『科学論文の英語用法百科』から学ぶ特許英語~any~

グレン・パケット著『科学論文の英語用法百科』を題材に、特許翻訳における適切な英語表現について考えていきます。※※

今回は、「any」(p.60-65)について見ていきます。

1.第1編 よく誤用される単語と表現 Chapter 12 ~any~

12.1 否定的な表現での誤った用法

12.1.1 主語を修飾する場合

否定文では、anyで主語を修飾することはできないとされており、そのような誤用例とリライト例が3組紹介されています。そのうちの1組を以下に示します。

誤用例[1] Though a multi-pronged string is thought to exist in type II string theory, any corresponding supergravity solution has not been found yet.
リライト例(1) Though a multi-pronged string is thought to exist in type IIB string theory, no corresponding supergravity solution has yet been found.

このように、any +[名詞]+[否定動詞]が、no +[名詞]+[肯定動詞]で修正されています。

12.1.2 主語である場合

代名詞anyが否定文の主語になっている場合も、上記と同様に誤用とされています。

誤用例[4] However, it should be stressed that in this case any of these schemes is not sufficient.
リライト例(4) However, it should be stressed that in this case none of these schemes is sufficient.

[4]では、anyがisの主語になっています。

12.1.3 その他の場合

ここでは、上記1.1, 1.2で扱った問題以外の、その他の三つの問題について解説されています。

形容詞として誤用される場合
誤用例[5] But note that in (3.3) there is not any mass term.
リライト例(5) But note that in (3.3) there is no mass term.

ここで見られる問題について、次のように解説されています。

[5]と[6]は、文法的に間違っていないが、表現がぎこちない。この例が明白に示すように、たいていの場合において、[否定表現]+[(任意の)名詞](ここで考えている例には「任意」という意味はanyによって表される)のような構造は、[肯定表現]+ no +[名詞]に置き換えるべきである。 

副詞として誤用される場合
誤用例[8] The first method is not any simpler than the second.
リライト例(8) The first method is no simpler than the second.

[8]も、文法的には間違っていないものの、リライト例の方が表現的にはるかに望ましいと解説されています。

名詞として誤用される場合
誤用例[9] Under less extreme conditions, this process produces many descendants, but in the present case it produces not any.
リライト例(9) Under less extreme conditions, this process produces many descendants, but in the present case it produces none.

12.2 誤って複数名詞を修飾する場合

ほとんどの場合、anyが複数名詞を修飾することはできないとされており、この理由について次のように解説されています。

なぜなら、ある集合の各元を同時に指すallとは異なり、anyは任意のある一つの元を指すからである。

次の誤用例では、any latticesをany latticeにすべきとされています。

誤用例[1] However, it is generally difficult to calculate the elastic constants for any lattices.

12.3 その他の誤った場合

最後に、any自体が不必要な場合や、他の語の方が適切である場合にanyが用いられている場合が紹介されています。紹介されている7組の誤用例・リライト例のうち、1組を以下に示します。

誤用例[5] In fact, any interaction vertex shown in Fig. 3 has the following properties:
リライト例(5) In fact, each interaction vertex shown in Fig. 3 has the following properties:

ここで見られる問題について、次のように解説されています。

これらの誤用例の主な問題は、"any"が示している意味、すなわち、それによって修飾されている名詞が任意だ、という意味がふさわしくないことにある。


※本記事は、著者グレン・パケット氏の許可を得て作成しています。
※※本記事は、判例(英文法だけでなく特許明細書の記載内容など様々な証拠を考慮して判断される)とは相容れない部分がある可能性があります。本記事は、純粋に英文法の側面から見た適切な英語表現を考えていくことを目的としています。


2.『科学論文の英語用法百科』について

学術論文における英作文についての解説書シリーズ。現在、「第1編 よく誤用される単語と表現」と「第2編 冠詞用法」が出版されている。

筆者は、9年間にわたって、日本人学者によって書かれた約2,000本の理工学系論文を校閲してきた。その間、「日本人の書く英語」に慣れていく中で、日本人特有の誤りが何度も論文中に繰り返されることに気付いた。誤りの頻度は、その英語についての誤解がかなり広く(場合によってほぼ普遍的に)日本人の間に浸透していることを反映しているだろう。そのような根深く定着している誤りに焦点を当て、誤りの根底にある英語についての誤解をさぐり、解説することがシリーズの基本的な方針になっている。(第1編「序文」より)

第1編 よく誤用される単語と表現

シリーズの第一巻となる本書では、日本人にとって使い方が特に理解しにくい単語や表現を扱っている。

第2編 冠詞用法

冠詞についての誤解が原因となる日本人学者の論文に見られる誤りの多さ、またその誤りに起因する意味上の問題の深刻さがゆえに、当科学英語シリーズにおいて冠詞が優先度の高いテーマとなり、この本を第二編とすることにした。(p.1)

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