特許出願における英語翻訳文をより良いものにするために

 本稿は、ジェームズ・バーロー米国弁護士が執筆した記事(英文)を弊社が日本語訳し、再構成したものです。英語原文(”Improving English Translations of Patent Applications”)は、本稿2ページ目にあります。

 本稿の掲載を快く承諾してくださったバーロー氏と、バーロー氏の元勤務先であるオンダ国際特許事務所(www.ondatechno.com)に感謝致します。
 

特許出願における英語翻訳文をより良いものにするために
ジェームズ・バーロー

 私は日本で約3年にわたり、特許出願のための英語翻訳文を校正してきました。また、米国特許庁に審査官として勤務していた際には、ヨーロッパ各国からの多くの翻訳文を目にしてきました。その中で気付いたことは、特許明細書の翻訳文には多くの問題があることです。これらの問題点を指摘することにより、特許明細書の翻訳に携わる人々の手助けになれば幸いです。
 私の提案は、日本語明細書作成者に向けたもの、翻訳者に向けたもの、日本語明細書作成者と翻訳者の双方に向けたものがあります。本稿ではそれぞれを、1.特許出願における日本語明細書作成者及び翻訳者に向けての助言、2.日本語明細書作成者に向けての助言、3.翻訳者に向けての助言、の3つに分類して述べてまいります。


目次
1.日本語明細書作成者及び翻訳者への助言
2.特許明細書作成者への助言
3.翻訳者への助言
4.結論


 

1.日本語明細書作成者及び翻訳者への助言
(1)文は短く
 翻訳者及び日本語明細書作成者は、長文を用いないでいただきたい。翻訳文中の長文は、日本語で書かれた原文がそもそも長いと考えられます。しかし、英語翻訳者が短文を用いてはならないという理由はありません。日本語明細書作成者によって書かれた長文は、翻訳者にとって理解しづらいものです。同様に、翻訳者によって書かれた長文は、特許の審査官や他の関係者にとっても理解しづらいものです。翻訳文が長くなる原因の1つは、主語をそれぞれの動詞に合わせることが翻訳者にとって難しいことです。しかし、日本語明細書作成者も翻訳者も、2~3行にわたる文は全て、短文にすべきです。文章をより短く書くことによって主語と動詞がより密接な関係を持つようになり、したがってその文は明確になります。

(2)簡潔な言葉を用いる
 一般に、特許明細書であれ何であれ、平易かつ簡素で短い表現こそ最良の表現です。このことは、私が繰り返し主張する次のこと、即ち、米国における特許明細書の最も重要な読み手は、技術的背景を持たない判事または陪審員であるということと関連します。日本語明細書作成者及び翻訳者は、意味が同じであれば、難しい言葉よりも簡単な言葉を選んでください。つまり、日本語明細書作成者及び翻訳者は、意味が同じであれば、特殊な言葉よりも一般的な言葉を選んでください。

(3)技術用語の選択
 ネイティブの読み手にとって不自然な言葉が、英訳文中に部材として選ばれていることがあります。これが日本語明細書作成者または翻訳者のどちらに起因するのかは定かではありません。例えば、「member(部材)」などは使いすぎではないでしょうか。この「member」は記述的ではないため、他の言葉がない場合にのみ使うべきです。明細書の最終的な目的は詳細に説明することにあるので、何も詳細に説明しない言葉は、単に紙面の無駄使いにすぎません。この「member」は、「piston」などの別の言葉に加えられて、「piston member(ピストン部材)」といった複合語となることもあります。しかしこの「piston」は十分に記述的な言葉ですから、「member」という言葉を足したところで何も変わりません。「piston member」は、「piston」に単に変更すべきです。「member」と同様に、「portion」という言葉も、記述的な言葉が他にない場合を除いて使わないほうがよいでしょう。
 「member」及び「portion」といったこれらの言葉は、標準的な名称がなく、書き手がその名称を創らなければならない部材にのみ使えます。その場合、「rotating member(回転部材)」のような記述的な複合語としたほうがよいでしょう。
 一方で、明細書作成者は、より広い概念を権利範囲に含めるためにクレーム中で使う「rotating member」などの言葉を、明細書中でも使うこともあります。しかし、「pulley」などの標準的な言葉を明細書中で使いながらも、「rotating member」という言葉をクレーム中で使うことはできます。以下のような文章を書けばよいでしょう。

