グレン・パケット著『科学論文の英語用法百科』から学ぶ特許英語 ~as long asとas far as~

グレン・パケット著『科学論文の英語用法百科』を題材に、特許翻訳における適切な英語表現について考えていきます。※※

今回は、「as long asとas far as(いずれも日本語で「限り」)」(p.91-93)について見ていきます。

第1編 よく誤用される単語と表現 Chapter 18 ~as long asとas far as~

本章の冒頭(p.91)に、as long asとas far asの違いについて次のように端的に解説されています。

as long ason condition thatと同義であるのに対し、as far asto the extent thatと同義である。これらの表現に関して最も広まっている誤りは、前者が適切な場合に後者が代わりに用いられていることである1

この違いを踏まえて、as long asとas far asの正しい用法と誤った用法について解説されています。

18.1 as long as

as long asは、「完全に満たされるか完全に満たされないかどちらかしかありえないような条件に対して使用される」(p.91)ため、以下の例文(1)~(3)におけるas long asをas far asに置き換えることは不適切であるとされています。

(1) This assumption is valid as long as the relation α < αc holds.

(2) As long as we consider only behavior averaged over a sufficiently long time, we can ignore the effect of this perturbation.

(3) These data are reliable as long as the temperature of the chamber does not exceed approximately 50 K.

これらのうち、(1)について見ていきます。

(1)おいてas long asをas far as (to the extent that)に替えると、「α < αc」が色々な程度で満たされうるという意味となり、ααcの差が大きくなるにつれて「assumption」が妥当である(valid)ことが増していく、と解釈され、as far asを使用したこのような表現はかなり不自然であるとされています。

18.2 as far as

as far asは、「様々な程度で存在する条件」(p.92)を示し、正しい用例として以下の(1)~(3)が挙げられています。

(1) As far as our model is able to properly describe the behavior near the sink, it provides a good description of the behavior of the whole system.

(2) As far as simple systems are considered, the essential difference between the predictions of the two models is small.

(3) As far as we are interested in qualitative behavior, our model is quite useful.

これらのうち、(1)について見ていきます。

(1)は、モデル全体の記述の正確性は主に吸込み(the sink)の近傍での記述の正確性によって決まる、という状況、つまり「後者がよくなっていくと、前者もよくなっていく」という状況を表しています。したがって、この場合の吸込み近傍での記述が適切であるかどうか(properness)は「程度」を持つ性質となります。

ここでas far asをas long as (on condition that)に書き換えると、「properly describe the behavior near the sink」というモデルの特徴付けをはっきり定義する条件があり、その条件が満たされる場合にはモデルが「properly describe...」と見なされ、満たされない場合には「properly describe...」と見なされない、という解釈になるとされています。


※本記事は、著者の許可を得て作成しています。
※※本記事は、判例(英文法だけでなく特許明細書の記載内容など様々な証拠を考慮して判断される)とは相容れない部分がある可能性があります。本記事は、純粋に英文法の側面から見た適切な英語表現を考えていくことを目的としています。


『科学論文の英語用法百科』について

学術論文における英作文についての解説書シリーズ。現在、「第1編 よく誤用される単語と表現」と「第2編 冠詞用法」が出版されている。

筆者は、9年間にわたって、日本人学者によって書かれた約2,000本の理工学系論文を校閲してきた。その間、「日本人の書く英語」に慣れていく中で、日本人特有の誤りが何度も論文中に繰り返されることに気付いた。誤りの頻度は、その英語についての誤解がかなり広く(場合によってほぼ普遍的に)日本人の間に浸透していることを反映しているだろう。そのような根深く定着している誤りに焦点を当て、誤りの根底にある英語についての誤解をさぐり、解説することがシリーズの基本的な方針になっている。(第1編「序文」より)

第1編 よく誤用される単語と表現

シリーズの第一巻となる本書では、日本人にとって使い方が特に理解しにくい単語や表現を扱っている。

第2編 冠詞用法

冠詞についての誤解が原因となる日本人学者の論文に見られる誤りの多さ、またその誤りに起因する意味上の問題の深刻さがゆえに、当科学英語シリーズにおいて冠詞が優先度の高いテーマとなり、この本を第二編とすることにした。(p.1)

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