第2回:米国特許法の基本~米国特許法の法源~

著者:小野 康英(弁理士、米国弁護士)

 

 

米国特許法の主な法源は以下の3つである。

(1)特許法(制定法)
(2)特許規則(規則)
(3)判例(法)

現行の特許法は、米国憲法第1章第8条第8項(特許条項)に基づき、米国議会が制定した1952年特許法(35 U.S.C.: United States Code Title 35 – Patents)である(注1)。

特許規則は、米国特許商標庁が、特許法第2条(b)(2) に基づき制定した制定規則である(37 C.F.R.: Title 37 – Code of Federal Regulations – Patents, Trademarks, and Copyrightsのうち、Part 1からPart 199まで;現在、Part 151からPart 199までは留保されている)。

35 U.S.C. 2 Powers and duties
(b) SPECIFIC POWERS.— The Office—
(2) may establish regulations, not inconsistent with law, which—
(A) shall govern the conduct of proceedings in the Office;
(B) shall be made in accordance with section 553 of title 5;
(C) shall facilitate and expedite the processing of patent applications, … ;
(D) may govern the recognition and conduct of agents, attorneys, or other persons representing applicants or other parties before the Office, … ;
(E) shall recognize the public interest in continuing to safeguard broad access to the United States patent system … ;
(F) provide for the development of performance-based process … ; and
(G) may, … , provide for prioritization of examination of applications … ;

判例(法)は、個別具体的な紛争の解決(注2)に必要な限りにおいて裁判所が示す「特許法及び特許規則の規定についての解釈」並びに「これらの規定の射程外にある事項(注3)についての見解」である(case law, judicial precedent)。判例は、先例として機能し、同種の事実関係の事件において、後の裁判所を拘束する。この原理は、先例拘束の原理(doctrine of precedent; stare decisis)とよばれる。米国最高裁は、先例拘束の原理を次のように説明する。

Kimble v. Marvel Entertainment, LLC, 576 U.S. ___ (2015)
“Stare decisis—in English, the idea that today’s Court should stand by yesterday’s decisions—is “a foundation stone of the rule of law.” … Application of that doctrine, although “not an inexorable command,” is the “preferred course because it promotes the evenhanded, predictable, and consistent development of legal principles, fosters reliance on judicial decisions, and contributes to the actual and perceived integrity of the judicial process.” … It also reduces incentives for challenging settled precedents, saving parties and courts the expense of endless relitigation.”

なお、日本法には、米国法と同視し得る意味での先例拘束の原理は存在しないと解されている(注4)。その意味で、米国法及び日本法の間での判例の法的性質は大きく異なる(注5)。

たとえば、特許侵害訴訟において、訴訟の当事者は、通常、上記3つの法源から導かれる、その事件に関連する法が正しい(確立している)ことを前提に、必要に応じて事実関係を争い、及び、その法をその事件の事実関係に適用して、自己に有利な主張を行なう。しかし、時として、裁判所がその法自体の誤りを宣言しなければ、訴訟に勝てない場合があり得る。そのような場合、訴訟代理人弁護士は、それが誠実なものである限り、その法の誤りを主張することができる。このような主張は、上記先例拘束の原理が許すものであり、また、それが誠実な主張である限り、弁護士倫理(注6)にも反しないと考えられる。

特許関係訴訟において、法の有効性が争われた事例を、以下、3つ紹介する。

■特許法(35 U.S.C.)の規定の有効性(米国憲法適合性)が争点となった事例:Patlex v. Mossinghoff, 758 F.2d 594 (Fed. Cir. 1985)

Patlex社及び発明者Gould(Patlex社等)がControl Laser社に対して845特許についての特許侵害訴訟をFlorida南部地区連邦地裁(Florida地裁)に提起してから約3年後、米国議会は、特許法を改正し、査定系再審査制度(ex parte reexamination)を新設した。Control Laserが米国特許商標庁(USPTO: United States Patent and Trademark Office)に845特許について査定系再審査(再審査)の開始の申請をしたところ、USPTOは、再審査の開始決定を行なった。この決定を受けて、Florida地裁は、この特許侵害訴訟を再審査の結論が出るまで中断する決定をした。