 Figure 3 shows a rotating member, which, in this embodiment, is a pulley 23.
(図3は回転部材、即ちプーリ23を示す。)

 上の例文では、1)pulley及び2)rotating memberという2つの名称を同一の部材に使っています。こうすることで書き手は、「pulley」という標準的な言葉を一貫して明細書全体に使えます。このように書かれた明細書はより読み易く、より理解し易くなります。そして更に、クレーム中で「rotating member」という言葉を使う裏付けにもなります。
 また、標準的な言葉を常に使うべきです。本稿の読者の大半はすでにご承知かと思いますが、標準的な英語の言葉を知るには、ネイティブスピーカーにより書かれた先行技術文献が最良です。技術辞典 なども良いソースでしょう。翻訳をよりよくするために、明細書作成者は、ネイティブスピーカーにより書かれた先行技術文献を翻訳の依頼時に翻訳者に提供するとよいでしょう。
 特定の製品に関する特許出願を数多く行うような大企業は、部材名称を日本語と英語で併記した部材リストを作成すべきです。そうすることで、その部材リストは翻訳の依頼時に翻訳者に配布されるでしょう。このようなリストに記載される英語の名称は、過去の特許明細書翻訳文に基づいていると誤りを含むことがあるので、ネイティブスピーカーにより書かれた特許明細書を典拠とすべきです。そうでなければ、ネイティブスピーカーにそのリストをチェックさせるとよいでしょう。
 また、日本語明細書作成者及び翻訳者は、カタカナで書かれた名称が正確な英語の部材名称を表していると考えるべきではありません。私はこれまで、カタカナ表記に由来する、正確でない英語名称を数多く目にしてきました。これは、「外来語」が日本語として浸透する際に、新しい別の意味が付加されることに起因すると思われます。また、カタカナでの名称は省略されることがありますので注意が必要です。例えば、カタカナの「ブッシュ」は、「bush(やぶ、茂み)」ではなく、「bushing」と英訳しなければなりません。

(4)冗長表現を避ける
 翻訳文では時に、不要な繰り返しが多く見受けられます。例えば、「a spring 10 on the rod 14」として紹介された部材はその後、単に「the spring 10」と言及すればよいのですが、この部材を毎回、「the spring 10 on the rod 14」と記載している翻訳文があります。この繰り返しは不要であるばかりか、明細書を読みづらくしています。
 また、「a heat transferring fin 24」と紹介した部材はその後、「the fin 24」と単に言及すればよいのです。このフィンを「the heat transferring fin 24」と毎回呼ぶことで文章は読みづらくなります。そして、翻訳料が英語のワード数を基準に設定されている場合は、翻訳料が膨れ上がります。

(5)ETC.(等)の使用を避ける
 英語の省略形である「etc.(等)」は、「and so on」を意味します。詳細に説明するという米国特許明細書の目的からすると、この言葉を明細書中に使うことに意味はありません。この「etc.」という言葉は何も特定しないからです。審査官によって開示が問われているとき、また、開示について裁判所で質問されているとき、「etc.」という言葉が発明を開示していると、審査官に反論することはできません。同様に、「etc.」という言葉によって開示されている案件が、米国におけるベストモード要件を満たしているとは言えません。「etc.」と通常訳される「等」を明細書中に使うことは何の害にもなりませんが、同じく何の意味にもなりません。

2.特許明細書作成者への助言
 翻訳文の問題はまず、翻訳者に責任があると思われがちですが、私の経験では、これらの問題点の多くは、日本語明細書作成者によって回避できると考えています。ここでは、母国語にて特許明細書を作成する書き手に対していくつか提案をしてみます。

