グレン・パケット著『科学論文の英語用法百科』を題材に※、特許翻訳における適切な英語表現について考えていきます。※※
今回は、前章で扱ったsuch asに関連して、「such as, so as, such that, so that」(p.578-581)について見ていきます。この章は、次のような注意書きで始まっています。
such as、such that、so as、so thatという四つの表現はよく混同される。これらの表現は、意味的には似てはいるが、一般に、互いに交換することはできない。本章では、これらの用法を個別に説明する1。
Table of Contents
1.第1編 よく誤用される単語と表現 Chapter 119 ~such as, so as, such that, so that~
119.1 such as
前章で詳しく解説されているように、such asは、ある共通の特性によって定義されている「種」の物事が意識されており、例として挙げられている物事もその特性を持っているがゆえにその種を「代表している」という意味を表します。この点で、such asは類似表現のfor exampleと異なります(詳しくは前章参照)。
such asを使った例文の1つを以下に記載します。
(2) During the experiments, a thick layer of insulating material was wrapped around the tube to minimize certain undesirable effects, such as the loss of heat to the external environment. |
119.2 so as
so asは、以下の例文から明らかなように、for the purpose ofまたはin such a manner thatと同義とされています。
(1) During the experiments, a thick layer of insulating material was wrapped around the tube so as to minimize the loss of heat to the external environment. |
so as to minimizeにおいてso asを削除しても文意はさほど変わらない場合が多いものの、so asは述べられている行為が望み通りの結果をもたらすようにある特別な方法によって行われたという強調を示すとされています。
119.3 such that
such thatは、名詞を修飾するために用いられ、通常、of a type thatまたはwith the property thatに近い意味を示すとされています。
(1) During the experiments, a thick layer of insulating material was wrapped around the tube in a manner such that the loss of heat to the external environment was minimized. |
この例文では、such thatが名詞mannerを修飾しており、断熱材が、熱ができるだけ漏れないように特別な巻き方で管に巻かれたという状況を描写しています。
ここで、such thatを動詞を修飾する目的で使用するのは広く浸透した誤用であり、次の例文のように、意味をなさない文になる原因になるとされています。
[2] In our preliminary study [3], we ignored the convection term such that we could easily determine the behavior in the small γ regime. |
この例文で意図された意味は、"γ"が小さい場合のふるまいを明らかにするために対流の項を無視した、と思われるところ、such thatが名詞termを修飾していると解釈せざるを得ないため、実際に示されている意味はかなり不自然であると解説されています。この文の最も単純な訂正法は、such thatをso thatに替えることであり、これによってso that we...は動詞ignoredを正しく修飾する副詞になるとされています。
119.4 so that
so thatには、一般的に次の2つの意味があるとされています。
・for the purpose ofまたはin order thatのような意味(so thatの前にコンマがない)
・with the consequence thatまたはand thereforeのような意味(so thatの前にコンマがある)
so thatが使用された例文を以下に記載します。
(1) During the experiments, a thick layer of insulating material was wrapped around the tube, so that the loss of heat to the external environment was minimized. |
ここでは、so thatがand thereforeのような意味を示しているとともに、断熱材を、述べられた結果をもたらすように巻こうとした、という意図も示しています。
ここで、soの前のコンマを削除すると、(1)が表している因果関係の趣旨がなくなり、管に断熱材を厚く巻いた行為の目的を明らかにする内容になります。しかし、このような意味を正しく表すためには、動詞wasをwould beに替える必要があるとされています。
(1)との比較例として、次のような例文が記載されています。
so thatが使用された例文を以下に記載します。
(2) These somewhat involved steps were taken so that it would not be necessary to remove the sample from the chamber after it was heated. |
ここでは、so thatはin order thatと同義です。ここで、so thatの前にコンマを入れると、(2)はThese somewhat involved steps were taken. As a result, it would not be...に等しくなります。しかし、明らかにこの文は意味を成しておらず、would not beをwas notに替えると、一応意味を成す文になるものの、その意味はかなり不自然と解説されています。
※本記事は、著者の許可を得て作成しています。
※※本記事は、判例(英文法だけでなく特許明細書の記載内容など様々な証拠を考慮して判断される)とは相容れない部分がある可能性があります。本記事は、純粋に英文法の側面から見た適切な英語表現を考えていくことを目的としています。
2.『科学論文の英語用法百科』について
学術論文における英作文についての解説書シリーズ。現在、「第1編 よく誤用される単語と表現」と「第2編 冠詞用法」が出版されている。
筆者は、9年間にわたって、日本人学者によって書かれた約2,000本の理工学系論文を校閲してきた。その間、「日本人の書く英語」に慣れていく中で、日本人特有の誤りが何度も論文中に繰り返されることに気付いた。誤りの頻度は、その英語についての誤解がかなり広く(場合によってほぼ普遍的に)日本人の間に浸透していることを反映しているだろう。そのような根深く定着している誤りに焦点を当て、誤りの根底にある英語についての誤解をさぐり、解説することがシリーズの基本的な方針になっている。(第1編「序文」より)
第1編 よく誤用される単語と表現
シリーズの第一巻となる本書では、日本人にとって使い方が特に理解しにくい単語や表現を扱っている。
第2編 冠詞用法
冠詞についての誤解が原因となる日本人学者の論文に見られる誤りの多さ、またその誤りに起因する意味上の問題の深刻さがゆえに、当科学英語シリーズにおいて冠詞が優先度の高いテーマとなり、この本を第二編とすることにした。(p.1)