第21回:判例~外国人及び特許代理資格―Lacavera事件(2006年)~(2023年1月16日)

2023年1月16日
著者:小野 康英(米国特許弁護士)

今回は、外国人による特許代理資格の取得を争点とするLacavera事件(2006年)を紹介する。

Lacavera v. Dudas, 441 F.3d 1380 (2006)

Ⅰ.事件の経緯

米国特許商標庁(USPTO: United States Patent and Trademark Office)は、特許法(35 U.S.C.)2条(b)(2)(D)により付与された権限に基づき、USPTOに対する特許代理人の承認についての規則を制定している。特許規則(37 C.F.R.)10.7(a)(2)(注1)は、特許代理人としてUSPTOに登録されるために、人物適正(good moral character and repute)、法律及び科学技術についての能力、及び、特許出願人に対する助言・支援の能力の立証を求める。また、特許規則10.6(a) (注2)は、外国人は、移民法上の要件と抵触しない限りにおいて、特許代理人としての登録を認められる旨を規定する。さらに、特許規則10.9(b) (注3)は、登録が移民法上の要件と抵触する場合であっても、移民法上の要件と整合する範囲で、外国人を限定承認(limited recognition)する旨を規定する。限定承認された外国人は、移民法上の要件と整合する範囲内で、USPTOに対する特許代理資格を認められる。USPTOは、非移民外国人が、特許代理人登録試験(Examination for Registration to Practice in Patent Cases before the United States Patent and Trademark Office)に合格した場合、USPTOはその非移民外国人を特許代理人として登録させず、移民法上の要件と整合する範囲で、外国人を限定承認することを特許規則10.9(b)は要求していると解釈しており、その旨を特許代理人登録試験の要項(PTO, General Requirements Bulletin (Nov. 3, 1999) ("GRB")に明記していた。

 

(注1) 現行の特許規則11.7(a)(2)に対応。37 C.F.R. 11.7(a) ("No individual will be registered to practice before the Office unless he or she has: ... (2) Established to the satisfaction of the OED Director that he or she: (i) Possesses good moral character and reputation; (ii) Possesses the legal, scientific, and technical qualifications necessary for him or her to render applicants valuable service; and (iii) Is competent to advise and assist patent applicants in the presentation and prosecution of their applications before the Office.")

(注2) 現行の特許規則11.6(a)に対応。37 C.F.R. 11.6(a) ("Attorneys. Any citizen of the United States who is an attorney and who fulfills the requirements of this part may be registered as a patent attorney to practice before the Office. When appropriate, any alien who is an attorney, who lawfully resides in the United States, and who fulfills the requirements of this part may be registered as a patent attorney to practice before the Office, provided that such registration is not inconsistent with the terms upon which the alien was admitted to, and resides in, the United States and further provided that the alien may remain registered only: (1) If the alien continues to lawfully reside in the United States and registration does not become inconsistent with the terms upon which the alien continues to lawfully reside in the United States, or (2) If the alien ceases to reside in the United States, the alien is qualified to be registered under paragraph (c) of this section. See also § 11.9(b).")

(注3) 現行の特許規則11.9(b)に対応。37 C.F.R. 11.9(b) ("A nonimmigrant alien residing in the United States and fulfilling the provisions of § 11.7(a) and (b) may be granted limited recognition if the nonimmigrant alien is authorized by the United States Government to be employed or trained in the United States in the capacity of representing a patent applicant by presenting or prosecuting a patent application. Limited recognition shall be granted for a period consistent with the terms of authorized employment or training. Limited recognition shall not be granted or extended to a non-United States citizen residing abroad. If granted, limited recognition shall automatically expire upon the nonimmigrant alien’s departure from the United States.")

Lacaveraはカナダ国籍で非移民の米国居住者である。Lacaveraは、2001年9月より、ニューヨーク州所在の法律事務所(White & Case)にて勤務を始めた。Lacaveraの米国滞在の根拠となるTN査証(H-1Bに類似するNAFTA加盟国専用の非移民査証)は、Lacaveraに、White & Caseにて特許出願書類の作成及び特許取得業務のみを認める内容であった。Lacaveraは、2002年4月17日に、特許代理人登録試験に合格した。しかし、USPTOは、Lacaveraに課された査証の制限を根拠に、特許代理人としての登録(full registration)を認めず、代わりに、Lacaveraに対し、査証で認められた業務範囲と整合する内容の限定承認をするにとどまった。

Lacaveraは、特許代理人としての登録を認めなかったこの処分を不服として、USPTOに不服を申し立てた。USPTOがこの不服申し立てを認めなかったため、Lacaveraは、行政手続法(Administrative Procedure Act, 5 U.S.C. §§ 702–706 (2000)に基づき、コロンビア特別区連邦地方裁判所(連邦地方裁判所)に訴訟を提起した。

