第18回:資格~弁護士資格及び特許弁理士資格の抵触-Sperry事件(1963年)~(2022年12月29日)

2022年12月29日
著者:小野 康英(米国特許弁護士)

The historic Old Patent Office Building in Washington, D.C. (now renovated and renamed as the Donald W. Reynolds Center for American Art and Portraiture)

今回は、州政府が管轄する弁護士資格(州の弁護士資格)及び米国政府が管轄する特許弁理士資格(patent agent)の抵触が争点となった事件を紹介する(Sperry事件)。

Sperry v. Florida, 373 U.S. 379 (1963)

1.事件の経緯

Sperryは、非弁護士で、かつ、いかなる州においても弁護士登録されたことはなかったが、特許長官(Commissioner of Patents)により、米国特許庁(USPO: United States Patent Office)(注[1])の手続に対する代理権を付与されていた。Sperryは、長年、フロリダ州(State of Florida)にて、業として、特許出願書類の作成及び権利化実務に従事すると共に、特許出願に関係するアドバイスを行ってきた。フロリダ州の弁護士資格を管轄するフロリダ州法曹会(Florida Bar)は、フロリダ州最高裁判所に、Sperryの行為は非弁行為(unauthorized practice of law)に当たるとして、その差止めを求めた。

  [1] 米国特許庁(USPO: United States Patent Office)は、Patent Act of 1790により設立され、1975年までこの名が用いられた。そして1975年に、USPOは、米国特許商標庁(USPTO: United States Patent and Trademark Office)と名称変更された(Jan. 2, 1975, Public Law 93-596, sec. 1, 88 Stat. 1949)。

フロリダ州最高裁判所は、フロリダ州法曹会の主張を認め、Sperryの行為の差止めを命じた。同裁判所は、Sperryの行為は、フロリダ州がポリス・パワー(注[2])に基づき適法に規制できる非弁行為に該当し、かつ、米国憲法及び連邦法は、いずれも、連邦政府のいかなる組織に対してもフロリダ州でそのような非弁行為を認める権限を付与していないと結論した。

  [2] Tenth Amendment to the United States Constitution ("The powers not delegated to the United States by the Constitution, nor prohibited by it to the States, are reserved to the States respectively, or to the people."); 田中英夫(編)「英米法辞典」東京大学出版会(1991年)参照(「police power 福祉権能; ポリス・パワー; 規制権限 □州が州民の健康 (health)、安全 (safety)、道徳 (morals) その他一般の福祉 (general welfare) を保護・向上させるために各種の立法を制定・執行する権限。コロンビア特別区等連邦直轄地については、連邦政府にこの権限がある。アメリカの連邦制度のもとでは、連邦政府は合衆国憲法によって明示的・黙示的に与えられた権限のみを有し、残りの政府権限は州に留保されている(合衆国憲法第10修正 (Tenth Amendment))[。]▲「警察権能」 という訳については、日本語の 「警察」 が、公共の福祉全般を示す police と比べるとその意味がかなりの程度において限定されていることに注意。」).

なお、差止めの対象には、Sperryが「特許弁護士(patent attorney)」の語の使用、又は、自らを、法律事務全般を取り扱うことのできるフロリダ州弁護士との自称の停止が含まれていたが、Sperryは、これらの行為を自発的に停止したため、これらの点は、米国最高裁判所における審理の対象となっていない。

2.米国最高裁判所判決

(1)結論(9対0)

Sperryの行為の差止めは、米国憲法第6最高法規条項に違反する。

・ フロリダ州最高裁判決を破棄し、事件を同裁判所に差し戻す。

(2)法廷意見(多数意見)の概要(起草者:Warren主席判事)

フロリダ州法上、他人のために特許出願書類を作成し、かつその権利化業務を行うことが法律事務に該当する旨のフロリダ州最高裁判所の判断に疑義はない。そのような行為は、制定法上可能な保護形態の検討だけでなく、その制定法に照らした発明の特許性に関する顧客へのアドバイスを必然的に伴う。また、そのような行為は、特許出願の明細書及びクレームの作成への関与を必要とする。さらに、特許出願が拒絶された場合、特許実務家は、補正の準備を支援する必要があるかもしれない。その場合、適用されるルールに基づき、先行技術との関係で、クレーム発明の特許性を確立する主張を行うことがしばしば必要である。さらに、フロリダ州が同州内における法律事務の規制について実質的利害関係(substantial interest)を有すること、及び、連邦法上の規制がなければ、同州は、非弁護士による特許実務という法律事務への関与を正当に禁止し得ることについても疑義はない。

しかし、ポリス・パワーに基づき適法に制定された州法は、連邦法と抵触する場合には、連邦法に劣後する。連邦法は、特許長官に対して、非弁護士がUSPOに対して特許実務を認める権限を付与しており、かつ、特許長官はそのような権限を行使している。その権限に制限がない場合には、米国憲法最高法規条項(Supremacy Clause)(注[3])により、フロリダ州は、同州の要件を満たさない者(=非弁護士)が連邦法の規制範囲に収まる行為を実行する権利を否定することはできない。いかなる州も、米国議会による制定法の下で認められたライセンスを妨害することはできない(No State law can hinder or obstruct the free use of a license granted under an act of Congress.)。

  [3] The United States Constitution, Article VI ("[T]his Constitution, and the laws of the United States which shall be made in pursuance thereof; and all treaties made, or which shall be made, under the authority of the United States, shall be the supreme law of the land; and the judges in every state shall be bound thereby, anything in the Constitution or laws of any State to the contrary notwithstanding[.]").

