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どんなに忙しくても研究する時間をとる

patentpractice

今週もほぼ毎日、早朝から深夜までずっと翻訳をしていました。普段仕事ばかりして、本を読むなどの研究をしないと進歩がないとはよく言われることです。進歩がないというのは自分では分かりにくいことですが、実際は怖いことだと私自身実感してきたので、毎日どんなに忙しくても研究の時間をとるようにしています(トレーニングの時間も)。当社は米国特許翻訳社という社名ですが、この社名にした理由の1つは、このような大それた社名にすることで、否が応でも米国特許について研究せざるを得ない状況に自分たちを追い込むことができると考えたからです。先日、お世話になっている方から『Patent Practice』というパテントバー受験用のテキストを譲り受けました。本業である翻訳とは直接は関係のないトピックが含まれているかも知れませんが、米国特許に関するあらゆることを知っておくことが当社の義務だと思っています。また、後々どんな情報が翻訳に役立つか分からないので、翻訳者としてはこんな本を読むべきだと自分で決めつけず、人から勧めらたものは先入観をもたずに読むことにしています。

内容に踏み込んだ翻訳をする

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このところ、早朝から深夜までずっと翻訳をしています。当社では基本的に社内で翻訳をすることにしており、一度に案件が増えすぎて社内で対応しきれなくなった場合にのみ、信頼できる外部の翻訳者さんに翻訳を依頼しています。今は割りと忙しい時期で、私も翻訳者としてフル稼働している上に、外部の翻訳者さんにも目一杯仕事を依頼している状況です。こういうときに更に翻訳依頼がきた場合は、納期を伸ばしてもらうか、それが無理な場合はお断りすることにしています。外部の翻訳者を増やして翻訳キャパを増やすことも可能ですが、付き合いが浅くまだ実力と人柄がよく分からない翻訳者に仕事を依頼するのは抵抗があります。また、翻訳を外注した場合、必ず社内で翻訳を隅から隅までチェックしており、出来の悪い翻訳だと修正するのに自分たちで翻訳するより時間がかかったりして何をやっているのか分からなくなります。外注した翻訳を文法や訳抜け、形式などのチェックのみ行ってクライアントに納品するという翻訳会社もあると思いますが、それだとここで詠まれている名川柳のようになります。もともとの原因と思われることが、『特許翻訳の実務』という本に書いてあります。

一部の翻訳会社や翻訳者は、迷ったら直訳あるいは逐語訳にするという態度で仕事をしているケースがあるが、直訳や逐語訳をすることによって内容が不明確になったり、かえって内容に意味が追加されたり、ひどい場合は、上の例のように意味が変わってしまう場合さえある。翻訳文において、翻訳先の言語を母語とする人たちが理解できなくなるようなことはあってはならないはずであるにもかかわらず、日本からくる翻訳文は何が書いてあるかさっぱり分からないと現地代理人から言われることが多いのは、このよう一部の翻訳会社や翻訳者の態度によるものである。(p.99)

当社がこのような仕事をすると、クライアントが当社に依頼してくれた意味がなくなり、この会社を始めた意味がなくなります。やはり、1件1件、原文をよく読みよく考え、技術的にも特許的にも内容にまで踏み込んだガチンコ勝負の翻訳をすることが当社の存在意義だと考えています。

“also”が意味すること

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特許英訳において、“also”(意味:likewise, in addition to, too, besides)が使われることがよくあります。例えば、“X may also include Y.”という具合です。しかし、この文章は、“also”があるために2通りの解釈が可能となっており、曖昧だと思います。1つ目の解釈は、Xは、例えばZというものの他にさらにYを備えてもよいという解釈です。多くの場合、この解釈が意図されていると思われます。2つ目の解釈は、X以外の何かがYを備えているのに加えて、XもYを備えてもよいという解釈です。どちらの解釈が意図されているかは文脈から判断できることもあれば、判断できないこともあります。1つ目の解釈が正解に決まっているだろうと思われるかもしれませんが、2つ目の解釈も不可能ではないため、上記表現は権利文書の表現としては好ましくないのではないかと考えています。

一義的に1つ目の解釈になるような表現を考えてみると、“also”をとって“X may include Y.”ではどうでしょうか。“also”の代わりに“further”を使って“X may further include Y.”とすることも考えられますが、この場合、XはYを既に持っていて、さらにもう1つYを備えてもよいという解釈も不可能ではないため、私は“further”にも注意しています。これに関連して、XはZに加えてYを備えてもよいし、Zに代えてYを備えてもよいということを表す場合に、“X may further or instead include Y.”と表現されることがあります。“further”を“also”に置き換えた例もあります(実際、“also or instead”の方が使用例が多いです)。しかし、この文章も上記“X may also include Y.”と同様、“further or instead”が示唆する可能性を文脈から判断するという作業を読み手に強いるため、“X may include Y in addition to or instead of Z.”などにした方がより明確だと思います。2つ目の解釈については別の機会に詳しく書きたいと思います。

