバックは、理にかなっている指摘が多く、毎回非常に勉強になっています。担当者の方は、技術内容に精通していることはもちろん、おそらく非常に高い英文ライティングの能力も持ち合わせておられることがフィードバックから垣間見えます。おそらく自分で翻訳しても質の高いものになるのだろうと推測されます。こういったクライアントからのフィードバックは、毎回徹底的に研究するようにしています。こうすることで、こういう違いの分かる方を唸らせられるようになりたいという楽しみがあります。一方で、翻訳をチェックする時間が非常に限られているため、フィードバックをすることができないというクライアントもおられます。こういったクライアントは、当社を信頼して翻訳内容を一任してくださっているとも考えられるため、その信頼に応えるため、フィードバックをくれるクライアントに対するときと負けず劣らず、一生懸命臨みたいというモチベーションが起き、実際そのようにしています。

「簡単な原文の英訳が上手い」止まりの翻訳者に必要なこと

このところ、非常に難解な特許明細書を英訳しています。原文の難解度がいつもより格段に高いため、分かりやすい英文にするのにいつもより多くの時間がかかっています。原文が分かりにくいのだから、英文も多少分かりにくくても仕様が無いだろう、と妥協したい気持ちが湧いてくることもありますが、やはりクライアントが当社を頼って依頼してくれているのと、当社の名のもとに変な翻訳を出したくないという意地があるため、納期ぎりぎりまで推敲しようと思っています。

また、難解な原文だからこそ、それを分かりやすく英文にできるのが特許翻訳者の務めだと思います。実際、比較的簡単な原文ならば非常に上手く英文にできるものの、原文が少し難解になると、同じ人が書いたとは思えなような変な英文になってしまう特許翻訳者がたくさんいます(例えば、コンマが異様に多いなど、原文の難解度に比例して英文の「ヘン度」が高まっていきます)。当社はこれまで多くのトレーニーを迎えてきましたが、ほとんどが、この「簡単な原文の英訳が上手い」止まりで伸び悩んでいます。

この状態から脱するためには、想像力を駆使して翻訳することが必要だと私は思っています。かのアインシュタインは、”Imagination is more important than knowledge.“と言ったそうですが、知識やテクニックだけではいい特許翻訳はできないことは明らかです。これは、一つの発明には一つの特許しか与えられない(”…may obtain a patent …”, 35 U.S.C.§101)という特許制度の性格上、内容が全く同じ特許明細書は存在せず、知識やテクニックによるパターン化した翻訳で対応できるものは少ないからです。上記の伸び悩んでいるトレーニーも、例えば英文明細書マニュアルを隅から隅まで読んで知識やテクニックを頭に入れているものの、想像力を駆使して確かな英語で分かりやすく表現する能力が育っていないように思います。この能力をどうすれば身につけることができるか、これをきちんと伝えることができるようになることが私の課題だと思っています。

良質な明細書翻訳

先日、企業の知財部の方とお話しする機会があり、いろいろな有益な情報を教えていただきました。話のなかで、明細書翻訳についての付加価値ということが話題になりました。この企業では、外注している明細書翻訳に対して特許的な付加価値を求めているということです。しかし、それにもかかわらず、納品されてくる明細書翻訳には特許的な付加価値がないものがほとんどだということでした。原文に忠実な翻訳をすることが基本である翻訳会社から上がってくる翻訳に特許的な付加価値を期待できないのはもちろんのこと、特許に詳しいはずの特許事務所から上がってくる明細書翻訳でさえも、特許的な付加価値がないものが多いのだそうです。また、この企業は、明細書翻訳の質をかなり重視しており、極論ではありますが、時間をかければ良質な明細書翻訳が作成できるのなら、優先権を失ってでも時間をかけて良質な明細書翻訳を作りたいというスタンスをとっているそうです。良質な明細書翻訳とは、『優秀な特許英文チェッカーはまず優秀な特許英訳者であるべき』で書いたように、技術、特許、英語すべての観点において付加価値を与えることのできる特許英文だと思っています。今回お話しの機会を得て、翻訳会社にはまだまだできることがある、あるいは翻訳会社の怠慢によりできていないことがある、と改めて感じました。

優秀な特許英文チェッカーはまず優秀な特許英訳者であるべき

当社では、優秀な特許英訳者を育てるのはもちろん、優秀な特許英文チェッカーも育てたいと考えています。しかし、優秀な特許英文チェッカーを育てるのは、優秀な特許英訳者を育てるよりもはるかに難しいと感じています。優秀な特許英文チェッカーとは、他人の翻訳文の明らかな間違い(訳抜けなど)を指摘することはもちろん、技術、特許、英語を総合した観点からより良い英文にリライトできるチェッカーのことだと私は考えています。こういったことができるためには、まず自分自身で、技術、特許、英語を総合した観点から英文を作成できることが必要だと思います。こういう英文が作成できるスキルを身につけた上で、他人の翻訳文を注意深く批判的にチェックすることができるスキルも身につける、という段階を踏んだ育成方法をコストをかけて取り組んでいく必要があると考えています。

