第5回 半導体プロセス詳細解説(2)
前回は、シリコンから半導体デバイスになるまでということで、半導体プロセスの中のリソグラフィ、エッチング、洗浄、そして素子分離技術とゲート電極の形成について説明しました。また、半導体技術の進化の指標のひとつでもあるムーアの法則についても解説しました。
その中でも触れた要素技術について、今回改めてより深い解説を試みます。
● 要素技術
1.イオン注入 (Ion Implantation)
1-1. イオン注入の原理と目的
イオン注入は、不純物原子(ドーパント: dopant)をイオン化し、高電圧で加速して運動エネルギーを持たせ、シリコン (Si) ウェハ表面に衝突・貫入させることで、ウェハの電気的性質を局所的に制御する技術です。
目的
- 導電型の制御: p型 (B) や n型 (P, As) の不純物を注入し、FETのソース/ドレインやウェル領域などの導電型と抵抗率を正確に決定します。
- 濃度と深さの精密制御: 注入するイオンの量(ドーズ量)と加速エネルギーを制御することで、不純物の濃度と深さ(プロファイル)を極めて精密に設定できます。
1-2. イオン注入装置(インプランター)の構成
イオン注入は、専用のイオン注入装置 (Ion Implanter) という大型の装置内の高真空下で行われます。主要な構成要素は、以下の通りです。

1-3. イオン注入工程のステップ
具体的な創造プロセスにおけるイオン注入は、通常以下のステップで行われます。
ステップ 1: マスクの準備
注入したい領域と注入したくない領域を分けるためのマスクを用意します。
- フォトレジストマスク: 主にウェルやLDD(軽濃度ドレイン)など、比較的広い領域の分離に使われます。
- 酸化膜マスク: ゲート酸化膜やフィールド酸化膜など、層間絶縁膜をマスクとして利用する場合もあります。
- ゲート電極: ソース/ドレインの高濃度注入では、すでに形成されたゲート電極がマスクとして機能します(自己整合注入: self-aligned implantation)。
ステップ 2: イオン注入
マスクで保護されていない領域にイオンを注入します。
- (1)ウェハ搬入: ウェハが装置のプロセスチャンバーに搬入され、固定されます。
- (2)ドーズ量とエネルギー設定: 所望の不純物濃度と深さに応じて、加速電圧(エネルギー)とイオンビームの量(ドーズ量:個数/cm2)を設定します。
- (3)注入実行: イオンビームがウェハに照射されます。イオンはマスクのない領域のシリコン原子の間に高速で突き刺さり、結晶格子を損傷しながら停止します。
ステップ 3: アニール(活性化熱処理)
イオン注入後、ウェハは必ず高温で短時間の熱処理(アニール)を受けます。
- 目的 (1) 結晶欠陥の修復: 高速なイオン衝突によって破壊されたSiの結晶構造を修復します。
- 目的 (2) 電気的活性化: 注入された不純物原子をSiの結晶格子中の置換位置に移動させ、不純物がキャリア(電子または正孔)を供給できるようにします。
- 手法: 注入された不純物の横方向や深さ方向への拡散を最小限に抑えるため、RTA (Rapid Thermal Anneal) やレーザーアニール (Laser Anneal) など、短時間で高温にする技術が用いられます。
このアニール工程を経て、はじめて注入された不純物がFETとして機能するための電気的特性を獲得します。
2.拡散 (Diffusion)
2-1. 拡散工程の原理と目的
拡散工程は、高温の熱エネルギーを利用して、シリコン(Si)ウェハ表面に存在する不純物原子(ドーパント)をSiの結晶格子中に移動・浸透させるプロセスです。
原理(フィックの法則)
高温下では、不純物原子は濃度が高い領域から低い領域へ移動しようとします。この現象はフィックの法則に従い、熱を加えることで不純物の原子がSiの結晶格子中の空孔(Vacancy)や格子間を移動することで実現します。
目的
(1)不純物プロファイルの形成: ウェルや抵抗体などのp-n接合を形成するために、所定の深さ、濃度、および形状(プロファイル)の不純物領域を作ります。