これに対し、Patlex社はUSPTO長官(Mossinghoff)に対して再審査手続の続行の差止を求める訴訟をPennsylvania東部地区地裁(Pennsylvania地裁)に提起した。Patlex社は、再審査制度の開始前に発行された特許への再審査が遡及適用は、米国憲法・修正第5条(デュー・プロセス)(注7)及び修正第7条(民事事件における陪審審理の条項)(注8)に違反すると主張した。Pennsylvania地裁は、再審査制度の開始前に発行された特許にも再審査が遡及的に適用される点を含めて、再審査制度を合憲と判断した。

連邦巡回区控訴裁は、遡及適用される再審査制度は、修正第5条及び修正第7条のいずれに照らしても合憲と判断し、Pennsylvania地裁判決を維持した。

■米国特許規則(37 C.F.R.)の規定の有効性(特許法適合性)が争われた事例:Tafas v. Dudas, 541 F.Supp.2d 805 (E.D. Va 2008)

USPTOは、継続出願(continuation application)の件数増加及びクレームの複雑化が新規出願についてのUSPTOの審査の弊害になっていることを理由に、2007年8月21日、継続出願の件数の抑制及び1出願中のクレーム数の制限を規定する特許規則の改正最終案(Final Rules)を公表した。この規則改正最終案の目玉は以下の2点であった。

(1)規則78及び114(「2+1ルール」)
・最初の特許出願後、「2件」の継続出願又は一部継続出願(continuation-in-part application)(継続出願等)及び「1件」の継続審査請求(RCE: Request for Continued Examination)は、権利として(as a matter of right)認める。
・「3件目」の継続出願等又は「2件目」のRCEは、その旨の申請及びそれを今行わざるを得ない事情の説明が伴う場合に限り、認める。
・出願人は、上記申請及び説明が不当であると信じる場合、その事案限りでの「2+1ルール」不適用の申請を求めることができる。
・「2+1ルール」は、規則改正最終案の施行日においてUSPTOに係属する全特許出願に適用する。

(2)規則75(「5/25ルール」)
・1件の特許出願に「合計5つの独立クレーム」又は「合計25のクレーム」を含めることを、説明なしに認める。
・1件の特許出願に上記制限を越える数のクレームを含めたい場合、出願人は、出願支援書(ESD: Examination Support Document)を提出しなければならない。
・「5/25ルール」及びESD提出義務は、規則改正最終案の施行日において実体的事項に関する最初のオフィスアクションが発行されていない全特許出願に適用する。

Tafas氏(個人)及びSmithkline Beecham社は、この規則改正最終案の施行差止め及び無効確認を求める訴訟をVirginia東部地区連邦地裁(Virginia地裁)に提起した。Virginia地裁は、規則改正最終案は実体的規則(substantive [rules])であり、特許法第2条(b)(2)がUSPTOに認める規則制定権限の範囲を逸脱していると判断し、規則改正最終案の無効を確認し、施行の差止めを認めた。Tafas v. Dudas, 541 F.Supp.2d 805 (E.D. Va 2008).

連邦巡回区控訴裁は、「2+1ルール」及び「5/25ルール」は手続的ルール(procedural rules)であって、USPTOの規則制定権限の範囲内にあると判断した。その上で、連邦巡回区控訴裁は、規則改正最終案のうち、「3件目」の継続出願等又は「2件目」のRCEの制限については、特許法120条(35 U.S.C. 120 Benefit of earlier filing date in the United States.)に違反するので無効と判断したが、他の規定は有効と判断し、地裁判決を一部維持・一部破棄した上で、事件をVirginia地裁へ差し戻す判決をした。Tafas v. Doll, 559 F.3d 1345 (Fed. Cir. 2009).