1件1件の翻訳にじっくりと取り組む

先日、新規のお客様から翻訳のご依頼をいただきました。このお客様は、それまで複数の翻訳会社に翻訳を依頼していたものの、いずれの会社の翻訳にも満足できず、今回当社を試してみようということになったそうです。それまで依頼していた翻訳会社は、どこも高品質を「ウリ」にしていたものの、実際に納品されてくる翻訳は、高品質とは程遠いものだったということです。上手とはいえない翻訳者が下訳を担当し、それがほとんどチェックされることなく下訳レベルのまま納品されてくるという、営業担当者が熱く語っていた高品質とは正反対の「右から左」の翻訳が量産されてきたのだとか。

このように、チェック体制がほとんど機能していない現状では、下訳担当者の力量が非常に重要になってくると言えると思います。上記の下訳担当者は、一生懸命取り組んだに違いありませんが、力量のない翻訳者がいくら一生懸命取り組んだとしても、ダメなものはダメだという厳しい現実があります。私も、残念な翻訳を前に「私なりに精一杯やりました」と話す翻訳者を過去に何人も見てきました。

今回のように、当社を頼って声をかけていただけるのは非常に嬉しいことです。こういった引き合いがある度に、他の人から必要とされることの有り難みを感じます。このご縁を大切にするとともに、お客様が翻訳会社に対してこれ以上不信感を抱かないためにも、依頼された翻訳に「一生懸命」取り組んでいます。いい翻訳を生み出すための基本は、やはり時間をかけてじっくりと取り組むことだと思います。そうすることで、原文作成者の意図を汲み取った翻訳にできることが多く、これは依頼主にとって非常に嬉しいことです。このような基本姿勢で1件1件の翻訳に体当たりで臨むということを忘れてはいけないと思っています。

「等」を英訳する際の1アイデア

特許明細書では、「等」という表現が頻出します。そして、「等」をどのように英訳するかについての私の考え方を、30日間無料メール講座『米国出願用特許翻訳・重要ポイント解説』の第14回「and the like は誤訳になることがある」で解説しています。今回は、この解説の補足をしたいと思います。

例えば、「A、B、C等」という日本語の表現があるとします。これを英訳する方法の1つとして、“such as”を使って“such as A, B, and C”とする方法があり、私も含め、特許翻訳者のあいだで非常によく使われています。しかし、特許明細書では、「等」の後に長めの説明が入ることがよくあり、「等」とあわせてうまく英訳するのが難しいときがあります。例えば、「A、B、C等の扱いが難しいもの」では、「等」の後に「の扱いが難しいもの」という説明が入っています。これを“such as”を使って英訳すると、例えば次のようになるかと思います。

something difficult to handle, such as A, B, and C

これはシンプルな例ですが、実際には「等」の後の説明がもっと長く、その説明の英訳も長くなり、“difficult to handle”という3語ではすまないことが多いです。この場合、“such as A, B, and C”が一体何の例なのかが分かりづらくなることがあります。これに対して、次のようにしてはどうかという意見が出てくると思います。

something, such as A, B, and C, difficult to handle

私は、この文章は不自然だと思います。というのは、“such as A, B, and C”は“something difficult to handle”の例になっているため、上の文章だと、“A, B, and C”がどのような性質のものなのかが“difficult to handle”を読むまで分からないような文構造になっているからです。

このような悩ましい場合、私は次のようにしています。

A, B, C, and other things difficult to handle

このようにすると、“such as”や忌まわしき“and the like”“or the like”を使わずにすみ、すっきりとした表現になります。

なお、“and other things”の“and”は、文脈や技術内容によって“or”あるいは“and/or”にしなければならない場合があります。また、“things”についても、より適切な表現を探す努力をしなければいけません。これらについても、第14回「and the like は誤訳になることがある」で解説しています。

また、一番目の英文“something difficult to handle, such as A, B, and C”は次のようにすることで「短文」化することができます。

something difficult to handle. Examples include A, B, and C.

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料理関係の英文記事は方法表現の勉強になる

何気なく読み始めたスターバックスに関する英文記事に、特許翻訳において特に方法を表現する際に役立ちそうな表現がたくさん含まれていました。忘備録としてここに書いておきたいと思います。

http://www.thisisinsider.com/tips-from-starbucks-baristas-2017-12

I was a Starbucks barista for 4 years — here are the biggest things I learned

Guaranteed, Starbucks Gold members can pinpoint the memory of the first time they laid eyes on a beautifully layered, two-toned iced caramel macchiato. Most people’s first inclination upon receiving the cup is to swirl their straw in circles, mixing the two layers of espresso and milk to create a uniform creamy brown-colored coffee drink.

