「複数の前記脚部」の訳し方~特許英訳における単数形と複数形の扱い~

特許英訳における単数形と複数形の扱いについて、Faber on Mechanics of Patent Claim DraftingFaber)の解説をもとに考えていきます。

例えば、独立クレームにおいて「脚部」という記載がある一方、このクレームに従属するクレームにおいて「複数の前記脚部」という記載があるとします。

Faberでは、この場合の適切な表現例の1つとして、独立クレームの「脚部」を"a leg"とし、従属クレームの「複数の前記脚部」を"a plurality of the legs"とする例が紹介されています*1。この場合、独立クレームの"a leg"が、従属クレームの"a plurality of the legs"の先行詞(antecedent basis)になる(ため適切)と解説されています*2

このように、単数形"a leg"を受けて、その後に複数形"the legs"にすることは許容されています。ただし、このような単数形を受けていきなり複数形にするという書き方に抵抗をもつ実務家や出願人も存在します。このような場合は、例えば従属クレームにおいて"the leg comprises a plurality of legs"(「前記脚部は複数設けられている」)のような「ことわり」の表現を補足してから、その後に"the plurality of legs support the container..."のような本来の英訳文を始めるという手法があります。

このような「ことわり」の表現は、"a leg"と"the legs"のと間の緩衝材のような働きをするため一部で好まれています。さらにこの場合、独立クレームの「脚部」を初出で"a leg"ではなく"at least one leg"と表現することによって脚部が複数存在することを示唆するという手法もあります(Faberもこの目的で"at least one"を使ってもよいとしています*3)。初出で"at least one leg"とした場合、その後の「ことわり」の表現は"the at least one leg comprises a plurality of legs"のようになります。

PCT出願などにおいては、「ことわり」の表現を補足するのは難しいかも知れませんが、「ことわり」の表現を加えるというひと工夫で英文クレームが理解しやすくするなるため、一考の価値があるかと思われます。

*1, *2, *3:Faber, Robert C. "Chapter 3 Apparatus or Machine Claims", "Section 3-11 Singular and Plural Elements". Faber on Mechanics of Patent Claim Drafting, 7th ed., Practising Law Institute, 2017.

-Faber on Mechanics of Patent Claim Drafting, コラム特許翻訳

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