これに対し、Tafas氏及びSmithkline Beecham社が大法廷による再審理請求をしたところ、連邦巡回区控訴裁大法廷はこれを認めて、上記連邦巡回区控訴裁判決を破棄し、事件の復活を認める旨の決定をした。Tafas v. Doll, 328 Fed.Appx. 658 (Fed. Cir. 2009) (en banc order).

その後、USPTOは規則改正最終案を自発的に撤回し、及び、Smithkline Beecham社と和解した上で、両者が共同で、控訴取下げ及び地裁判決破棄の申請書を提出した。Tafas氏は控訴取下げには同意したが、地裁判決の破棄には異議を申し立てた。これに対し、連邦巡回区控訴裁大法廷は、控訴取下げを認めたが、地裁事件の敗訴の当事者であるUSPTOが規則改正最終案を自発的に撤回することで、事件の争訟性を一方的に喪失させたことを理由に、地裁判決の破棄を認めなかった。Tafas v. Kappos, 586 F.3d 1369 (Fed. Cir. 2009) (en banc order) ([I]t was the USPTO (the losing party in the district court action) that acted unilaterally to render the case moot, and vacatur is not appropriate).

以上の複雑な経緯を辿って、結局、規則改正最終案が撤回され、及び、Virginia地裁による規則改正最終案の無効及びその施行差止めの判決が確定した。

■議会が判例を立法的に覆した事例:Halliburton Oil Well Cementing Co. v. Walker, 329 U.S. 1 (1946)

WalkerはHalliburton社に対し、Walker特許についての特許侵害訴訟を提起した。Walker特許は、井戸中の障害物の位置測定装置に関する特許である。たとえばClaim 1は以下のとおり規定していた。

1. In an apparatus for determining the location of an obstruction in a well having therein a string of assembled tubing sections interconnected with each other by coupling collars, means communicating with said well for creating a pressure impulse in said well, echo receiving means including a pressure responsive device exposed to said well for receiving pressure impulses from the well and for measuring the lapse of time between the creation of the impulse and the arrival at said receiving means of the echo from said obstruction, and means associated with said pressure responsive device for tuning said receiving means to the frequency of echoes from the tubing collars of said tubing sections to clearly distinguish the echoes from said couplings from each other.

原審裁判所(第9巡回区米国控訴裁)は、Walker特許に開示された構成要素はいずれも公知であるが、共振器(resonator)及び装置の他の構成要素との関係には特許性があると認定していた。この点、Walker特許のクレームは、上記関係を構造的に規定せず、”means associated with said pressure responsive device for tuning said receiving means to the frequency of echoes from the tubing collars of said tubing sections to clearly distinguish the echoes from said couplings from each other”と機能的に規定していた。

原審裁判所は、公知の構成要素の組合せに特許性のあるクレームについては、「新規な構成要素を機能的に表現することが許されない」旨の米国最高裁判例(注9)の要件が緩和されて、構成要素の一部又は全部を機能的に表現することが許されると判示した。これに対し、米国最高裁は、Walker特許クレームの機能表現に起因する権利範囲の広さ、曖昧さ、及び、差し迫った脅威(broadness, ambiguity, and overhanging threat)は明白であるとして(注10)、Walker特許クレームは、いずれも無効と判断した。

これにより、米国最高裁は、クレームの構成要素に機能的表現を使用すること自体を禁止する判例を確立したのである。

しかし、Halliburtonから6年後、米国議会は、1952年特許法(現行特許法)を制定した。その第112条第3項、すなわち現行第112条(f)項は、以下のとおり規定された。

An element in a claim for a combination may be expressed as a means or step for performing a specified function without the recital of structure, material, or acts in support thereof, and such claim shall be construed to cover the corresponding structure, material, or acts described in the specification and equivalents thereof.

