日英知財研究

「略」・「Approximately」


『いま米国出願の英訳をしていて、クレームに“略均一な厚壁”と書いてあるんです。なんでわざわざ“略”って書いてあるんですか。』

「特許の世界では、明細書に記載した内容ではなくて、クレームに記載された内容に対して独占権が与えられるのだったよね。“略”を取って単に“均一な厚壁”とクレームに書いてあった場合、どこまでを均一と解釈するかで“厚壁”の範囲が変動することになるからだよ。例えば、最新機械で“厚壁”の右端から左端までを測定して全部が完全に同値と認められたものだけが“均一”に該当すると解釈する人がいたら、クレームの“厚壁”の範囲が非常に狭いものになってしまうからだよ。この人の解釈の下では、右端と左端とで測定値が少し変わるように変更するだけで、クレームの“厚壁”に該当しなくなり、独占権から逃れられることになってしまう。そのような変更に対しても権利を行使できるようにするために、“略均一”と書かれているんだよ。“実質的に”と書かれていることもよく見るよ。」

『なるほど。では、この“略”にはどんな英語を用いたらいいんですか。』

「“approximately”がいいと思うよ。米国でこの“approximately”は、適度に近いことを意味する・数値範囲の正確な上限/下限を取り除くことを意味する、と認められているからね(Quantum Corp v. Rodine, PLC CAFC. 1995))。“substantially”という表現もあるんだけど、米国ではこの表現の定義がよく論争になっているみたいだしね(Faber on Mechanics of Patent Claim Drafting)。」

『では“approximately”を使いますね。』

「今回は米国出願だから違うけど、PCT英文明細書などで韓国に国内移行するときには気をつけてね。韓国では、“approximately”の対訳になるような“略”・“約”などがクレームに出てくると、韓国特許法42条4項2号が指摘され、不明確による記載不備が通知されるからね。韓国では、“略”・“約”などが指すその比較の基準や程度は明確なものでなく保護を受けようとする事項を具体的に特定できない、と解釈されているんだ(韓国特許出願における留意点)。」

『え、じゃあ、韓国に出願するときにはどうすればいいんですか。』

「明細書中に、“均一”とは略均一のことも意味するというように定義しておいて、クレームからは“略”を取り除くという対策があるみたいだよ(韓国特許出願における留意点)。また、“approximately”の対訳になるような“略”・“約”は指摘を受けるけれども、“substantially”の対訳になるような“実質的に”をクレームに用いた場合には、指摘を受けずに特許を付与されることも多いみたいだから、英語の“approximately”(日本語の“略”)が韓国語の“実質的に”を意味するように韓国語訳するのもいいのではないかな。」

『へ~、国によって表現も変えていかないといけないんですね。』


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