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Inferential claimingとは?
特許クレームにおいて、構成要素として明確に記載すべきものを明確に記載しないことをinferential claimingといい、不適切な形式と判断される場合があります。
例えば、次のようなクレームがあるとします。
装置Aと、 装置Bと、 前記装置Aの変位を規制する道具Zの一端が取り付けられるとともに、前記装置Bに設けられる第1取付部と、 前記道具Zの他端が取り付けられるとともに、前記第1取付部に所定間隔をあけて設けられる第2取付部と、 を備えることを特徴とする装置X。 |
装置Xの構成要素として、装置A、装置B、第1取付部、第2取付部が「改行+インデント」「と、」という構成要素の一般的な形式で記載されているため、これらを次のように「改行+インデント」「;」の形式で訳出すべきことがわかります。
An apparatus X comprising: a device A; a device B; a first attachment which is disposed on the device B and to which one end of a tool Z is attachable to restrict displacement of the device A; and a second attachment which is disposed at a predetermined distance from the first attachment and to which another end of the tool Z is attachable. |
ここで、原文において「改行+インデント」「と、」の形式以外の形式で記載されている名詞がないか探してみると、「道具Z」がそのような名詞であることがわかります。上記の英訳は、道具Zが装置Xの構成要素ではないことを前提としており(道具Zが取り外し可能である可能性も考慮に入れてattachableを使用しました)、そのように解釈され易い書き方をしています。もし、道具Zも装置Xの構成要素である場合、クレーム全体を次のように書き換えることが考えられます。
An apparatus X comprising: a device A; a device B; a first attachment disposed on the device B; a second attachment disposed at a predetermined distance from the first attachment; and a tool Z having one end attachable to the first attachment and another end attachable to the second attachment so as to restrict displacement of the device A. |
道具Zが装置Xの構成要素かどうかは、発明内容をじっくり検討しないと判断できません。また、出願人による特許戦略上の判断により、一見構成要素に見えないものが構成要素とされたり、一見構成要素に見えるものが構成要素ではないとされたりすることもあるため、翻訳担当者が判断できる問題ではなかったりもします。
したがって、翻訳担当者が取るべき対処としては、原文に従って「改行+インデント」「と、」形式の要素を構成要素として「改行+インデント」「;」形式で訳出し、次のコメント例のように、道具Zも構成要素とした場合の代替案を提示し、依頼主に判断材料を提供することが考えられます。
※本記事は、『特許翻訳者のための米国特許クレーム作成マニュアル』の一部を抜粋、再構成したものです。
Faberにおけるinferential claimingの解説
Faber on Mechanics of Patent Claim Drafting※は、Chapter 10("Thoughts on Writing a Claim")においてinferential claimingについて解説しており、要点は次のようになります。
・クレームにおいて新しい構成要素を記載する場合、次の(a)または(b)の方法で記載する。
(a)新しい構成要素を、段落の主語として記載する。例:a container for the articles
(b)すでに登場している構成要素や工程が、新しい構成要素を有するというかたちで記載する。この場合、comprises, includes, hasなどの目的語として、不定冠詞"a"とともに記載されるのが一般的。例:a container comprising a plurality of legs
・新しい構成要素を、何らかの作用(operation, action)を受けるかたちで記載することは適切ではない。例:a motor driving a cam shaft(例外として、被加工物(workpiece)は作用の対象として不定冠詞"a"で導入してもよい。)
・不適切な記載例として、“the motor being connected with a shaft which is connected with the gear for driving the gear”について見てみる。ここではshaftがinferential claimingとなっており、次のように書き直すことができる。
“a shaft connected with the motor and with the gear for communicating driving motion from the motor to the gear”(shaft以外の要素が定冠詞"the"で始まっており、これらが既出の要素であることが分かる。)
“the motor including a shaft extending to the gear”(shaftが上記ルール(b)に従っている。)
※Faber, Robert C. "Chapter 10 Thoughts on Writing a Claim", "Section 10:7.4 Inferential Claiming". Faber on Mechanics of Patent Claim Drafting, 7th ed., Practising Law Institute, 2017.