(2)電気的活性化: 注入またはドープされた不純物をSi結晶の置換位置に定着させ、電気的なキャリア(電子または正孔)を供給できるようにします。
(3)接合深さの制御: アニール(熱処理)の時間と温度を制御することで、不純物層の深さ(接合深さ)を正確に調整します。
2-2. 拡散装置(拡散炉)の構成
拡散工程は、主に拡散炉(Diffusion Furnace)と呼ばれる専用の装置で行われます。

2-3. 拡散工程のステップ(不純物導入の場合)
拡散工程は、初期の製造プロセスでは不純物を導入する主要な手段でしたが、現代ではイオン注入後のアニール(拡散、焼きなまし)工程として利用されることが多いです。不純物を拡散によって導入する際の基本的なステップは以下の通りです。
ステップ 1: プレデポジション (Pre-Deposition, 予備堆積)
ウェハ表面にごく薄い不純物層を形成します。
(1)マスクの形成: 拡散させたくない領域はSiO2などのマスクで覆っておきます。
(2)ドーパントの供給: BやPなどのドーパントを含むガス(例: B2H6, POCl3)を炉心管内に流し、ウェハ表面で熱分解させて不純物を堆積させたり、ウェハ表面のSiO2に不純物源を吸着させたりします。
(3)表面濃度決定: このステップで、Si表面における不純物原子の最大濃度が決定されます。
ステップ 2: ドライブイン (Drive-In, 追い込み拡散)
予備堆積で表面に付着させた不純物原子を、Si基板内部の目的の深さまで拡散させます。
(1)雰囲気と温度設定: 拡散炉の温度をさらに高温(通常、1000℃以上)に設定し、ドーパントガスではなく、不活性ガス(N2)や酸化性ガス(O2)などの雰囲気ガスを流します。
(2)不純物の浸透: 熱エネルギーにより、表面の不純物原子がSi内部へと拡散し、所定の接合深さを形成します。
(3)プロファイルの決定: このステップの時間と温度によって、接合深さと不純物プロファイル(濃度勾配)が決定されます。
3.成膜 (Deposition)
成膜(Deposition)は、半導体ウェハの表面に、回路を構成する絶縁膜、半導体膜、または金属膜を薄く堆積させるプロセスです。
主な種類は、CVD(化学気相成長)とPVD(物理気相成長)に大別され、それぞれ異なる原理と装置が用いられます。
3-1. 成膜の種類と原理
(1) CVD (Chemical Vapor Deposition: 化学気相成長)
ガス状の前駆体(Precursor)をウェハ表面に供給し、熱エネルギーやプラズマエネルギーを使って化学反応を起こさせることで、目的の材料を堆積させる方法です。
- 原理: 反応ガスが分解し、原子や分子がウェハ表面で反応して固体の膜を形成します。副生成物はガスとして排出されます。
- 特徴: 膜の均一性やステップカバレッジ(段差被覆性)に優れています。
- 用途:SiO2(酸化膜)、SiN(窒化膜)、ポリシリコンなどの絶縁膜・半導体膜の形成。
(2) PVD (Physical Vapor Deposition: 物理気相成長)
固体ターゲットの原子を物理的な方法で叩き出し、気化させてウェハ表面に付着させる方法です。主にスパッタリングがこれにあたります。
- 原理: 真空中でプラズマを発生させ、アルゴンなどのイオンをターゲット(成膜したい材料の固体塊)に高速で衝突させます。叩き出されたターゲット原子がウェハに到達し、膜を形成します。
- 特徴: 金属膜の形成に適しています。
- 用途: 配線用のAl(アルミニウム)、Ti(チタン)、Ta(タンタル)などの金属膜やバリアメタル層の形成。
(3) ALD (Atomic Layer Deposition: 原子層堆積)
原子層レベルで膜厚を精密に制御する、特殊なCVD法です。
- 原理: 2種類以上の前駆体ガスを交互にパルスで導入し、自己飽和吸着の特性を利用して膜を原子一層ずつ成長させます。
- 用途: High-k(高比誘電率)ゲート絶縁膜(HfO2など)、極めて薄く均一なバリア層の形成。
3-2. CVD工程のステップと装置(例:低圧CVD/LPCVD)