フロリダ州は、連邦法が付与する権限に、特許実務が州法と抵触しないという条件を読み込まなければならず、したがって、非弁護士の特許実務家に対しては、特許庁が所在するコロンビア特別区(注[4])に物理的に所在することを条件に、そのような非弁行為が認められると主張する。この主張を支持する根拠となり得る規定は規則1.341(当時)の"[r]egistration in the Patent Office . . . shall only entitle the persons registered to practice before the Patent Office."だけである。フロリダ州は、この要件は、「(本規定は)非弁護士が法律事務を行うことを認めると解釈してはならない(shall not be construed as authorizing persons not members of the bar to practice law)」と規定する過去の規定を参照することで意味が明確となると主張する。しかし、このより制限的な規定は、これを含む規定が、USPOにおける特許実務家の登録が特許法全般の法律事務を認める趣旨ではなく、特許出願の書類作成及び権利化業務に合理的に必要かつ関係のある役務の実行を規制する趣旨であることを強調するものと解すべきである。

  [4] 本事件当時、USPO はコロンビア特別区(District of Columbia)に所在していた。

米国政府が提出した法廷助言書(amicus curiae)によれば、1962年11月時点でUSPOに対して登録している7,544名のうち、1,801名が非弁護士であり、かつ、1,687名が実務を行う州の弁護士資格を保有していない。したがって、フロリダ州の見解によれば、現在の登録者のうちの4分の1は、資格喪失又はコロンビア特別区への移住の対象となり、他の4分の1は自己が実務を行う州の弁護士資格に対する互恵規定(reciprocity provisions for admission to the bar of the State in which they are practicing)が存在しない場合には、移住、同州の弁護士資格取得、又は実務の中止を余儀なくされる。この取扱いがUSPO手続に与える破滅的効果は無視しがたい。一方、州は技能及び職業倫理上の適格性を欠く実務者から同州の州民を保護する州益を有するところ、USPOは、登録の出願人に対して試験を課し、かつ、誠実性の高い基準を維持することにより、その州益を保護している。

さらに、特許実務家はUSPO手続についてのみ代理権を有するため、州は、連邦上の利益を達成するために必要な限定的範囲を除き、その州内において、法律事務の監督権を維持している。

以上より、USPOに対する特許出願の書類作成及び権利化業務に関係のある業務を差し止めるフロリダ州最高裁判所の決定は破棄されなければならない(must be vacated)。

3.コメント

現行の特許法(35 U.S.C.)において、米国特許商標庁(USPTO: United States Patent and Trademark Office)は、同法2条(注[5])に基づき、非弁護士である特許弁理士(patent agent)(注[6])を含む特許手続の代理資格についての規制権限を有する。よって、米国特許商標庁に対する特許手続の代理資格は、連邦法上の根拠を持つと言える。そして、米国最高裁判所も同意するとおり、特許出願書類を作成し、かつその権利化業務を行うことは、一般的に、法律事務(practice of law)と考えられている。一方、州は、伝統的に、ポリス・パワーに基づき、法律事務を業とする弁護士資格の規制権限を有する。本事件では、連邦政府及び州の規制権限の抵触が問題となったところ、米国最高裁判所は、米国憲法最高法規条項を根拠に、州のポリス・パワーを制限した。本事件は、特許弁理士資格に州の規制権限が及ばない、すなわち、特許弁理士資格は各州の弁護士資格と矛盾なく併存できることを明確にした事件として、実務上意義を有する。

  [5] 35 U.S.C. 2(b)(2)(D) ("The [United States Patent and Trademark Office] [m]ay establish regulations, not inconsistent with law, which [m]ay govern the recognition and conduct of agents, attorneys, or other persons representing applicants or other parties before the Office, and may require them, before being recognized as representatives of applicants or other persons, to show that they are of good moral character and reputation and are possessed of the necessary qualifications to render to applicants or other persons valuable service, advice, and assistance in the presentation or prosecution of their applications or other business before the Office[.]").
  [6] 37 C.F.R. 11.6(b) ("Agents. Any citizen of the United States who is not an attorney, and who fulfills the requirements of this part may be registered as a patent agent to practice before the Office."). (emphasis added)
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