上の2つの文章のうち、2文目(Most people’s …)は、多くの人がキャラメルマキアートを飲むときにやってしまいがちな行動で、ストローで全体をかき混ぜることが残念な行動として紹介されています。この文章の構造(swirl …, mixing … to create)は、何かを作ったりする際の表現として応用が効く(使い回せる)のではないかと思います。また、ここにも、『特許翻訳者のあるべき姿』で紹介した“… is to動詞(ここではswirl)”という便利表現が使われています。

次の文章は、複数の材料を順番に加えていって何かを作るための説明文として英借文できるかも知れません。“to start”は、日本語明細書の「まず」として使えそうです。

A caramel macchiato is made with vanilla syrup to start, then milk, then espresso, and is finished with a special crosshatched pattern of caramel drizzle.

次の文章は、構造物の構成要素を列挙する際にコロンが使用されている例です。

An espresso shot is made up of three parts: the heart (the dark brown base), the body (the middle layer), and the crema (the creamy, beautiful foam topper that provides a bit of sweetness).

次の文章は、上記記事とは別のスタバ関連記事からの抜粋です。“in either mocha or Frappuccino form”の“in … form”は「・・・形状で」「・・・の形態で」といった意味で私もよく使っています(formは無冠詞)。

http://www.thisisinsider.com/starbucks-holiday-drinks-around-the-world-2017-11

12 Starbucks holiday drinks you won’t find in the US

Baristas mix white chocolate with sour raspberries in either mocha or Frappuccino form, then top a dollop of whipped cream with the same ingredients.

記事の至るところで、“top”が動詞や形容詞で使われています。「てっぺん」にあるものを説明したり、「てっぺん」に何かを施したりするときに使えるかも知れません。

Starbucks closed its Teavana stores earlier this year, but the brand name teas are still available. Malaysia mixed the black tea with apple juice to create a special flavor for the holidays. It’s topped with cinnamon spice foam.

上記の記事に限らず、料理の作り方が書いてある記事は、「動き」を伴う表現が多く、同じく「動き」を伴う表現が多い特許の方法表現の参考になると私は思っています。

特許翻訳者のあるべき姿

 

 

 

特許翻訳者のあるべき姿

私は、折にふれて木村進一先生のブログ記事を読むことにしています。先日改めて読んだ記事『育たない特許翻訳者、育てない特許事務所-翻訳とは意訳なり─』は、特許翻訳者の本来あるべき姿が描かれており、当社もこのような姿を目指そうと決意を新たにしました。

英語力に加えて、日本法の知識、外国法制や現地の実務の知識、たとえば、FestoやKSR、さらにEPCにおける各種審決例の法理などを三位一体的に総動員して翻訳に当っている特許実務家が果たして何人いるでしょうか。

翻訳とはそもそも意訳なのであり、「意訳が悪いのではなく、悪い意訳があるとすれば、英語力不足、思考力不足、教養不足の酸欠ならぬ“三欠”の結果です」という指摘は、心にズキンときます。“三欠”の状態で行われた意訳が一番たちが悪いことは、私もこれまで多くの翻訳を見てきて感じてきたことですが、これは程度の差の問題であって、木村先生に言わせると、当社の翻訳もまだまだ“三欠”なのかも知れません。記事で言及されているロボット(つまりAI)との差別化のためにも、当社は上記特許実務家のような姿を目指していきます。この記事を読んで、木村先生にまた叱咤激励された気分になりました。

ちなみに、記事では、記載不備で拒絶された稚拙な翻訳を木村先生が書き直されていますが、改訂文の[0002]において、“One of them is to devise such a program as to guard against unauthorized use”という文章があります。この“one … is to 動詞”という表現は、冒頭に“is”という結論がきていて非常に読みやすい上、改訂文で行われている「短文」化のためのツールとしてかなり応用の効く便利な表現です。実際、私が米国特許法律事務所に勤めていたとき、米国弁護士がこの表現を使っているのを頻繁に目にしました。例えば、鑑定書(クライアントの発明と先行技術とを比較したもの)において、“one possible approach to circumvent the prior art is to …”(当該先行技術を避ける方法の一つとして、・・・することが考えられます)といった具合に。また、“to 動詞”の部分をthat節にすることもでき、更に応用の効く表現になります。例えば、“a possible explanation is that …”(その理由の一つとしては、・・・であることが考えられる)など数限りない表現を作ることができます。

特許英語の大家、木村進一先生

http://skimura21.exblog.jp/7705600/

育たない特許翻訳者、育てない特許事務所-翻訳とは意訳なり─