同訴訟において、Lacaveraは、以下の主張をした。
(1)USPTOの決定は、特許規則に反する
(2)関係する特許規則は、規則制定権限を逸脱する
(3)USPTOの決定は、米国憲法平等保護条項に反する

Lacaveraは、処分無効のサマリー・ジャッジメント(正式事実審理を経ないでなされる判決)を求めたが、連邦地方裁判所は、逆に、処分有効のサマリー・ジャッジメントを言い渡した。これに対し、Lacaveraは本事件を連邦巡回区控訴裁判所(Fed. Cir.: United States Court of Appeals for the Federal Circuit)に控訴した。

Ⅱ.連邦巡回区控訴裁判所

1.結論

特許代理人としての登録をせず、限定承認を与える旨の処分有効のサマリー・ジャッジメントを維持。

2.法廷意見(多数意見)の概要(起草者:Mayer判事)

Lacavera氏に特許代理人としての登録を認めると、USPTOは、彼女が移民法上行うことが許されない行為について代理資格を付与することになるので、特許代理人としての登録はLacavera氏の査証と抵触するとのUSPTOの判断に裁量権の濫用はない。さらに、Lacavera氏の査証と整合する範囲で限定承認する旨の判断は、特許規則10.6(a)・10.9(b)及びGRBを適切に適用した結果であるから、この判断にも裁量権の濫用はない。

特許法2条(b)(2)(D)からは、USPTOが、特許代理人としての登録を認めるかどうかの判断にあたり、申請人の査証上の制限を考慮してよいかどうかが明らかでない。しかし、同規定は、USPTOは「有益な業務を行うのに必要な能力の保持の立証を申請人に求めることができる」と規定している。このため、USPTOが査証上の制限を上記能力との関係で考慮することは合理的であると言える。よって、査証上の制限の範囲内に外国人の代理権限を制限する旨の規制は合理的である。したがって、USPTOは、問題の規制を公布する行為は、特許法でUSPTOに認められた権限の範囲内にある。

最後に、Lacavera氏は、米国憲法平等保護条項(注4)に反すると主張する。Lacavera氏は、彼女が他の外国人と比較して不平等に取り扱われていることを示す証拠を提出しておらず、したがって、平等保護条項違反に起因して損害を被っているとは認定できない。さらに、問題の規制は、USPTOに対する無許可の法律行為及びそれに伴う公衆の被害を最小化するという、正当な法益と合理的に関連している(rationally related to a legitimate government interest)ため、平等保護条項に照らして、合法である。

以上の理由により、連邦地方裁判所のサマリー・ジャッジメントを維持する。

 

(注4) ここにいう米国憲法平等保護条項とは、逆組込み(reverse incorporation)により、米国憲法第5修正適正手続条項(Due Process Clauseを通じて連邦政府に適用される、米国憲法第14修正平等保護条項(Equal Protection Clauseを指す。Bolling v. Sharpe, 347 U.S. 497, 499 (1954) ("[W]e do not imply that [the "equal protection of the laws" and the "due process of law"] are always interchangeable phrases. But, as this Court has recognized, discrimination may be so unjustifiable as to be violative of due process.")。

Ⅲ.コメント

本事件は、非移民外国人が特許代理人登録試験を受験して合格しても、特許代理人としての登録を認め、移民法上の要件と整合する範囲で限定承認するにとどまる旨のルールをUSPTOが制定し、これを運用することが、特許法でUSPTOに認められた権限の範囲内であることを明確にした事件である。非移民外国人は移民法上の要件と整合する範囲でしか業務できないので、そのような制限のない特許代理人とすることはできないとするUSPTOの立場には、客観的にみて、合理性があると言えるかもしれない。

外国人が特許代理人としての登録を認められるためには、現行の特許規則11.6(a)又は(b)の規定に適合する必要があり、そのためには、移民査証(immigrant visa)(注5)を取得するのが現実的と思われる。

 

(注5) See, e.g., "Requirements for Immigrant and Nonimmigrant Visas" at https://www.cbp.gov/travel/international-visitors/visa-waiver-program/requirements-immigrant-and-nonimmigrant-visas ("There are two categories of U.S. visas: immigrant and nonimmigrant. Immigrant visas are issued to foreign nationals who intend to live permanently in the United States. Nonimmigrant visas are for foreign nationals wishing to enter the United States on a temporary basis - for tourism, medical treatment, business, temporary work, study, or other similar reasons."). (emphasis added)

 

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