グレン・パケット著『科学論文の英語用法百科』を題材に※、特許翻訳における適切な英語表現について考えていきます。※※
今回は、「moreとless(「さらに」「より」)」(p.374-377)について見ていきます。
Table of Contents
第1編 よく誤用される単語と表現 Chapter 79 ~moreとless~
moreとlessの誤った用法として、moreまたはlessが動詞を修飾してしまう場合と、moreがadditionalの同義語として誤用される場合とがあるとされています。以下、それぞれの場合について順に見ていきます。
79.1 moreまたはlessが誤って動詞を修飾する場合
moreとlessは、通常、形容詞または副詞を修飾するために用いられ、動詞を修飾しようとすると、more oftenとless oftenと解釈されるため、そのような意味が不適切ば場合は問題が生じるとされています。このような場合の例として挙げられている4つの例文のうち、2つを以下に示します。
誤用例[1]: In such cases, we tend to underestimate these values more. リライト例(1): In such cases, we tend to underestimate these values by a greater amount. |
誤用例[1]では、valuesが過小評価されるのは何かよりも頻繁に起こる、という誤解を与える可能性があるとされています(実際には、過小評価の度合いがより大きい、ことが意図されていと思われる)。
誤用例[2]: Here, the ΑΑ final states were observed /more/less/ than the prediction of the INC model. リライト例(2): Here, the number of observed ΑΑ final states was /greater/less/ than the number predicted by the INC model. リライト例(2*): Here, there were /more/fewer/ observed ΑΑ final states than predicted by the INC model. |
79.2 moreがadditionalの同義として誤用される場合
moreがadditionalの同義語として用いられると、文意が曖昧になってしまうとされています(「追加(の・された)」をmoreと訳すのは不適切とされています)。このような場合の例として挙げられている4つの例文のうち、2つを以下に示します。
誤用例[1]: The field equations impose more conditions on this form. リライト例(1): The field equations impose /further/additional/ conditions on this form. リライト例(1*): The field equations impose a larger number of conditions on this form. |
誤用例[1]の意味が曖昧であり、その可能な解釈が(1)と(1*)により表現されています。(1)は、equationsが、すでに課されていた条件に加えて新しい条件を課すという意味を表しており、(1*)は、何か(言及されていないもの)よりも多くの条件を課すという状況を描写しています。
誤用例[2]: In this case, the oscillator network is capable of retrieving more detailed information. リライト例(2): In this case, the oscillator network is capable of retrieving additional detailed information. リライト例(2*): In this case, the oscillator network is capable of retrieving information of greater detail. |
誤用例[2]では、moreがinformationを修飾する形容詞として解釈できる一方、detailedを修飾する副詞として解釈することもでき、それぞれの解釈を(2)と(2*)で表現しています。
※本記事は、著者の許可を得て作成しています。
※※本記事は、判例(英文法だけでなく特許明細書の記載内容など様々な証拠を考慮して判断される)とは相容れない部分がある可能性があります。本記事は、純粋に英文法の側面から見た適切な英語表現を考えていくことを目的としています。
『科学論文の英語用法百科』について
学術論文における英作文についての解説書シリーズ。現在、「第1編 よく誤用される単語と表現」と「第2編 冠詞用法」が出版されている。
筆者は、9年間にわたって、日本人学者によって書かれた約2,000本の理工学系論文を校閲してきた。その間、「日本人の書く英語」に慣れていく中で、日本人特有の誤りが何度も論文中に繰り返されることに気付いた。誤りの頻度は、その英語についての誤解がかなり広く(場合によってほぼ普遍的に)日本人の間に浸透していることを反映しているだろう。そのような根深く定着している誤りに焦点を当て、誤りの根底にある英語についての誤解をさぐり、解説することがシリーズの基本的な方針になっている。(第1編「序文」より)
第1編 よく誤用される単語と表現
シリーズの第一巻となる本書では、日本人にとって使い方が特に理解しにくい単語や表現を扱っている。
第2編 冠詞用法
冠詞についての誤解が原因となる日本人学者の論文に見られる誤りの多さ、またその誤りに起因する意味上の問題の深刻さがゆえに、当科学英語シリーズにおいて冠詞が優先度の高いテーマとなり、この本を第二編とすることにした。(p.1)