本規定の第1文は、Halliburtonを立法的に覆し、組合せに係るクレームの構成要素についての機能表現の使用を容認する。一方、第2文は、Halliburtonが指摘した機能的に表現された構成要素を含むクレームの「権利範囲の広さ、曖昧さ、及び、差し迫った脅威」を除去すべく、「明細書に記載された対応する構造、材料又は行為、及びその均等物」にその権利範囲を制限する。すなわち、ここに、司法及び立法の妥協により、米国法特有のルールが確立されたのである(注11)。

以降、「構造、材料又は行為を明記せず、特定の機能を果たす手段又は工程の形で表現された構成要素(機能表現要素)を含むクレーム(機能表現クレーム)」の権利取得及び権利活用の実務は、112条 (f)に基づき行なわれることになった。なお、112条(f)の「適用場面」、「適否判断」、「均等物の意義」等は、後の判例により、徐々に明らかにされることとなる。

日々の特許実務においては、事実関係及び/又は関連法のその事実関係への適用が実務の中心になることに異論を唱える特許実務家は少ないと思われる。しかし、時として、その法自体の誤りを主張する可能性も念頭において実務を行なう必要がある。

注釈

(注1)建国以来、米国議会は以下の特許法を制定した。

(1)1790年特許法:Patent Act of 1790 (1 Stat. 109, enacted April 10, 1790)
・特許付与の全権限が、国務長官(Secretary of State)、司法長官(Attorney General)及び軍事長官(Secretary of War)から構成される特許合議体(Patent Board)に付与された。初代特許合議体の構成員は、当時、国務長官であったトーマス・ジェファーソン(Thomas Jefferson)、司法長官であったエドムンド・ランドルフ(Edmund Randolph)及び軍事長官であったヘンリー・ノックス(Henry Knox)であった。なお、米国特許商標庁(United States Patent and Trademark Office)の中心でありバージニア州(Commonwealth of Virginia)に所在するAlexandria Campusは5つの建物から構成される。そのうちの3つの建物は、彼らにちなんで、”Jefferson Building”、”Randolph Building”及び”Knox Building”と命名されている。ちなみに、他の2つの建物は、米国憲法の父であり第4代米国大統領(1809年-1817年)であったジェームス・マディソン(James Madison)及び初代特許合議体の事務方トップ(chief clerk)であったヘンリー・レムゼン(Henry Remsen)にちなんで、”The Madison Buildings (East & West)”及び”Remsen Building”と命名されている。

(2)1793年特許法:Patent Act of 1793 (1 Stat. 318, enacted February 21, 1793)
・米国政府の最重要高官による特許審査は実務上困難となったため、1790年特許法の施行からほどなくして、無審査制度が導入された。

(3)1836年特許法:Patent Act of 1836 (5 Stat. 117, enacted July 4, 1836)
・無審査制度は評判が悪かったため、審査制度が復活した。

(4)1870年特許法:Patent Act of 1870 (16 Stat. 198, enacted July 8, 1870)
・複数の立法により分散していた特許法が統合された。

(5)1952年特許法:Patent Act of 1952 (66 Stat. 792, enacted July 19, 1952)
・現行法

(注2)米国憲法第3章第2条によれば、連邦裁判所は、訴訟の当事者の間に現実に紛争が生じている事件に限り、裁判を行なう権限を有する。別の言い方をすれば、連邦裁判所は、個別具体的な紛争の解決を離れて、法解釈のみを目的とする裁判を行うことができない。

The United States Constitution, Article III, Section 2
The judicial power shall extend to all cases, in law and equity, arising under this Constitution, the laws of the United States, and treaties made, or which shall be made, under their authority; –to all cases affecting ambassadors, other public ministers and consuls; –to all cases of admiralty and maritime jurisdiction; –to controversies to which the United States shall be a party; –to controversies between two or more states; –between a state and citizens of another state;–between citizens of different states; –between citizens of the same state claiming lands under grants of different states, and between a state, or the citizens thereof, and foreign states, citizens or subjects. …

