グレン・パケット著『科学論文の英語用法百科』から学ぶ特許英語 ~change~


グレン・パケット著『科学論文の英語用法百科』を題材に、特許翻訳における適切な英語表現について考えていきます。※※

今回は、特許翻訳における頻出単語である「change」について見ていきます。

第1編 よく誤用される単語と表現 Chapter 34 ~change~

34.1 関数的依存性に対して誤用される場合

関数的依存性に対する誤用について、次のように解説されています。

数学的な内容において、一般的にchangeを、「関数的依存性」という意味を示すために用いるのは不適切である1

1本節で取りあげる誤用は、おそらく日本語の「変動」や「変化」をそのまま直訳してしまうことに起因するのであろう。一般的な関数的依存性を表す上で、「変動」、「変化」がchangeに当たらないことのい留意すべきである。(p.183)

この解説を踏まえて、計14の誤用例文をリライトした例が紹介されています。以下、そのうちの3例を記載します。

誤用例[1]: The eigenvalue of the ground state changes according to the change of $v$.
リライト例(1): The eigenvalue of the ground state /depends on/is a function of/ $v$.

誤用例[2]: The properties of the $\alpha$-process change accordingly with the change in $T$.
リライト例(2): The properties of the $\alpha$-process depend on $T$.

誤用例[4]: We plot $Z_{ \mu }$ with the change of connection strength in Fig. 2.
リライト例(4): We plot $Z_{ \mu }$ as a function of the connection strength in Fig. 2.

リライト例に関して、次のように解説されています。

上記の例文が示すように、ここで考えている多くの場合、changeを使って表そうとしている趣旨を、動詞ならdepend on, are functions of, evolve, fluctuateなどで、名詞ならdependence, evolution, fluctuation, dynamicsなどで正しく表すことができる。(p.185)

34.2 不必要に使用される場合

dynamicsにはchangeの意味が含まれているため、記載されている2つの例文においてchangeは不要であるとされています。以下はそのうちの1例文です。

誤用例[1]: However, the relation between the dynamical change of $\rho$ and the formation of $\phi$-tubules is not yet clear.
リライト例(1): However, the relation between the dynamic behavior of $\rho$ and the formation of $\phi$-tubules is not yet clear.
リライト例(1*): However, the relation between the dynamics of $\rho$ and the formation of $\phi$-tubules is not yet clear.

34.3 誤って無生物が「自分を変える」という意味を示すために使用される場合

「ある無生物が自分を変えるというような状況を描写しているため、意味的には不適切」な例文が5つ紹介されており、以下にそのうちの3例を記載します。

誤用例[1]: The point changes its type according to the map $g_{ n }(x)$.
リライト例(1): The type of the point changes in accordance with the map $g_{ n }(x)$.
リライト例(1*): The type of the point changes as it is mapped under $g_{ n }(x)$.

誤用例[2]: We see in this figure that $F$ changes its $K$ dependence.
リライト例(2): We see in this figure that the nature of the $K$ dependence of $F$ changes.

誤用例[3]: The element at position 1 changes its period from $T_{ 0 }$ to $2T_{ 0 }$.
リライト例(3): The period of the element at position 1 changes from $T_{ 0 }$ to $2T_{ 0 }$.

「自分を変える」場合の誤用について、さらに次のように解説されています。

英語では、あるものが自分を変えるというような意味を表す表現には、そのものが自発的に行動をとることができるということが含意される。したがって、問題になっているものが無生物である場合には、こうした表現はかなり不自然である。もちろん、無生物(たとえば、ロボットなど)がこのように行動できると考えられる場合もあるが、そのような事例はまれであろう。(p.187)

34.4 varyの同義語として誤用される場合

changeとvaryは、多くの場合お互いに置き換えが可能であるものの、varyのみが適切な場合も存在するとされ、そのような例文が4つ紹介されています。以下、そのうちの2例文を記載します。

誤用例[3]: The beam current on the target was changed between 0.5 and 5 nA, depending on the scattering angle.
リライト例(3): The beam current on the target was varied between 0.5 and 5 nA by varying the scattering angle.
リライト例(3*): The beam current on the target took several values between 0.5 and 5 nA, as determined by the scattering angle.