CVDは、プロセス条件によって常圧(APCVD)、低圧(LPCVD)、プラズマ励起(PECVD)などに分類されますが、ここではLPCVDを例にとります。
ステップ 1: ウェハの準備と炉内搬入
(1) ウェハ洗浄: 成膜前にウェハを洗浄し、表面のパーティクルや汚染物を除去します。(2) 炉内搬入: ウェハをボートに立ててセットし、LPCVD炉(拡散炉に似た縦型または横型装置)の炉心管内に搬入します。
ステップ 2: 成膜反応(加熱・ガス導入)
(1) 加熱と減圧: 炉心を目的の温度($500℃〜800℃程度)に加熱し、圧力を下げて低圧状態にします。
(2) 前駆体ガスの導入: 目的の膜材料に対応した反応ガス(例:SiH4(シランガス)とNH3(アンモニア)でSiNを成膜)を流量制御しながら導入します。
(3) 化学反応: ガスがウェハ表面で熱分解し、化学反応によって膜が堆積します。
ステップ 3: 堆積と排気
(1) 膜厚制御: ガス流量、温度、時間を厳密に制御して、目的の膜厚に達するまで堆積を続けます。
(2) 排気: 成膜が完了したら、炉心管内のガスを排気し、不活性ガス(N2)に置換します。
3-3. PVD工程のステップと装置(例:スパッタリング)
スパッタリングは、金属配線やバリアメタル層の成膜によく用いられます。
ステップ 1: ウェハの搬入と真空引き
(1) ウェハ搬入: ウェハをスパッタリング装置の真空チャンバー内にセットします。
(2) 高真空排気: チャンバー内を高真空に排気します。これにより、成膜粒子が空気分子に衝突するのを防ぎます。
ステップ 2: スパッタリング(イオン衝撃と堆積)
(1) スパッタガス導入: Ar(アルゴン)などの不活性ガスを少量導入します。
(2) プラズマ発生: Arガスに高電圧を印加し、プラズマを発生させます。Arイオン(Ar+)が加速されます。
(3) ターゲット衝撃: 加速されたArイオンが、成膜したい材料の固体塊であるターゲットに高速で衝突します。
(4) 原子放出と堆積: ターゲット原子が弾き飛ばされ(スパッタ)、ウェハ表面に飛行して付着し、膜を形成します。
ステップ 3: 成膜完了と搬出
目的の膜厚に達した後、プラズマを停止し、チャンバー内を排気・大気圧に戻してからウェハを搬出します。
課題: スパッタリングは、ウェハに対して物理的に膜を振りかけるような方法であるため、深い溝や穴の底まで均一に膜を形成するのが難しい(ステップカバレッジが悪い)という欠点があります。このため、Cu配線形成などでは、その後の工程(めっき)でこの欠点を補う必要があります。
4.CMP (Chemical Mechanical Polishing)
CMPは、半導体ウェハ表面のナノメートルレベルの凹凸を化学反応と機械的な研磨の組み合わせで除去し、完全に平坦化するための極めて重要な工程です。多層配線構造(メタル層)を積み重ねる際に不可欠な技術です。
4-1. CMPの基本原理
CMPは、単純な物理的な研磨ではなく、化学的作用と機械的作用を同時に利用するプロセスです。
- 化学的作用: 研磨対象の膜(例:SiO2やCu)がスラリー (slurry) 中の化学薬品と反応し、表面に柔らかい化学反応層(例:酸化層)を形成します。
- 機械的作用: スラリー中の砥粒が、パッド上でウェハを物理的にこすることで、この柔らかい反応層のみを削り取ります。
この相乗効果により、高い平坦性を実現しながら、表面の損傷を最小限に抑えることができます。
4-2. CMPに必要な材料
CMP装置以外に、主に以下の3つの要素が組み合わされて使用されます。
(1) スラリー (Slurry)
研磨の主役となる液体の混合物です。
- 砥粒(Abrasion Particles): 膜を機械的に削る役割を担う微粒子。
o 例:SiO(シリカ)、Al2O3(アルミナ)、CeO2(セリア)など。粒径はナノメートル単位で厳密に制御されます。
- 化学薬品 (Chemicals): 研磨対象の膜を化学的に溶解させたり、表面に反応層を形成させたりする成分。
o 例: H2O2(過酸化水素水、Cuを酸化させる)、KOH(水酸化カリウム)、各種錯化剤やpH調整剤。
