日英知財研究

プログラム・判定


『クレームビルダー、いい発明を考えつきました!聞いてください。』

「どんな発明かなぁ?」

『実は私、阪神ファンなんです。試合結果が気になるので、シーズン中は毎朝試合結果のウェブページをi-phoneで見るんです。ですが、毎朝この動作をするのが意外と面倒くさいので、朝になると勝手に試合結果のウェブページを表示するようなi-phone用プログラムを開発したんです!』

「でも、それって一般的にありそうな感じがするねぇ・・・。」

『試合結果のウェブページを毎朝表示するプログラムは従来からあるんですが、それとはひと味違うようにしたんですよ!阪神は弱いので負ける日が多いのですが、負けた朝は試合結果を見たくないので、勝った日だけ試合結果のウェブページを表示するプログラムにしたんですよ!』

「それは確かにひと味違うね、新規性・進歩性もクリアできるかもしれないね。ところでどの国に出願するの?」

『実は日本とアメリカを考えているんです。ちょっとクレームを考えてみたのでリバイズしてくれませんか?みんな使っているi-phone用のプログラムなので、特許を取得できたら儲かるかもしれませんね!』

~~~i-phone用のプログラムであって、

            登録した野球チームが勝ったかを判定し、

            前記野球チームが勝った時に、前記野球チームの試合結果のホームページを翌朝表示する

   ことを特徴とするi-phone用のプログラム。~~~

「なるほど、今回の発明にとって重要だと思われる“判定”を記載したクレームのようだね。でも、君が作ったこのクレームには多くのリバイズが必要かもしれないよ。」

『そんなに変ですか?自分で調べた範囲では、勝ち負けの“判定”をして試合結果ホームページを表示するようなi-phone用プログラムは見つからなかったので、これで特許権を取得できると思うのですが・・・。』

「いろいろ問題点があるのだけど、まずは“プログラム”という記載から見ていこう。日本では“プログラム”の発明が保護対象として認められているけれど(特許法2条3項1号)、アメリカでは“プログラム”の発明が保護対象として認められていないんだ(MPEP § 2106)。」

『え、そうなんですか!じゃあ、アメリカ出願はあきらめようかなぁ・・・。』

「別にあきらめる必要はないよ。“プログラム”とは別の書き方にすれば、今回の発明のコンセプトは保護対象となり得るよ。例えば、方法の発明の形式を使い、“i-phoneに判定させ、i-phoneに試合結果ホームページを表示させる表示方法”という風なクレームにすれば、保護対象として認められ得るよ。また、そのような“プログラム”を記録した“記録媒体”・そのような“プログラム”を記録した“携帯電話端末” という風なクレームにしても保護対象として認められ得るよ。」

『へ~。書き方をちょっと変えるだけで保護対象になったりならなかったりするんですね。じゃあ、今教えてもらったクレームにリバイズすれば、日本だけでなくアメリカでも特許取得できるんですね!』

「ん~ん、日本・アメリカでの特許取得への道はまだまだだと思うよ。次の問題点を考えてみようか。キミのクレームには、“判定”して登録チームが勝った場合に試合結果ホームページを表示するという風に記載してあるけど、従来のプログラムも同じようにしていない?」

『従来のプログラムは試合結果の“判定”なんかしてないんですよ、さっき言ったじゃないですか!』

「キミならそう言うと思ったよ。でも、“判定”って何なのだろう?辞書には、物事を判別して決定することと書いてある。つまり、キミのクレームの“判定”とは、“登録チームが勝った”と決定することを意味しているんだ。その辺を念頭において、従来プログラムで登録チームが2対1で勝って試合結果ウェブページの “2対1:登録チーム勝ち”をある朝表示する状況を考えてみよう。その際、試合結果ウェブページの“2対1:登録チーム勝ち”を表示するための情報を取得すると思う。その取得した情報には、もちろん登録チームが勝ったことを示す“登録チーム勝ち”の情報も含まれている。ということは、従来プログラムでも“登録チームが勝った”と決定していると考えられる。また、従来プログラムでも“登録チームが勝った”場合にはもちろん試合結果の“2対1:登録チーム勝ち”を表示していると考えられる。したがって、従来プログラムとキミのクレームとに相違は見られないことになるんだよ。そのため、新規性欠如と言われるだろうね。」

『え~、そんな一休さんのトンチみたいじゃないですか!でも、そんな風にいわれたら反論できないですね・・・』

「うまいこというね、まさにトンチ合戦なんだ。反論できたら勝ち,できなければ負けなんだ。」

『じゃあ、やっぱりこの発明では特許取得できないんですね・・・。“判定”してるのになぁ・・・。』

「そうでもない、まだキミのクレームは“判定”の本質を利用するようには表現できていないんだ!次のようにリバイズすれば、“判定”の本質を利用するクレームになるよ。」

~~~i-phone用のプログラムであって、

            登録した野球チームが勝ったかを判定し、

            前記野球チームが勝った時に、前記野球チームの試合結果のホームページを翌朝表示する

            前記野球チームが負けた時に、前記野球チームの試合結果のホームページを翌朝表示しない

   ことを特徴とするi-phone用のプログラム。~~~

『えっ、勝った場合のことを敢えて書いてるから、負けた場合は当然表示しないことになるはずでしょう!明細書にもそう書くつもりですし!』

「前にも言ったけど、明細書は明細書。審査で実際に従来技術と比較されるのは原則としてクレームの記載だけなんだ。それと、当然そのように読み取れると大部分の人が考えるような場合であっても、書いていないことは基本的に審査官に理解してもらえないと考えたほうがいいよ。ここが小説などの文系文章と特許などの科学系文章との違いなんだ。小説などの文系文章では、当然なこと・くどいことは書かずに、読み手の想像力を掻き立てる文章が求められている、エンターテイメント性が重要だからだよ。一方特許などの科学系文章では、読み手に想像力を要求せず、一義的に内容を伝えられる文章が求められている、内容の伝達性が重要だからだよ。読み手の想像力に依存して内容が変わって伝達されたら大変なことになるからね。」

『判定の事と勝った時の事とを記載したら、負けた時のことも記載した気持ちになっていましたが、それがダメだったんですね。“判定”と書いているのにクレームビルダーは何でわかってくれないんだろうと内心思っていたのですが、そういうことだったのですね!』

「そうなんだ。特許の文章はわかりきったことを回りくどく書いていると感じるかもしれないけど、それなりの理由があるんだ。日本の特許審査では、直接書いていない内容でも善意的に想像力を働かせて読み取ってくれることもあるけれど、アメリカなどの海外の特許審査では、直接的に書いていない内容に対して想像力を働かせて読み取ってくれることは皆無に等しいよ。今回の”判定”のような場合には、一方(勝ち)の場合を記載したら必ず他方(負け)の場合を記載するように習慣つけたほうがいいよ。」

『わかりました!従来のプログラムでは負けた場合にも表示してたから、これで従来技術との差別化ができたんですね!じゃあ、今教えてもらったクレームにリバイズすれば、特許取得できるんですね!』

「ん~ん、まだまだ問題があると思うよ・・・。」


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