prior art(先行技術)
特許出願の有効出願日よりも前に入手可能であった情報のことをいう。係属中の特許出願に含まれるクレームによって定義される発明が、先行技術により教示、提案、又は示唆されている場合、審査官はそのクレームを拒絶する。
102条には、新規性の基準(anticipation・先行性ともいう)が規定され、103条には、非自明性の基準が規定されている。
先行技術は、必ずしも英語で書かれている必要はない。実際、審査官が特許出願のクレーム内容について調査する際に取り扱う先行技術には、英語以外の言語によって書かれた技術文書や特許文書を英語で要約したものなどが含まれる。
拒絶理由が要約に基づいて発せられる場合、拒絶の根拠は要約内に教示されているものでなければならない(文書本文に含まれているものであってはならない)。科学文書とその要約の両方が先行技術の場合、要約のみを引用して拒絶の根拠とし、科学文書自体を引用せずに拒絶の根拠としなければ、その拒絶は一般に不適切とされる。審査官は、英語以外の言語によって書かれた文書の英訳の提出を要求し、文書本文自体も先行技術であるかどうかを決定する。
出願人が、明細書又は審査過程において他人の文献を「先行技術」と記載した場合、自認とみなされ、実際に先行技術に該当するかどうかに関わらず、新規性や非自明性を決定する際に根拠とされることがある。
102条に基づく拒絶と103条に基づく拒絶の違いは重要である。102条による拒絶の場合、クレームは先行技術によって先行されている。ここでは、自明性の問題は問われない。つまり、102条に基づく新規性においては、クレームされている発明のすべての要素(aspect)が先行技術によって明示的に教示されていなければならない。一義的に教示されていない特徴は、本来備わっている(inherent)特徴でなければならない。
103条による拒絶の場合、先行技術による教示に何らかの変更を加えることによって、クレームの範囲をカバーするようなものでなければならない。また、ここでの変更は、発明がなされた時点において当業者(“POSITA”(a person of ordinary skill in the art))にとって自明であったものでなければならない。
次の例を見てみる。
先行技術文献1→要素A、B、C、Dを教示。
先行技術文献2→要素A、Eを教示。
クレーム1: A system comprising A, B, and C.
クレーム2: The system of claim 1 further comprising A and E.
この例では、クレーム1のすべての要素が先行技術文献1に開示されている。したがって、クレーム1は102条に基づき、先行技術文献1によって先行されている。
一方、従属クレーム2では、先行技術文献1、2の組み合わせによってクレーム2のすべての要素が教示されている。したがって、その組み合わせが当業者にとって自明であれば、クレーム2は103条に基づき、先行技術文献1、2の組み合わせによって自明となる。1つの先行技術文献のみによって103条拒絶の根拠を構成する場合もあるが、通常、上記の例のように、複数の先行技術文献を組み合わせなければならない。