(1)一般的な読み手に向けて書く
 良い翻訳文には、以下の3つの要素が最も重要であると考えます。

1.正確さ
2.明確さ
3.自然な語法

 最終的な翻訳文がどれほど自然であるかついては翻訳者に依存しているため、日本語明細書作成者がこの点について影響を及ぼすことは難しいでしょう。しかし日本語明細書作成者は、大卒レベルの人が通常理解できるような書き方によって、翻訳文がどれほど正確かつ明確となるかついて多大な影響を及ぼすことが可能です。即ち、日本語明細書作成者は、翻訳者が完全に理解できるように明細書を作成すればよいでしょう。
 世界中の多くの特許明細書作成者は、自分たちのクライアント及び特許専門家が読み手であるかのように明細書を書いているようです。特に日本では、一般の人々は明細書を理解しなくともよいと考えられているように見受けられます。一方で、多くの翻訳者は言語に関する教育を受けているものの、技術的背景についての教育は殆どまたは全く受けていません。したがって翻訳者は、専門家に向けて書かれた資料を理解しづらいものです。そして翻訳者の作業時間が増加し、これに合わせて誤りが生じる可能性も増加します。更に、定義されていない用語や不明瞭な表現を日本語明細書作成者が使うことにより、翻訳者の作業をより困難にしています。これに対して、専門知識のレベルがそれほど高くなく、専門用語にも不慣れな人々を対象に明細書を書くことで、例えば英語に関する知識がない特許明細書作成者により書かれた明細書であっても、翻訳文の質の向上が期待できます。
 一般的な人々に向けて明細書を書くことの恩恵は他にもあります。米国では通常、判事及び陪審員は専門家ではありません。従って、一般的な人々に向けて書かれた明細書であれば、その特許に対して米国で訴訟が起こされた場合でも、判事や陪審員はその発明を理解し易くなるでしょう。(陪審員が必要となる場合は)陪審員及び判事がその発明を理解し、その価値を認めた場合には、その特許権者は訴訟において有利になると、多くの米国特許弁護士が言うことでしょう。更に、一般的な人々に向けて明細書を書くことによって、関係する特許の代理人、特許弁護士、及び審査官はその発明をより容易に理解するでしょう。これらの人々が発明を迅速に理解するということは、誤りが生じる可能性が減り、明細書に対処する費用も少なくなります。
 例えば遺伝子工学のような主題の多くは複雑すぎるため、一般的な人々に向けて明細書を易しくすることはできないという特許明細書作成者もいることでしょう。しかし、用語解説を付加したり、文書構成を工夫することによって、殆ど全ての主題を易しくすることができます。このタイプの書き方は、新聞雑誌売場にある一般読者向けの雑誌などで見ることができます。これらの雑誌は、平易な用語を使いながらも、バイオテクノロジー及びコンピュータにおける最新の傾向に関する記事を掲載しています。

(2)辞書にない用語を定義する
 テクノロジーの先端にいる発明者による発明を起草するにあたり、特許明細書作成者は辞書に記載されていない言葉を使わなければならないこともあります。そしてこれは、翻訳者の作業をも困難にします。発明者らはまた、自らの発明または発明の部材のために、新しい言葉を創り出すことがあります。特許明細書作成者はクライアントからこれらの造語を耳にし、それらの造語が一般に使われているのであろうと想定します。しかし、これらの造語が明細書に使われることで、翻訳者の作業は更に困難になります。ある言葉が新語もしくは造語である場合、明細書作成者は明細書においてその定義を記載するべきでしょう。

(3)日本語明細書作成者は全ての動詞に必ず主語を付けなければならない
 日本語では、主語を明確にすることなく文章を書くことができますが、英語ではそれは不可能です。明確な主語のない英文は文法的に誤っており、このような英文が審査官の目に留まれば、その発明は米国特許庁から拒絶されることになります。文章が長い場合には特に、日本語から英語への翻訳者は、主語を明確にしづらいものです。