米国特許訴訟をテーマにした稀有な映画“Flash of Genius”(『幸せのきずな』)

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昨年開いたセミナーにおいて、“Flash of Genius”(邦題:『幸せのきずな』)という映画を紹介しました。これは、米国特許訴訟をテーマにしている非常にめずらしい映画です。Robert Kearnsという大学教授が、自身が発明して特許を取った自動車用間欠ワイパーを無断で使用されたとして、フォード社や(当時の)クライスラー社を相手取り特許侵害訴訟を起こし巨額の賠償金を勝ち取った実話がもとになっています。個人という弱者が大企業という強者に勝つというのはそれだけで興味をそそられる題材ですが、これが実話だというのがこの話をさらに面白くしていると思います。この無謀ともいえる戦いではKearns氏の代理人になってくれる弁護士がおらず、Kearns氏は自分で自分の代理をすることになります。氏が1人図書館に篭り特許の判例研究をするシーンが印象的でした。また、連邦地裁での特許侵害訴訟の模様(もちろん再現)を見ることができ、知財関係者には興味深いところだと思います。

またこの映画では、Kearns氏と家族との関係も丹念に描かれています(邦題が『幸せのきずな』となっているのも分かる気がします)。フォード社から和解の申し出があったにもかかわらず、Kearns氏は発明者としての名誉のために断り、10年以上に渡る訴訟に突き進んでいきます。そのために家族との間に心理的な溝が生じ、氏は家族も代理人もいないという文字通り孤独な戦いを続けていきます。最終的に勝訴したとはいえ、その代償はあまりに大きいと個人的に思いました。

この映画(のDVD)を観ていて、特許翻訳者として気になる点がありました。細かいことをネチネチと取り上げる性格の悪さがバレるのを覚悟で書きますが、私が持っているDVDでは、セリフのなかの“the Patent Office”が字幕では「特許事務所」になっています。文脈から、「米国特許庁」などにしないと意味が通らないところです。が、しかし、その他の部分では非常に簡潔で分かりやすい字幕です。その他の部分では素晴らしい仕事をしているのに、たった1点の間違いについてとやかく言ってしまうこの性格を直したいと思っています。

この映画、ストーリー自体が面白い上に特許英語の勉強にもなるオススメの映画です。

「機械翻訳の現状レポート」

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翻訳業界誌『Amelia』の2017年5月号に「機械翻訳の現状レポート」という特集記事が載っていました。以前から、日本語をソース又はターゲットとした機械翻訳(MT, Machine Translation)は精度に問題があると言われていましたが、この特集によると、現状でもまだ満足のいくMTはできていないようで、ポストエディットと呼ばれる、人間によるレビューがなくてはならないそうです。現状では、MTは社内用の資料など、高い翻訳品質が求められないものによく使われているとのことです。ちなみに、10年以上前に、私はビル・ゲイツ氏の講演を聞きに行ったことがり、そこでゲイツ氏は、完璧なMTの実現は無理だと思うと言っていました(現在は考えが変わっているかも知れません)。

ここで言うMTは、翻訳を最初から最後まで機械に任せる(任せたい)という意味でのMTだと思われますが、多くの翻訳者にとって、MTは翻訳支援ツール(CAT, Computer Aided Translation, キャット)のことを指します。当社もCATを使うことによって「機械+人間」(p.8)による翻訳をしています。つまり、「辞書を引いたり翻訳メモリ*に当たったりなど機械にできることは機械に任せ、翻訳者は人間にしかできない最終判断や表現のブラッシュアップを行う」(p.4)、「機械と人間が力を合わせて翻訳を仕上げていく」(p.7)という方針を当社も採用しています。

この特集で、遠野和子さんという翻訳者が書かれている『人間にしかできない、状況を判断し意図をくみ取った訳を』(p.8)と題した文章に激しく同意しました。文章の中で、人間が機械に負けない点として、次の3点が挙げてられています。

①文脈をつかみ、言葉ではなく意味を訳す
②状況に合わせて文体や表現を選ぶ
③筆者の意図まで読み込み、くみ取った訳文を書く
(p.8)

そして、①~③の結果、「クライアントから「元の日本語より英訳を読んだほうがわかりやすい」と言われたことがありますが、翻訳者として最上の褒め言葉だと嬉しく思いました」(p.8)と書かれています。原文よりも訳文を読んだ方が意味が分かりやすいというのは、まさに当社が目指してきたことです。遠野和子さんの文章と同様のことを次の記事に書いています。

『人力翻訳の生きる道は「血の通った」翻訳』
http://beikokupat.com/blog/?p=60