USPTOのPTAB(Patent Trial and Appeal Board;特許公判審判部)は、Ex Parte Schulhauser, Appeal No. 2013-007847 (PTAB April 28, 2016)において、次の表現について検討した。
triggering an alarm state if the electrocardiac signal data is not within the threshold electrocardiac criteria
PTABは、“if the electrocardiac signal data is not within the threshold electrocardiac criteria”というフレーズをcondition precedent(先行条件、停止条件)であるとした。
PTABはその決定にあたり、Applera Corp. v. Illumina, Inc., 375 Fed. Appx. 12, 21 (Fed. Cir. 2010)(未公開)とCybersettle, Inc. v. Nat’l Arbitration Forum, Inc., 243 Fed. Appx. 603, 607 (Fed. Cir. 2007)(未公開)を参照している。
PTABがこのように未公開の判決例に依拠することには明らかに問題がある。この問題は、Dell Inc., v. Realtime Data LLC, Case IPR2017-00176, Paper 35 (PTAB May 25, 2018)でも取り上げられた。Dell事件では、先行条件で示すステップの実行はPTABでは必要とされない(特許的ウェートが与えられない)ことが確定したと思われる。
PTABによる未公開判決例の参照について、Federal Circuitはこれまでにいかなる言及も行っておらず、今後、PTABの結論を覆す可能性もある。
では、出願人は現時点でどのように対応すべきか?
独立クレームでは、“triggering an alarm state if the electrocardiac signal data is not within the threshold electrocardiac criteria”という表現を維持してもよいと思われる。一方、従属クレームでは、“the alarm state is triggered in response to a determination that the electrocardiac signal data is not within the threshold electrocardiac criteria”と記載してもよいかもしれない。
この場合、独立クレームが許可されれば、ライセンスや将来起こり得るFederal Circuit訴訟において広い保護範囲を期待でき、一方従属クレームはより狭い保護範囲となるため、プロセキューションにおける次善策とすることができる(PTAB対策にもなる)。
代替案として、筆者は、条件を付与する表現ではない“based on”を数年前から使用し始めた。この表現は、適度に狭いため審査官が特許的ウェートを与えてくれ、かつ適度に広いためクライアントも満足し得る。