(4)特殊な特許用語を避ける
 特許用語のいくつかは、特許分野に不慣れな人々にとって奇妙に聞こえます。これらの用語はネイティブスピーカーによって書かれた米国特許明細書にもしばしば見られますが、それらの用語が日本の特許明細書においても使われていることを、多くの翻訳者が指摘しています。以下は、熟練翻訳者によって挙げられた、日本語の特許明細書に多い、訳しづらい日本語の例です。

1.係止
2.植設
3.枢着
4.支承

 熟練特許翻訳者であれば、これらの一般的でない言葉を正しく理解するでしょう。このような言葉は習慣的に使われているのでしょうが、簡単に理解できる一般的な言葉を使うべきです。

(5)図面を活用する
 図面に明示されている構成要素であるにもかかわらず、それらの構成要素を詳細に記述している特許明細書をよく目にします。こういった記述は作成者の時間を無駄に費やすばかりでなく、翻訳に要する時間と費用をも増やします。米国での特許実務では、適切な開示に関する限り、図面は明細書と同程度の信頼性を有するとみなされます。つまり、作成者が図面を活用して明細書を作成すれば、その作業時間を減らすことができます。クレームされるべき重要な特徴は、安全のために明細書中に詳細に説明しつつ、図面にも詳細に記載することを推奨します。しかし、発明の核心ではない特徴は、図面を活用して記載することで、文章量を減らすことができます。例えば、明細書作成者は、ある曲線状の部材を不必要に長く記述する代わりに、単に「the arm 25 is curved toward the base 15 as illustrated in Figures 5 and 6(アーム25は図5及び図6に示すように基部15に向かい湾曲している)」と書くことができます。これは図面の活用例ですが、図面に翻訳は必要ないために翻訳費用の削減につながるとともに、誤りが生じる可能性も少なくなります。
 原文作成者は翻訳文の責任を取ることはできませんが、責任を持って図面を作成することはできます。つまり明細書作成者は、完全な図面を作成し、それらの図面を活用して明細書を記述することによって、外国出願の明細書を明確で正確なものにすることができます。

(6)わかりやすい比較対象を使う
 複雑な発明の特徴を説明するための補助として、一般的な比較対象がよく用いられます。例えば米国特許第5,287,133号は、長い配水管の内部をフィルム撮影するための装置を記載しています。この装置はミニチュアの潜水艦に似ており、水流によって移動します。この装置は流水中を自由に浮動し、ライト及びカメラを備えています。この発明の主な特徴は、この装置が水流と同じ方向を向いた状態となるよう設計されていることです。つまり、カメラはフィルム撮影のために常に一定の方向を向いていることになります。水流と同じ方向を向いた状態にこの装置を保持するよう作用する力の詳細な説明は、非常に複雑で長くなり、これは翻訳にも多くの時間を必要とします。一方で、この装置は風向計と同様に作用すると単に記載するだけで、この装置が説明されます。多くの人は、風向計が風と同じ方向を向く様子を目にしたことがあるでしょう。このように比較対象を用いることで、翻訳者及び出願に携わる他の全ての人々は、この発明を容易に理解するでしょう。そして、米国においてこの特許が訴訟の対象となった場合、判事及び陪審員はこの発明をすぐに理解するはずです。

(7)アルファベットを部材参照符号として図面中に使わない
 日本語明細書作成者は時に、部材参照符号としてアルファベットを使います。アルファベットは日本語の文字の中でよく目立つため、日本語の明細書中にアルファベットを使用することは効果的であるかもしれません。一方で、部材参照符号としてのアルファベットは、英語の文字の中に埋もれてしまう場合があり、アルファベットによって実際に混乱が生じることがあります。「a」という文字が部材参照符号またはその一部として日本語の明細書中に使われていることがありますが、この「a」は英語では一つの単語ですから、英語の翻訳文で「a」という部材参照符号が使われると、単語としての「a」と混同する可能性があります。以下に示す文は、更なる例を含みます。

 When the ignition timing delay amount aknksm is smaller than the reference value C, the processor then executes step 100.
(点火タイミング遅延時間aknksmが参照値Cよりも小さい場合に、プロセッサはステップ100を実行する。)