(注3)「特許法及び特許規則の規定の射程外にある事項」としては、たとえば、審査過程におけるUSPTOに対する情報開示義務違反がある。この違反の要件及び効果は特許法及び特許規則のいずれにも規定されていない。たとえば、Keystone Driller Co. v. General Excavator Co., 290 U.S. 240 (1933) (関連する先行技術は無意味と断定する鑑定を提出して維持した特許の行使が不能とされた事案); Hazel-Atlas Glass Co. v. Hartford-Empire Co., 322 U.S. 238 (1944), overruled on other grounds by Standard Oil Co. v. United States, 429 U.S. 17 (1976) (出願発明の価値が高い旨の記述を含む文献を捏造し、これを提出することにより取得した特許の行使が不能とされた事案); Precision Instrument Mfg. Co. v. Automotive Maintenance Machinery Co., 324 U.S. 806 (1945) (虚偽の証拠に基づきインターフェアランスに勝つことにより取得した特許の行使が不能とされた事案); Therasense, Inc. v. Becton, Dickinson and Co., 649 F.3d 1276 (Fed. Cir. 2011) (en banc) (USPTOに対する情報開示義務違反に関する新基準を確立した事案)参照。

(注4)たとえば、竹田稔弁護士(元東京高等裁判所知的財産部[現知的財産高等裁判所]判事)は、日本法における判例の法的性質を次のように説明する。

竹田稔「最高裁判決と特許法改正」特許研究第48号(2009年)
我が国の現行法制においては、裁判官がある具体的事件について裁判するに当たり、判例(通常裁判の先例であって、判決として繰り返されたものをいうが、一つの判決であってもその法的判断をもって「判例」と呼ぶ場合もある)に拘束され、その判断を尊重し、これに従うべきものとされる意味での拘束力を認めた規定は存しない(例外として、裁判所法4条は、「上級審の裁判所の裁判における判断は、その事件について下級審の裁判所を拘束する。」と規定している。)。したがって、裁判所は、下級裁判所であっても、裁判そのものについては完全に独立の権限を有しており、法律の規定上は上級裁判所の判断に拘束されないのが原則であるが、法的安定性、あるいは上訴制度による判断の統一を根拠に、判例、特に最高裁判決に事実上の拘束力、あるいは指導的機能を認めるのが裁判実務といって過言ではない(例えば、名古屋高昭和50.6.24判決判例時報785号114頁は「最高裁判所が制度上最終的な違憲審査及び法令の解釈統一の機能を有する点にかんがみると、問題とされた当該法令について、一旦最高裁判所の判断が示された以上、法的安定性の見地からも、下級審裁判所においては、右の判断と異なる見解をとるのを相当とするような特段の事情が認められない限り、その判断を尊重すべきものと考える」と判示する。)。

(注5)たとえば、日本国特許法(昭和34年法律第121号)第29条第2項の進歩性の判断手法につき、一の判決は以下のとおり判示する。

東京高裁第6民事部平成13年(2001年)11月1日判決(平成12年(行ケ)第238号、裁判長裁判官 山下和明)
原告は、本願発明1と引用発明1とは技術的課題が相違し、引用発明1に基づいて本願発明1に想到する動機付けは存在しないと主張する。
しかしながら、原告の主張は、主張自体失当という以外にない。原告の主張は、本願発明1の構成に想到するための動機付けは、本願発明1の技術的課題の認識以外に存在し得ないことを当然の前提とするものであり、このような前提が認められないことは論ずるまでもないことであるからである(一般に、異なった動機で同一の行動をとることは珍しいことではない。発明もその例外ではなく、異なった技術的課題の解決が同一の構成により達成されることは、十分あり得ることである。)。問題とすべきは、本願発明1の技術的課題ではなく、引用発明1等、本願発明1以外のものの中に、本願発明1の構成に至る動機付けとなるに足りる技術的課題が見いだされるか否かである。上記技術的課題は、本願発明1におけるものと同一であっても、もちろん差し支えない。しかし、これと同じである必要はない。したがって、本願発明1の構成の容易想到性の検討においては、本来、引用発明1の技術的課題を明らかにすることは必要であるものの、本願発明1の技術的課題について論ずることは、無意味であるということができるのである(両発明の課題に共通するところがあったとしても、それは、いわば結果論にすぎない。)。

