第16回:米国特許法の基本~米国特許商標庁の手続におけるクレーム解釈(その4)~(2020年3月31日)

2020年3月31日
著者:小野 康英(米国特許弁護士、日本国弁理士)

前回は、BRI基準及びPhillips基準の比較検討の目的で、いずれの基準を用いるかによりクレーム解釈の結論が分かれたPPC Broadband事件を紹介した。今回は、BRI基準及びPhillips基準の比較検討の目的で、いずれの基準によってもクレーム解釈の結論が同一になるとしたPower Integrations事件を紹介する。

In re Power Integrations, Inc., 884 F.3d 1370 (Fed. Cir. 2018)

1.事件の経緯

(1)特許発明

U.S. Patent No. 6,249,876(876特許)はスイッチング電源のスイッチング周波数をジッタさせることにより、電磁障害(EMI: Electro-magnetic interference)ノイズを低減させるディジタル周波数ジッタ印加回路に関する。

876特許のclaim 1は次のとおり規定する。

  1. A digital frequency jittering circuit for varying the switching frequency of a power supply, comprising:
  an oscillator for generating a signal having a switching frequency, the oscillator having a control input for varying the switching frequency;
  a digital to analog converter coupled to the control input for varying the switching frequency; and
  a counter coupled to the output of the oscillator, the digital to analog converter coupled to the counter, the counter causing the digital to analog converter to adjust the control input and to vary the switching frequency of the power supply.
(2)裁判所における手続

2004年、Power Integrations, Inc. (Power Integrations)は、Fairchild Semiconductor International, Inc. (Fairchild)を被告として、Delaware地区連邦地裁(連邦地裁)に特許侵害訴訟を提起した。事件は連邦地裁及び連邦巡回区控訴裁(Fed. Cir.: United States Court of Appeals for the Federal Circuit)の間を複数回往復した。

本事件の主要論点は、claim 1の”the digital to analog converter coupled to the counter, the counter causing the digital to analog converter to adjust the control input and to vary the switching frequency of the power supply”(”coupled”の限定)の解釈であった。連邦地裁は、クレーム及び明細書の記載に照らし、”coupled”の限定は、カウンター及びコンバーターの間の特定の制御関係を要する、すなわち、カウンターは、コンバーターへの「電圧、電流又は制御信号」の通過を許容する態様で(in a way that allows the counter to pass)コンバーターと「連結」しなければならないと解釈した。すなわち、連邦地裁は、”coupled”の限定を、カウンター自身がコンバーターを駆動しなければならない(間接連結不可)と解釈した。陪審は、”coupled”の限定についてのこの解釈に基づき、claim 1はMartin又はWangに対して新規性を有すると評決した。2016年、連邦巡回区控訴裁は、結論として、この陪審認定を維持した。

(3)米国特許商標庁(USPTO: United States Patent and Trademark Office)における手続

米国特許商標庁は、2006年12月、上記特許侵害訴訟が係属する中、Fairchildの申請に係る、876特許のclaim 1を含む複数クレームについての査定系再審査(EPR: Ex Parte Reexamination)(35 U.S.C. 302-307)の開始を決定した。

Power Integrationsは、先行技術Martin、Wang及びHabetlerにおけるカウンター及びコンバーターは、ROMで隔てられている(間接連結)と主張した。

これに対して、特許審判部(PTAB: Patent Trial and Appeal Board)は、Webster’s Dictionaryにおける”couple”の定義の一つ(”to join (electric circuits or devices) into a single … circuit”)のみに依拠して、”coupled”の限定は、2つの素子が「結びついて単一の回路を構成する(join[ed] . . . into a single . . . circuit)」ことのみを要求すると解釈した。PTABは、claim 1は、カウンター自身がコンバーターに制御入力の調整及びスイッチング周波数のジッタをさせる必要はない、すなわち、「協同して機能するカウンター及びメモリ(counter and a memory functioning together)」がコンバーターを駆動する態様を含む(間接連結可)と解釈した。PTABは、この解釈に基づき、Martin、Wang又はHabetler に対する新規性欠如を理由とする審査官の拒絶を維持した。PPC Power Integrationsは、これを不服として、事件を連邦巡回区控訴裁へ控訴した。

2.連邦巡回区控訴裁判決

(1)結論

拒絶維持審決を破棄(reverse)。

(2)法廷意見の概要(起草者:Mayerシニア判事)

BRI基準は、クレームを広く解釈するものであるが、クレームの文言及び明細書の記載を無視してクレームの限定を解釈する無制限の権限(unfettered license)を付与するものではない。

