『英文明細書マニュアル』の一部をご紹介しています。 |
「同時に」に対応する英語表現として、at the same timeとsimultaneouslyとが考えられます。両者は互いに交換可能な場合と、simultaneouslyの方が適切とされる場合とがあります。以下、後者の場合の、at the same timeの問題点についてみていきます。
まず、特に特許分野特有の注意点として、at the same timeは「同時に」とともに「前記時間(と同じ時間)において」という意味でもあるため、以前に指定された時点がない場合は不適切になるとされています*。
「前記時間において」の解釈を避けるため、例えば「これらの処理は同時に行われる。」は"These processes are performed at the same time."ではなく"These processes are performed simultaneously."とするのが良いと思われます。
「前記時間において」を意図したat the same timeの正しい用例として、次のような文章があります。
The spins are aligned at t = t0, and at the same time, the field is turned off.*
(at the same timeの前に時点tが指定されている)
at the same timeのもう一つの注意点として、次のような点があります。
一般に、数学、または科学の研究の対象になっている挙動の解説では、表現法に関しては正確性が重要である。したがって、at the same timeを時間的な意味で使用するのは、"time"が一つの時点を意味する場合に限った方が好ましい。*
この解説のように、正確性が重要な解説においては、timeを一つの時点ととらえるべき(期間や区間ととらえるべきではない)とされています。特許明細書は、正確性が重要な解説と言えるため、このルールに従うのが良いと思われます。
上記例文「これらの処理は同時に行われる。」の場合、「処理」にはある程度の時間がかかると思われるため、正確性を期すために(不正確な描写を避けるために)、「同時に」はat the same timeではなくsimultaneouslyにすべきと思われます。
*パケット, グレン. 科学論文の英語用法百科: 第1編 よく誤用される単語と表現. 京都大学学術出版会, 2017, pp.117-119. |