 上の文では「aknksm」は部材参照符号ですが、この言葉は他の言葉から目立つものではありません。英語を母国語とする読み手であればまず、この言葉は何らかのタイプミスではないかと考えるかもしれません。この明細書の日本語版では恐らく問題がなくても、英語版では大文字または数字を使うことで、遥かにプロフェッショナルに見られます。そしてその場合、この部材参照符号は文中にて目立つものとなります。部材参照符号を選択する際には、作成者は、英語またはその他の西洋言語の中でこの部材参照符号が使われた場合にどのように見えるかを考慮すべきでしょう。

3.翻訳者への助言
(1)挿入句の使用を制限する
 挿入句は付加的な情報を提供するための句であって、文の要点ではありません。以下は挿入句を用いた例文です。

 A is connected to and driven by B, which may be an engine or an electric motor, for rotating the main shaft C.
(エンジンまたは電気モータであるBに連結されるとともにBによって駆動されるAは、主軸Cを回転させる。)

 「which may be an engine or an electric motor」の部分は、文の要点を裏付ける上で必要ではない、付加的な情報を提供する挿入句です。挿入句を用いた文はより長く、読みづらくなります。上の例文は2つの文に分けて書くことで、以下のように簡潔にすることができます。

1.A is connected to and driven by B for rotating the main shaft C.
2.B may be an engine or an electric motor.

このようにすれば、各文はそれぞれ単一の要点のみを支持するものとなり、文全体として読みやすいものになります。そして、英語のネイティブスピーカーにとって意味のない文を偶発的に書いてしまう危険性を減らすことができます。

(2)できるだけ肯定的に表現する
 否定的な文は、肯定的な文にできるだけ書き直しましょう。以下は否定的な例文です。

 The engine will not run efficiently unless the fuel/air ratio controller is employed.
(空燃比制御装置が用いられない限り、エンジンは効率的に作動しない。)

 これを肯定的に書き直した文が以下です。

 Employing the fuel/air ratio controller will improve the efficiency of the engine.
(空燃比制御装置を用いればエンジンの効率が向上する。)

 肯定的な表現で書くことで、翻訳文はより読みやすく、効果的になります。更に、米国のクレームでは、否定的な表現は一般的に禁止されていますので、明細書を肯定的に表現することで、翻訳者は、肯定的なクレームの表現の裏付けを提供することができます。

(3)冠詞を使う
 いくつかの特許明細書は、冠詞を使わずに書かれています。これはネイティブスピーカーが書いた特許明細書であっても時折見られますし、翻訳文であってもたまに見られます。以下は、冠詞が省略されている例文です。

 Hinge 14 supports door 16 so that door 16 can be opened or closed.
(ヒンジ14はドア16が開閉可能であるようにドア16を支持している。)

 これは口語的な文であり、ネイティブによっては違和感がないかもしれません。しかしこの文から部材参照符号を取り除くと、違和感が明確になります。一方で以下の例文は、部材参照符号の有無に関わらず正しくて違和感はありません。

 The hinge 14 supports the door 16 so that the door 16 can be opened or closed.

 特許明細書は、たとえ部材参照符号を取り除いても正確に読まれるように書かれるべきです。このように書くことによって、明細書はよりプロフェッショナルなものとなります。

(4)簡潔に書く
 簡潔に書かれた文章では、単語は効率良く使われています。つまり、必要以上の言葉を使うことなく説明されています。私が行う翻訳文の修正の多くは、不要な言葉を削除することです。よって翻訳者は、翻訳文がプルーフ・リーディングされる際に文の意味を変えることなく削除できる言葉を選ぶべきです。以下は、17語の例文です。

 This causes unnecessary operation of the motor and increases the amount of power consumed by the motor.
(これによりモータの不要な動作が生じ、モータによって消費される電力が増加する。)

 以下は、9語の同じ意味の文章です。

 This causes unnecessary motor operation and increases power consumption.
(これによりモータの不要な動作が生じ、消費電力が増加する。)