PTABのクレーム解釈は、不合理に広く(unreasonably broad)、明細書中の開示の検討を不当に省略している。PTABの過度の拡張解釈によれば、いずれの要素も、同一回路中に存する限り、距離の多寡、途中に介在する要素の有無、又は、並列・直列の別に関わらず、同一回路中の他の要素と「連結された」と解釈されることになる。

クレーム解釈は、クレーム自身の用語と共に始まらなければならない。クレームの文言によれば、claim 1は、カウンター自身がコンバーターに制御入力の調整及びスイッチング周波数のジッタをさせることを規定する。

また、PTABの解釈は、クレームの限定を無意味にする。具体的には、claim 1は、最初に、「回路(circuit)」が「カウンター(counter)」及び「コンバーター(digital to analog converter)」を含むと限定するので、PTABが主張するように”the digital to analog converter [is] coupled to the counter”も、コンバーター及びカウンターが同一の回路中に存在することを意味すると解釈すると、この限定は余分となる(superfluous)。

さらに、より本質的なこととして、PTABの不当に広い解釈は、明細書により支持されていない。カウンター及びコンバーター間へのプログラムメモリの挿入は、回路サイズの最小化を目指す876特許の趣旨に反する。注目すべきことに、876特許に開示される実施例は、いずれも、電圧、電流又は制御信号をコンバーターへ通過させるカウンターを開示する。

876特許図1は、コンバーター(digital-to-analog (D-to-A) converter 150)へ直接に接続されるカウンター(Counter 140)を示し、これに対応する明細書の記述は、コンバーターを駆動するのはカウンターの「出力」であることを強調する。

876特許図2は、スイッチング周波数の階段状の増加は、カウンターの出力に基づくことを示す。一方、メモリがカウンター及びコンバーターを分離し、かつ、メモリがカウンター及びコンバーターの間の制御関係を遮断するシステムにまでクレームの範囲が及ぶことを示唆する記載は明細書には存在しない。

PTABは、クレームの文言及び明細書のいずれも、メモリを含まないとは言っていない(neither the claim language nor the specification “requir[es] the lack of a memor[y]”)ので、claim 1は、メモリから読みだされたデータに基づきスイッチング周波数のジッタを行う回路を含むとの論理を展開する。しかし、この論理には説得力がない。BRI基準においては、明細書が、審査官が採用した広い解釈を排除するかどうかを検討するのではない。正しい分析においては、争点に係るクレーム用語に対して、発明者が明細書で自己の発明をどのように記述したかに対応する意味を付与することが求められる。876特許は、カウンター及びコンバーター間へのプログラムメモリの挿入を明示的に除外していないが、そのようなプログラムメモリの挿入は、回路サイズの最小化を目指す明細書の趣旨、及び、カウンター自身がコンバーターに制御入力の調整及びスイッチング周波数のジッタをさせることを要求するクレームの限定と矛盾する。

連邦地裁の”coupled”の限定の解釈は、クレームの文言及び明細書の記載に強固に裏付けられており、BRI基準に基づく解釈と整合する。

PTABによるclaim 1についての拒絶維持審決は、誤ったクレーム解釈に基づくものであり、この拒絶は、正しいクレーム解釈の下では支持できないので、claim 1についての拒絶を破棄(reverse)する。

3.考察

(1)BRI基準の本事件への適用

筆者が検討した限りでは、876特許の明細書は、クレームでは”coupled”を用いてカウンター及びコンバーターの関係を規定するが、実施例ではその関係を説明するのに”coupled”の語を一切用いていない。このため、外部証拠に関して、PTABが行ったように、Webster’s Dictionaryにおける”couple”の定義の一つ(”to join (electric circuits or devices) into a single … circuit”)に依拠して”coupled”の意義を解釈することが不合理とは必ずしも言えないと思われる。

次に、内部証拠に関して、法廷意見は、回路サイズの最小化を目指す明細書の趣旨を強調する。BRI基準は、明細書に照らして(the specification)クレーム中の用語に最広義の合理的解釈を与えるものであるから、BRI基準に基づく分析において発明の目的が考慮されることは当然といえるかもしれない。一方、カウンター及びコンバーター間へのプログラムメモリの挿入が回路サイズの最小化を妨げるといえるかどうかについては、クレーム解釈者の価値判断により結論が分かれ得ると考えられる。

