日英知財研究

クレームのリバイズ


『クレームビルダー!クレームリバイズの依頼がきました。今回の発明は、スター風細胞を作る発明だそうです』

「了解。明細書を見せてくれ。なるほど、発生してどんな動物にもなれる星形(スター風)の細胞を作る方法の発明か!すごいな。じゃあ、クレームを見せてくれ。なんと・・・、これはまた広いクレームだな」

~~~A method to generate a star-like cell, comprising subjecting a cell to a stress」(スター風細胞を生成する方法であって、細胞をストレスに曝す工程を含むことを特徴とする方法)。~~~

『どうしたのですか、クレームがおかしいんですか?そんなにすごい発明なら、クレームが多少おかしくても特許取得確実じゃないですか!?』

「特許取得に発明のすごさはそんなに関係ないんだ。どんなにすごい発明でも、クレームでその発明を十分表現できていなければ特許を取得できないんだよ。」

『でも、クレームに“スター風細胞を生成する方法”と書いてありますし、そんな方法今までなかったのでしょう?』

「よくこのクレームを見てくれ。確かに“スター風細胞を生成する方法”と書いてあるが、これはあくまでもこの方法のネーミングだ。ネーミングに特に意味は無い。“消しゴム”に“自己表現削除装置”という今までなさそうなたいそうなネーミングをつけても、そのネーミングだけで特許が取れるわけではないんだよ。問題は、その物・方法がどのような特徴を備えているかということなんだ。今回の方法がどんな特徴を備えているか見てみると“細胞をストレスに曝す工程”とだけ書いてある。細胞を酸というストレスに曝す工程、ヒートショックストレスに曝す工程、乾燥ストレスに曝す工程など、どこの研究室でも普通にやっている処理がこの表現に該当することになる。また光もストレスの一種だから、細胞を蛍光灯の下において準備しているだけでも、この表現の工程に該当することになるんだ。だから、酸やヒートショックや乾燥などの処理を記載した文献が引例として挙げられ、“引例の処理をスター風細胞を生成する方法に用いようとすることは当業者にとって自明である”と審査官は結論つけるだろうな。もし仮にこのクレームで特許になったとしても、上で述べたような理由を書いて無効審判を請求すれば無効にできるだろうな。」

『確かに、そんな風にいわれたら反論できないですね。じゃあ、この発明は特許を取得できないのですかね・・・』

「そうでもない。まだこのクレームでは、発明の内容が審査の土俵に上がっていないんだ。次のようにリバイズして初めて、発明の本質部分について表現したことになる。」

~~~A method to generate a star-like cell, comprising subjecting a cell to a stress so as to generate a star-like cell from the cell subjected to the stress」(スター風細胞を生成する方法であって、細胞をストレスに曝し、前記ストレス曝した前記細胞からスター風細胞を生成する工程を含むことを特徴とする方法)。~~~

『さっきとあまり変わらない気がしますが、・・・。これもさっきの理由と同じように当業者にとって自明と言われるのではないのですか?』

「よーく見てくれ。元のクレームでは、ネーミング以外の箇所に”スター風細胞を生成する”という内容が全く記載されていないんだ。だから、”スター風細胞を生成する”ことなく単にストレスを与える処理が引例として挙げられ得るんだ。リバイズしたクレームでは、ストレスを与えてスター風細胞を生成している引例を上げる必要があるけれど、明細書の内容からそれは従来無いだろう。これで初めて、今回の発明が審査の土俵に上がれるんだ。もちろんそれでも中には、”(1)細胞にストレスを与える処理は自明、(2)だからその自明な処理を用いてスター風細胞を生成することは自明”、と結論つけてくる審査官もいる。そんなときには、”(1)が自明だからといってその自明な処理を用いて(2)を行うことは自明ではない。審査官は、不当な後知恵(improper hindsight)に基づく審査を行っている”、と反論すればいいんだ。“不当な後知恵(improper hindsight)”とは、答えを知ってからその問題の解決は簡単だったと決めてしまうことを言うよ。例えば、マジシャンが手品をしてすごいな~と思っていても、その手品の種を見てな~んだ大した手品じゃないなと思ってしまうことを言うんだ。答えを見てから判断していたら、すごい発明もすごくない発明だと解釈されて正当な評価ができなくなるため、“不当な後知恵(improper hindsight)”を特許審査に用いることは禁止されているんだ。」

『なるほど、そんな風に議論されると、またまた反論できないですね。』

「審査官が反論できなければ、それで特許になるし、反論してきたらストレスの内容・ストレスの与え方などを限定してリバイズしていくことになる。」


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