 以下は、電機関連の特許明細書からの、97語の例文です。
 “As shown in Figure 3, when the power supply voltages of 5 volts and 3 volts are provided to the inner circuits, the higher voltage of 5 volts is provided first, and the lower voltage of 3 volts is provided after a delay of some µ seconds. During the delay period of the some µ seconds in which the power supply voltage of 5 volts is provided and the power supply voltage of 3 volts is not provided, all of the signals in the circuits operational with the supply voltage of 3 volts are regarded as low.”
(図3に示すように、5ボルト及び3ボルトの電力供給電圧が内部回路に供給された場合、高い方の電圧5ボルトが最初に供給され、低い方の電圧3ボルトが数μ秒の遅延期間後に供給される。5ボルトの電力供給電圧が供給され、3ボルトの電力供給電圧が供給されていない数μ秒の遅延期間中、3ボルトの供給電圧にて動作する回路内の全信号はローとみなされる。)

 以下は、70語の同じ意味の文章です。

 “As shown in Figure 3, when the power supply voltages of 5 volts and 3 volts are provided to the inner circuits, the higher voltage of 5 volts is provided first, and the lower voltage of 3 volts is provided after a delay of some µ seconds. During the delay period, all of the signals in the circuits operational with the supply voltage of 3 volts are regarded as low.”
(図3に示すように、5ボルト及び3ボルトの電力供給電圧が内部回路に供給された場合、高い方の電圧5ボルトが最初に供給され、低い方の電圧3ボルトが数μ秒の遅延期間後に供給される。遅延期間中、3ボルトの供給電圧にて動作する回路内の全信号はローとみなされる。)

 「delay period」という言葉は一度定義しているので、繰り返す必要はありません。つまり、単なる繰り返しは削除できます。語数が多すぎる特許明細書は読みづらくなるばかりでなく、翻訳料を引き上げることにもなります。

(5)受動態と能動態
 日本語から英語への翻訳文では、能動態をわざわざ受動態にすることがあります。しかし、英文の品質を最終的に良くするには、できるだけ能動態にすべきです。以下は、同じ意味の、受動態と能動態の例文です。

 受動態:This results in the water temperature being maintained at a constant rate.
(このことにより、水温が一定温度に維持される。)
 能動態:This maintains a constant water temperature.

 受動態:The sleeve 23 is urged toward the plate 25 by the spring 28.
(スリーブ23は、バネ28によって平板25の方向に押圧される。)
 能動態:The spring urges the sleeve 23 toward the plate 25.

 能動態にすることで文章は読みやすく、簡潔になります。そして能動態の文章は、語数が減ります。ワード数に基づいて報酬を得ている翻訳者は、能動態の文章を書くことで翻訳料が減ることを嫌うかもしれません。しかし、自分の実力を高めたいと思う翻訳者は、文章を能動態で書くべきです。もちろんネイティブであっても受動態の文章を書きますが、これがあまり頻出すると、その明細書の翻訳はネイティブによるものではないと思われます。

(6)名詞を形容詞に変えて文章を短くする
 多くの翻訳者は、形容詞を使って文章を短くすることが少ないようです。しかし、先に述べたように、短い文章は読みやすいく、ネイティブまたは同等の人によって書かれたとみなされるでしょう。以下は、名詞を形容詞に変えて改善した例文です。

 改善前:The rotation of the pump produces a stream of fluid.
(ポンプの回転によって流体の流れが生じる。)
 改善後:The pump rotation produces a fluid stream.

 改善前:Noise from the fan makes the operator uncomfortable.
(ファンの騒音によって、オペレータは不快感を覚える。)
 改善後:Fan noise makes the operator uncomfortable.