一方、同一の論点について、他の判決は以下のとおり判示する。

知財高裁第3部平成21年(2009年)1月28日判決(平成20年(行ケ)第10096号、裁判長裁判官 飯村敏明)
特許法29条2項が定める要件の充足性、すなわち、当業者が、先行技術に基づいて出願に係る発明を容易に想到することができたか否かは、先行技術から出発して、出願に係る発明の先行技術に対する特徴点(先行技術と相違する構成)に到達することが容易であったか否かを基準として判断される。ところで、出願に係る発明の特徴点(先行技術と相違する構成)は、当該発明が目的とした課題を解決するためのものであるから、容易想到性の有無を客観的に判断するためには、当該発明の特徴点を的確に把握すること、すなわち、当該発明が目的とする課題を的確に把握することが必要不可欠である。そして、容易想到性の判断の過程においては、事後分析的かつ非論理的思考は排除されなければならないが、そのためには、当該発明が目的とする「課題」の把握に当たって、その中に無意識的に「解決手段」ないし「解決結果」の要素が入り込むことがないよう留意することが必要となる。
さらに、当該発明が容易想到であると判断するためには、先行技術の内容の検討に当たっても、当該発明の特徴点に到達できる試みをしたであろうという推測が成り立つのみでは十分ではなく、当該発明の特徴点に到達するためにしたはずであるという示唆等が存在することが必要であるというべきであるのは当然である。

進歩性(容易想到性)の判断に関し、前者は、「本来、引用発明[]の技術的課題を明らかにすることは必要であるものの、本願発明[]の技術的課題について論ずることは、無意味である[](両発明の課題に共通するところがあったとしても、それは、いわば結果論にすぎない[])」と判示するのに対し、後者は「容易想到性の有無を客観的に判断するためには、当該発明の特徴点を的確に把握すること、すなわち、当該発明が目的とする課題を的確に把握することが必要不可欠である」と判示する点で、両者は明らかに矛盾する。しかし、米国法と同視し得る意味での先例拘束の原理が存在しないと解されている日本法においては、大合議事件を取り扱う知財高裁特別部という組織が存在する現状でも、高裁レベルの判例間の矛盾は、進歩性という、特許実務において重要度が最も高いこのような論点についてすら、問題とされずに放置されている。なお、日本国憲法第76条第3項は「すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される」と規定するので、米国法と同視し得る意味での先例拘束の原理が存在しない日本法において、裁判官は、日本国憲法及び法律(たとえば、裁判所法第4条)に反しない限り、自己の良心に従い、先例と異なる法規範を定立して法的結論を導いても、何ら差し支えないのかもしれない。

なお、高裁レベルの判例間の矛盾を解消した最高裁判例としては、たとえば、商標が付された真正商品の並行輸入の商標権侵害の存否(商標権の国際消尽)について判示する最高裁第一小法廷平成15年(2003年)2月27日判決・民集第57巻2号125頁が挙げられる。

ちなみに、米国法でも、高裁レベルの判例間に矛盾が生じることはある。だが、その論点が重要である場合、然るべき時点で、統一される。たとえば、次の判例を参照されたい。Phillips v. AWH Corp., 415 F.3d 1303 (Fed. Cir. 2005) (en banc) (クレーム解釈について明細書等の内部証拠を重視する判例及び辞書等の外部証拠を重視する判例の並存を解消し、判例を前者に統一した事案); Abbott Laboratories v. Sandoz Inc., 566 F.3d 1282 (Fed. Cir. 2009) (en banc in relevant part) (いわゆるプロダクト・バイ・プロセス・クレーム(product-by-process claims)の侵害論における解釈についてプロセスを含めて解釈する判例及びプロセスを無視して解釈する判例の並存を解消し、判例を前者に統一した事案).

