「両方」「両者」「両側」の「両」は"both"より"two"の方が適切なことが多い:『科学論文の英語用法百科』から学ぶ特許英語~both~

グレン・パケット著『科学論文の英語用法百科』を題材に、特許翻訳における適切な英語表現について考えていきます。※※

今回は、特許明細書で多用される「両」に対応する「both」(p.142-145)について見ていきます。

1.第1編 よく誤用される単語と表現 Chapter 28 ~both~

28.1 誤って二つの物事の関係を示すために使用される場合

冒頭の注釈において、日本語に起因するbothの問題について、次のように解説されています。

本章で取り扱う主な問題は、日本語の「両」(・・・・・方、者、など)の直訳に起因すると思われる。もちろん、「両」をbothと訳すことが適切な場合もたくさんあるが、実際、「両」と比べてbothの使用範囲は狭い。

また、bothの一般的な用法について、次のように解説されています。

一般に、bothは、それが表している二つのものに関して述べられている内容がその二つに個別に当てはまる場合にのみ、適切に用いられる。文法的に言えば、これは、動詞が表す動作や状態が、bothが(代名詞の場合)指している二つの名詞、または(形容詞の場合)修飾している二つの名詞に対して個別に当てはまるということである2

次の誤用例では、bothの上記一般的用法(「二つに個別に当てはまる」)ではなく、「二つの物事の関係」を表す文脈でbothが使用されており、不適切な例とされています(本書に紹介されている10組の例のうち、2組を以下に示します)。

誤用例[1] Both of these terms agree.
リライト例(1) These two terms agree.
誤用例[8] There is a difference between the delay times for both sensors.
リライト例(8) There is a difference between the delay times for the two sensors. 

誤用例[1]について、次のように解説されています。

たとえば、[1]は、"both"が正しく用いられているとすれば、The first term agrees, and the second terms agreesのように二つの節に区分しても意味は変わらないはずである。しかし、この書き換えられた文の意味は、"first term"がある言及されていない何かと一致しており、"second term"はもう一つの言及されていない何かと一致しているということになり、[1]の本来表そうとした、これらの"terms"が互いに一致しているという趣旨とは異なる3

誤用例[8]も同様に、bothが正しく用いられているとすれば、[8]はThere is a difference between the delay time for the first sensor, and there is a difference between the delay time for the second sensorと同じ意味になるところ、文意は明らかにこれとは異なると解説されています。

誤用例との比較のために、bothが正しく用いられた例が2つ紹介されており、そのうちの1つを以下に示します。

正しい用例(11) Both of these predicted values are consistent with their experimental counterparts.

(11)は、The first predicted value is consistent with its experimental counterpart, and the second predicted value is consistent with its experimental counterpartと同意のため、bothが正しく用いられています。

28.2 否定的な表現における曖昧な使用

bothが否定的な表現とともに使用されると、ほとんどの場合、文意が曖昧になります。以下にそのような例とリライト例を示します。

誤用例[1] Both of these procedures are not well defined.
リライト例(1) Neither of these procedures is well defined.
リライト例(1*) At least one of these procedures is not well defined.

誤用例[1]は二つの解釈が可能であり、これらが二つのリライト例で明確にされています。


※本記事は、著者グレン・パケット氏の許可を得て作成しています。
※※本記事は、判例(英文法だけでなく特許明細書の記載内容など様々な証拠を考慮して判断される)とは相容れない部分がある可能性があります。本記事は、純粋に英文法の側面から見た適切な英語表現を考えていくことを目的としています。


2.『科学論文の英語用法百科』について

学術論文における英作文についての解説書シリーズ。現在、「第1編 よく誤用される単語と表現」と「第2編 冠詞用法」が出版されている。

筆者は、9年間にわたって、日本人学者によって書かれた約2,000本の理工学系論文を校閲してきた。その間、「日本人の書く英語」に慣れていく中で、日本人特有の誤りが何度も論文中に繰り返されることに気付いた。誤りの頻度は、その英語についての誤解がかなり広く(場合によってほぼ普遍的に)日本人の間に浸透していることを反映しているだろう。そのような根深く定着している誤りに焦点を当て、誤りの根底にある英語についての誤解をさぐり、解説することがシリーズの基本的な方針になっている。(第1編「序文」より)

第1編 よく誤用される単語と表現

シリーズの第一巻となる本書では、日本人にとって使い方が特に理解しにくい単語や表現を扱っている。

第2編 冠詞用法

冠詞についての誤解が原因となる日本人学者の論文に見られる誤りの多さ、またその誤りに起因する意味上の問題の深刻さがゆえに、当科学英語シリーズにおいて冠詞が優先度の高いテーマとなり、この本を第二編とすることにした。(p.1)

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