当社では、昨年から翻訳作業にChatGPTを活用しており、今ではなくてはならないものとなっています。活用といっても、ChatGPTを翻訳生成ツールとして使用するのではなく、主にネイティブチェックの代替と技術内容の確認のために使用しており、これらを目的したツールとしてなくてはならないものとなっています。
以下、ネイティブチェックの代替と技術内容の確認について、また当社がこれまでChatGPTを使用して気づいた点について説明します。
ネイティブチェックの代替
特許翻訳では、翻訳文が長く複雑になりやすいため、翻訳者は自分が作成した英訳文の意味が通じるかどうかを客観的にチェックできることが理想です。当社は、この確認作業をChatGPTを使ってしています。
このような確認は、以前は取引のあるネイティブの特許弁護士に依頼して行うことが多かったですが、忙しい相手に何度も依頼することは気が引け、また時間(とときにコスト)がかかってしまうため、効率的ではないと感じていました。
ChatGPTでは、非常に詳しいフィードバックが即座に得られるため、これまでのネイティブチェックを代替するかそれ以上の役割をChatGPTが果たしていると実感しています。
具体的には、ChatGPTは、入力した英訳文が通じるか通じないかを教えてくれるだけでなく、通じる場合は、どのような意味として通じているかを詳しく説明してくれます。また、通じない場合は、「もしこのような意味が意図されているのであれば、こんな風に書き直してはどうか」という提案をしてくれます。
このように、意図通りの翻訳ができているかどうかを即座に確認することができるという優秀な側面がChatGPTにはあると思います。
技術内容の確認
翻訳では正確な技術内容の理解が必要不可欠ですが、ときには原文に記載された技術的な説明がどうしても理解しにくいことがあります。そんなときに、ChatGPTを使って技術内容を確認することで、原文を正確に理解して誤訳の可能性を排除できます。
このような確認は、以前は専門書にあたったり、Google検索することによって時間をかけて行っていましたが、ChatGPTによって知りたい情報を即座に得ることができるようになりました。
もちろん、ChatGPT以外のソースによる裏付け作業が必要ですが、ChatGPTは確認作業の的確な方向を示す叩き台として有用と考えています。
コストパフォーマンスの高さ
ChatGPTは無料で使用できますが、当社はサービス内容がより充実した有料版を使用しています(現在、月額20USドル)。この毎月数千円のコストは、上記したメリットを考えると非常に経済的だと思います。迅速かつ丁寧なフィードバックが得られるため、翻訳プロセスの時間短縮とより質の高い翻訳が可能です。
効果的なプロンプトの重要性
ChatGPTの最大の効果を引き出すためには、プロンプトと呼ばれる指示をChatGPTに適切に与える必要があります。特に、上記のネイティブチェックに関する作業では、原文を過不足なく訳すという特許翻訳の制約を考慮して、より慎重なプロンプト作成が求められると実感しています。
当社は、最初は適切なプロンプトの作成に試行錯誤していましたが、『ChatGPT翻訳術』(山田優著)という本を参考にするようになってからは、効果的なプロンプトを作成するにはどうしたらよいかについて分かってきました。
良いプロンプトとは、具体性があり、目的が明確であるということがよく言われます。『ChatGPT翻訳術』は、このようなプロンプトが細かい事例に分けてたくさん紹介されており、非常に参考になります。例えば、「正確性エラーがないか」を確認するためのプロンプトとして、次のようなものが例示されています。
あなたはプロの翻訳チェッカーです。下の【原文】の日本語と【訳文】の英語を比べて、用語のエラーがないかを確認してください。【原文】の命題が【訳文】で失われるような正確性エラーがないかを確認してください。もしも正確性エラーが疑われる箇所がある場合は、その部分を抜き出して説明をしてください。最後にそれらのエラーを訂正した正しい訳文をください。
【原文】**日本語の原文を記入する**
【訳文】**チェックしたい訳文を記入する**
(p.136)
同書では、この例以外にもたくさんのプロンプト例が用意されており、それらから特許翻訳で利用できそうな部分を取り入れて独自のプロンプトを作ることが考えられます。
以上のように、当社ではChatGPTを翻訳生成ツールとしてではなく、ネイティブチェックの代替と技術内容の確認のために用いており、この2点のためだけでも非常に有用で、かつ経済的なツールだと思っています。また、効果的なプロンプトを作成することが重要と実感しており、より良いのプロンプトのために改良を続けていこうと考えています。