(注6)ABA法曹倫理モデル規則3.1は、誠実な主張であることを条件に、弁護士による、現在有効な法の射程の拡張、修正又は廃止の主張を認める。ABA法曹倫理モデル規則は、米国法曹協会(ABA: American Bar Association)が制定した法曹倫理モデル規則である。現行の規定は1983年に採択された。大多数の州が、ABA法曹倫理モデル規則をモデルとして、自州の法曹倫理規定を制定している。

ABA Model Rules of Professional Conduct
Rule 3.1 Meritorious Claims And Contentions
A lawyer shall not bring or defend a proceeding, or assert or controvert an issue therein, unless there is a basis in law and fact for doing so that is not frivolous, which includes a good faith argument for an extension, modification or reversal of existing law. …

(注7)

Fifth Amendment to the United States Constitution
No person shall … be deprived of life, liberty, or property, without due process of law[.]

(注8)

Seventh Amendment to the United States Constitution
In suits at common law, where the value in controversy shall exceed twenty dollars, the right of trial by jury shall be preserved, and no fact tried by a jury, shall be otherwise reexamined in any court of the United States, than according to the rules of the common law.

(注9) Holland Furniture v. Perkins Glue, 277 U.S. 245 (1928).

(注10)

Halliburton, 329 U.S. at 12
Under these circumstances the broadness, ambiguity, and overhanging threat of the functional claim of Walker become apparent. … [I]f Walker’s blanket claims be valid, no device to clarify echo waves, now known or hereafter invented, whether the device be an actual equivalent of Walker’s ingredient or not, could be used in a combination such as this, during the life of Walker’s patent.

(注11)1952年特許法の草案を作成したといわれているFederico氏は、112条(f)の改正の経緯を以下のように説明する。

P.J. Federico, Commentary on the New Patent Act, in 35 U.S.C.A. 1, 25 (West 1954), reprinted in 75 J. PAT. & TRADEMARK OFF. SOC’Y 161 (1993)

It is unquestionable that some measure of greater liberality in the use of functional expressions in combination claims is authorized than had been permitted by some court decisions and that decisions such as that in Halliburton Oil Well Cementing Co. v. Walker, 329 U.S. 1, 67 S.Ct. 6, 91 L.Ed. 3 (1946), are modified or rendered obsolete, but the exact limits of the enlargement remain to be determined.

The paragraph ends by stating that such a claim shall be construed to cover the corresponding structure, material, or acts described in the specification and equivalents thereof. This relates primarily to the construction of such claims for the purpose of determining when the claim is infringed (note the use of the word “cover”), and would not appear to have much, if any, applicability in determining the patentability of such claims over the prior art, that is, the Patent Office is not authorized to allow a claim which “reads on” the prior art.

また、判例も、同様の認識を示している。

In re Donaldson Co., Inc., 16 F.3d 1189, 1194 (Fed. Cir. 1994) (en banc)
The record is clear on why paragraph six was enacted. In Halliburton Oil Well Cementing Co. v. Walker, 329 U.S. 1, 67 S.Ct. 6, 91 L.Ed. 3 (1946), the Supreme Court held that means-plus-function language could not be employed at the exact point of novelty in a combination claim. Congress enacted paragraph six, originally paragraph three, to statutorily overrule that holding.

なお、第1文における「組合せに係る(for a combination)」との要件は、本規定がHalliburtonのみを立法的に覆す趣旨と考えられる。このため、クレームが単一の機能表現要素のみを含む場合には、組み合わせに係らないので112条 (f)の射程外となり、そのクレームは拒絶又は無効とされる。Holland Furniture v. Perkins Glue, 277 U.S. 245 (1928). なお、現行法における判例上、その拒絶又は無効の理由は(明確性要件違反ではなく、)実施可能要件違反とされている。

In re Hyatt, 708 F.2d 712, 714 (Fed. Cir. 1983)
The proper statutory basis for the rejection of a single means claim is the requirement of the first paragraph of § 112[] that the enabling disclosure of the specification be commensurate in scope with the claim under consideration.

著者:小野 康英

弁理士、米国弁護士(*)
パナソニックIPマネジメント株式会社勤務
(*)コロンビア特別区(DC)、カリフォルニア州(CA)、ニューヨーク州(NY)
米国連邦議会の写真も著者による撮影です。

 

・第1回:米国特許法の基本~米国特許法及び米国憲法の関係~

・第3回:米国特許法の基本~事実問題及び法律問題~

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