『ロボジョ! 杉本麻衣のパテント・ウォーズ』は、大学生が独自に開発した技術を使ってロボットコンテストで活躍し、また学生ベンチャーとして奮闘する様子を描いた小説です。
開発した技術の特許出願や家電メーカーへのライセンス供与を通して、主人公たちは特許制度の基礎を学んでいきます。これに合わせて、登場した特許用語の意味が注釈で解説され、さらに巻末に特許制度などを図解したコラムが掲載されています。
特許制度を解説するための取ってつけたようなストーリーではなく、機密情報の漏洩に関するいくつかの伏線が終盤で回収されるなど、ミステリーの要素もあり、読み応えを感じました。
主人公の実家が町工場であることや、ライバル企業と争うコンペ、特許権侵害、情報漏洩、仲間の裏切りなどの出来事は、あの『下町ロケット』(特に「ゴースト」「ヤタガラス」あたり)を彷彿とさせます(同じく、同シリーズにおける神谷弁護士のような活躍をする優秀な弁理士が物語全般にわたって登場します)。
『下町ロケット』と同じく、主人公たちはライバルに勝って物語は終わりますが、これは単なる勧善懲悪ではなく、敗者(ゴロテックというメーカー)には敗者なりに社会を良くしたいという正義があり、これを語るゴロテックを通して問題提起が行われています。
...人類を進歩させてきたのは模倣なんだよ。そして、我々ゴロテックが様々な技術を模倣してきたことで、世の中に広く技術が行き渡り、その恩恵を受けた人たちも多いんだ。(p.241)
我々が堅実な無名のスタートアップ企業を支援したり、多くの博士人材を積極的に採用したりしているのも、彼らの可能性にかけているからだ。そこまでしている日本企業がいったいどれだけある?(p.243)
本書は、ミステリー小説と特許制度の解説書を両立させており、特許制度の入門書として適していると思います(表紙と内容から、マンガ化の可能性も感じます)。