誤用例[4]: The value of $y$ here can change continuously.
リライト例(4): The value of $y$ here can vary continuously.
リライト例(4*): Here $y$ is a continuous variable.

誤用例[3][4]の問題点について、次のように解説されています。

[3]は、ビーム電量は最初0.5 nAの値に置かれ、それから5 nAに(そしておそらく何回か0.5 nAと5 nAの間で)不連続に変えられたという状況を表している。訂正例は、それぞれ考えている量が変更される過程で、複数(場合によって連続的な値域)の値を次々にとるという趣旨となり、誤用例が本来表そうとした意味を正しく示している。[4]の場合は前出の例と異なる。この文の問題は、”change”の誤用により表現が数学的に不自然になっていることにある。(p.188)

34.5 誤ってdifferentの代わりに使用される場合

changeをdifferentの代わりに使用するという誤用について、次のように解説されています。

一般に、changeというのは過程であるから、単に二つの異なった状況を比較する場合には、その違いを「change」と呼ぶのは不適切である。(p.189)

以下、3つ紹介されている誤用例のうちの1つを記載します。

誤用例[1]: The value of the cosmological parameter $\Omega_{ 0 }$ is changed in this case, compared to the case with $\sigma \lt \sigma_{ 0 }$.
リライト例(1): The value of the cosmological parameter $\Omega_{ 0 }$ in this case differs from that in the case with $\sigma \lt \sigma_{ 0 }$.

誤用例[1]での「change」の誤った用法と比較すべき正しい用法として、次のような例文が記載されています。

(4) The value of the cosmological parameter $\Omega_{ 0 }$ changes as $\sigma$ increases beyond $\sigma_{ 0 }$.

この例文について、次のように解説されています。

[1]とは対照的に、この文が論じているのは、異なった場合における”$\Omega_{ 0 }$”についての差自体ではなく、その差が生じる過程である。したがって、ここでは”changes”の使用は正しい。(p.189)

34.6 名詞changeとreceiveとの誤った併用

動詞receiveと名詞changeが不適切に併用された例文として、次の例文が紹介されています。

誤用例[1]: Clearly, the moment $M_{ n }(Q^{ 2 })$ does not receive any change as a result of this replacement.
リライト例(1): Clearly, the moment $M_{ n }(Q^{ 2 })$ does not change as a result of this replacement.

ここでの問題について、次のように解説されています。

一般に、changeというのは、一つのものがもう一つのものから「もらう」というような事物ではない。すなわち、一つのものが、それ以外のものの影響によって変化(つまり、change)することはありうるが、changeという過程自体は完全に内在的な現象である。(p.189-190)


※本記事は、著者の許可を得て作成しています。
※※本記事は、判例(英文法だけでなく特許明細書の記載内容など様々な証拠を考慮して判断される)とは相容れない部分がある可能性があります。本記事は、純粋に英文法の側面から見た適切な英語表現を考えていくことを目的としています。


『科学論文の英語用法百科』について

学術論文における英作文についての解説書シリーズ。現在、「第1編 よく誤用される単語と表現」と「第2編 冠詞用法」が出版されている。

筆者は、9年間にわたって、日本人学者によって書かれた約2,000本の理工学系論文を校閲してきた。その間、「日本人の書く英語」に慣れていく中で、日本人特有の誤りが何度も論文中に繰り返されることに気付いた。誤りの頻度は、その英語についての誤解がかなり広く(場合によってほぼ普遍的に)日本人の間に浸透していることを反映しているだろう。そのような根深く定着している誤りに焦点を当て、誤りの根底にある英語についての誤解をさぐり、解説することがシリーズの基本的な方針になっている。(第1編「序文」より)

第1編 よく誤用される単語と表現

シリーズの第一巻となる本書では、日本人にとって使い方が特に理解しにくい単語や表現を扱っている。

第2編 冠詞用法

冠詞についての誤解が原因となる日本人学者の論文に見られる誤りの多さ、またその誤りに起因する意味上の問題の深刻さがゆえに、当科学英語シリーズにおいて冠詞が優先度の高いテーマとなり、この本を第二編とすることにした。(p.1)


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