また、法廷意見は、claim 1の”the digital to analog converter coupled to the counter, the counter causing the digital to analog converter to adjust the control input and to vary the switching frequency of the power supply”(”coupled”の限定)が、カウンター自身がコンバーターに制御入力の調整及びスイッチング周波数のジッタをさせることを規定すると判示する。この点は、動詞としての”cause”の語がその主語及び目的語の間に直接の因果関係を必ずしも要求していないと思われることからすると(注1)、”coupled”の限定が、カウンター自身がコンバーターに制御入力の調整及びスイッチング周波数のジッタをさせることを直接に要求することを規定するかどうかについては、クレーム解釈者の価値判断により結論が分かれ得ると考えられる。

一般的に、連邦巡回区控訴裁は、PTABのクレーム解釈を、外部証拠については実質的証拠の基準で再考し、かつ、クレーム解釈のプロセスについてはゼロベースで再考する(注2)。”coupled”の限定の解釈についての外部証拠の言及は、辞書の定義を引用しただけなので、その引用が実質的証拠に基づかないということはあり得ない。ということは、連邦巡回区控訴裁は、PTABのクレーム解釈を実質的にゼロベースで再考したことになる。そうとすれば、外部証拠に依拠したPTABによる”coupled”の解釈が必ずしも不合理と言えないとしても、上記諸点を勘案して連邦巡回区控訴裁がこれを覆したことに問題はないと考えられる。

注1 Webster’s New World College Dictionary (5th Ed. 2014) (“cause: vt. to be the cause of; bring about; make happen; effect, induce, produce, compel, etc.”).
注2 In re Cuozzo Speed Technologies, LLC, 793 F.3d 1268, 1279-1280 (Fed. Cir. 2015) (“We review the Board’s claim construction according to the Supreme Court’s decision in Teva Pharmaceuticals U.S.A., Inc. v. Sandoz, Inc.[,] 135 S.Ct. 831, 84[1] (2015). We review underlying factual determinations concerning extrinsic evidence for substantial evidence and the ultimate construction of the claim de novo[.] Because there is no issue here as to extrinsic evidence, we review the claim construction de novo.”).
(2)PPC Broadband事件との比較

PPC Broadband事件(注3)では、320特許のclaim 1の”continuity member”の解釈は、Phillips基準及びBRI基準のいずれの基準に基づくかにより結論が異なるととされた。一方、今回紹介したPower Integrations事件では、876特許のclaim 1の”coupled”の解釈は、Phillips基準及びBRI基準のいずれの基準に基づくかにより結論は異ならないとされた。

両事件の連邦巡回区控訴裁の合議体には、Moore判事が共通して含まれている。そして、Moore判事は、PPC Broadband事件では法廷意見を起草している。このことからすると、PPC Broadband事件及び本事件は容易に比較できるとも考え得る。しかし、筆者は、BRI基準のルールに照らして両事件を整合的に理解するのは必ずしも容易でないとの印象をもっている。

PPC Broadband事件では、法廷意見は、BRI基準に基づくclaim 1の”continuity member”の解釈において、320特許の明細書の「発明の根本的な目的(fundamental purpose of the invention)」を一切考慮することなく、時間的に連続する接触のある実施例及び空間的に連続する接触のある実施例の両方を含むように解釈した。一方、本事件では、法廷意見は、BRI基準に基づくclaim 1の”coupled”の解釈において、回路サイズの最小化を目指す明細書の趣旨を強調した上で、”coupled”を外部辞書の定義が示す意味よりも狭い意味に解釈した。同じBRI基準に基づく分析であるにもかかわらず、なぜPPC Broadband事件では明細書のストーリーが重視されず、一方で、本事件ではそれが重視されたのかを、筆者は必ずしも理解することができない。ただ、両事件の法廷意見は、いずれも、争点に係る用語を、各明細書の全ての実施例を含むように解釈したとは言い得る。明細書の全ての実施例を含むような解釈がBRI基準の必然的帰結とは必ずしも言えないと筆者は考えるが、この点は、両事件の比較から得られる教訓と言い得るかもしれない。そうとすると、明細書の複数のバリエーションの実施例を記載する場合、全ての実施例を包含する上位概念のクレームと共に、各実施例に対応するクレームを別個に用意することが、権利取得上有効と言い得るかもしれない。

本事件の結論については、PPC Broadband事件における320特許と比較して、876特許の明細書の実施例が少なかったことが結果的に幸いしたと考えられる。

注3 PPC Broadband, Inc. v. Corning Optical Communications RF, LLC, 815 F.3d 734 (Fed. Cir. 2016).

著者について

小野 康英

米国特許弁護士(*)、日本国弁理士
Westerman Hattori Daniels & Adrian, LLP勤務
(*)コロンビア特別区(DC)、ニューヨーク州(NY)、カリフォルニア州(CA)、米国特許商標庁(USPTO)

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