(7)部材参照符号を部材名称に使わない
 翻訳者は、部材参照符号を部材名称として使わないでいただきたい。これは、多くはないものの、以下の例文のようにたまに見られます。

 The controller controls the components 16, 22, and 25.
(制御装置は部材16、22、及び25を制御する。)

 上の例文では、部材参照符号16、22、及び25の部材名称が省略されています。たとえ翻訳者が犯した部材参照符号のタイポであっても、その文章の実質的な誤りとなる場合は、不適切な開示とみなされる場合があります。これは、部材参照符号に依存することなく文章を書くことで、タイポに起因する深刻な問題が生じる危険性は減ります。以下は、上の文章を書き直した例文です。

 The controller controls the actuator 16, the igniter 22, and the valve 25.
(制御装置はアクチュエータ16、点火装置22、及び弁25を制御する。)

(8)空間的表現を適切に使う
 空間的表現として、「top」、「bottom」、「up」、「down」、「above」、「below」、「vertical」、及び「horizontal」があります。これらの言葉は全て、その意味的前提として視座が必要です。例えば、歯ブラシに関する出願があるとします。歯ブラシには通常、頂部または底部が定義されていないため、書き手が図面を参照して歯ブラシの頂部を最初に定義することで、歯ブラシの頂部をはじめて明細書中に言及することができます。一方で、机に関する発明の場合、机には当然ながら誰もが知る頂部があるため、それを最初に定義することなく言及することができます。そして、机が置かれる水平な床が視座となるため、机に関してhorizontal、vertical、up、及びdownを使うことができます。ところが歯ブラシには視座がないため、最初に視座を定義しなければなりません。これを簡単に行うには、図面を視座として使うことです。つまり、以下のように書いてはいけません。

 “the bristles of the toothbrush extend horizontally.”
(歯ブラシの毛は水平方向に延びる。)

 これは、以下のように書けばよいでしょう。

 “the bristles of the tooth brush extend in the horizontal direction of Fig. 1.”
(歯ブラシの歯は、図1の水平方向に延びる。)

(9)「that」と「which」を正しく使う
 英語の翻訳文では、「that」と「which」という言葉は時に正しく使われません。これらの言葉の後には様々な情報が提供されるため、これらを正しく使うことで、翻訳者は誤りや混乱なく文章を記述できます。
 「that」という言葉は、その後に続く情報が重要であることを読み手に示します。一方で「which」は、その後に続く情報が補足的なものであることを読み手に示します。以下の例文1)を参照してみましょう。

1)The rod 15 that has the longitudinal groove 155 is fitted to the sleeve 25.
(長手方向の溝155を有するロッド15は、スリープ25に嵌合される。)

 上の例文の「that」は、それに続く情報が特定のロッドを識別することを示します。つまり、溝に関する情報は単なる補足的ではない重要な情報であり、溝を有するロッド15のみがスリーブとともに使えることを示します。以下の例文2)を参照しましょう。

2)The rod 15, which has a longitudinal groove 155, is fitted to the sleeve 25.

 上の例文の「which」は、溝に関する情報が補足的であってそれほど重要でないことを示します。実際に、「which has a longitudinal groove 155」という文を削除しても意味は通じます。上の例文2)の「which」の前と「155」の後のコンマもまた、その情報が補足的であること読み手に示します。これらのコンマは文法上必要とされています。
 翻訳者が「that」と「which」を区別しておらず、補足的な情報を囲むコンマも使っていない英語翻訳文では、その情報が重要なのか補足なのかをその読み手が判断することができません。
 「that」という言葉が、正しく使われ、重要な情報を知らせていれば、この後に続く語句を省略できることもあります。例えば文1)は、文3)または文4)に書き換えることができます。

3)The rod 15 having the longitudinal groove 155 is fitted to the sleeve 25.
4)The rod 15 with the longitudinal groove 155 is fitted to the sleeve 25.

 「that」と「which」を正しく使い、コンマを適切に挿入することで、ノンネイティブの翻訳者であっても、ネイティブより高い水準の英文を書くことができるでしょう。

4.結論
 正確さはあらゆる翻訳文において重要です。翻訳文は、英文スタイルが正しくとも内容が不正確なものよりは、英文スタイルに誤りがあっても内容が正しいもののほうがよいとされています。しかしもし、少なくとも内容が正確であれば、英文スタイルが正しいほうが、洗練された、高いプロの水準にある翻訳文であるとみなされるでしょう。私の経験に基づく、本稿に示したこれらの事項が翻訳における多くの問題を解決し、それにより特許出願用翻訳文が高い品質のものとなることを期待しております。

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