- 溶媒: 超純水(UPW: Ultra-Pure Water)が使われます。
(2) 研磨パッド (Polishing Pad)
ウェハ表面を物理的にこする土台となる多孔質のシートです。
- 材料: ポリウレタン系の樹脂が一般的です。
- 役割: スラリーを保持し、ウェハに対して均一な摩擦力を与えることで、物理的な研磨を助けます。表面にはスラリーを循環させるための溝が掘られています。
(3) ドレッサー (Pad Dresser)
研磨パッドの表面が消耗したり、研磨カスで目詰まりしたりするのを防ぎ、常にパッドのコンディションを保つための工具です。ダイヤモンド砥粒を埋め込んだ円盤状のものが使われます。
3-3. CMP工程のステップ
CMPは、専用のCMP装置(ポリッシャー)で行われます。
ステップ 1: ウェハのセットと研磨の開始
(1) ウェハの固定: ウェハをヘッド(キャリア)に吸着させ、研磨パッドに押し付けられるようにセットします。
(2) スラリーの供給: 回転する研磨パッド上に、CMPスラリーを連続的に供給します。
(3) 回転と加圧: ヘッドとパッドの両方を回転させながら、ウェハをパッドに一定の圧力で押し付けます。
ステップ 2: 化学機械的な研磨
(1) スラリー中の化学薬品がウェハ表面と反応し、柔らかい層を形成します。
(2) パッドの回転と砥粒の摩擦により、この柔らかい層のみが削り取られていき、凹凸の「凸」部分が先に削られるため、ウェハ全体が平坦化されます。
(3) ウェハの回転数、加圧力、スラリーの供給速度などを厳密に制御し、目的の膜厚と平坦性に達するまで研磨を続けます。
ステップ 3: 終点検知 (End-Point Detection)
研磨すべき膜が目的の厚さに達した瞬間、または下層の膜が露出した瞬間を光学的手法(例:ウェハ表面からの反射光を分析)などでリアルタイムに検知し、研磨を停止します。
ステップ 4: クリーニングと乾燥
(1) ポスト CMP クリーニング: 研磨後、ウェハ表面にはスラリーの砥粒や研磨カスが大量に付着しています。これを、ブラシスクラブや薬液洗浄によって徹底的に除去します。
(2) 乾燥: クリーニング後、ウォーターマークを防ぐために、IPA(イソプロピルアルコール)などを用いた高度な乾燥技術(例:マランゴニ乾燥)でウェハを乾燥させます。
このCMP工程により、層間にできた段差が解消され、次々と複雑な配線層を積み重ねるための平坦な基盤が確保されます。
5.検査・測定・試験 (Inspection, Measurement, Test)
半導体製造の前工程(ウェハプロセス)が完了した後、チップがパッケージングされる後工程に移る前に、ウェハ上で包括的な電気的検査、測定、試験が実施されます。これは、製造されたトランジスタや回路が設計通りに機能しているか、また歩留まり(良品率)がどの程度かを評価するために不可欠です。
主要な検査、測定、試験の具体的な例を、ステップと目的別に説明します。
5-1. プロービング検査 (Probing/Sort)
これは、前工程完了後のウェハに対して最初に行われる、最も重要な電気的試験です。

装置: ウェハプローバ (Wafer Prober)
ウェハを固定し、多数の細い針(プローブ)が付いたプローブカードをチップ上のパッド(電極)に接触させ、テスタ(ATE:自動テスト装置)と接続して電気信号の入出力を行います。
5-2. 欠陥・構造測定 (Defect & Structure Analysis)
電気特性だけでなく、ウェハ上に物理的な欠陥や、回路寸法のズレがないかを光学的に測定します。

5-3. 歩留まり管理と解析 (Yield Management)
上記の結果に基づき、製品の品質と生産性を評価します。

これらの検査・測定・試験をパスした良品チップのみが、ウェハから切り出され(ダイシング)、後工程のパッケージングや最終テストへと進みます。
次回は、パッケージング工程から主な半導体デバイスの動作原理を解説します。
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