グレン・パケット著『科学論文の英語用法百科』を題材に※、特許翻訳における適切な英語表現について考えていきます。※※
今回は、特許英語において多用される「based」(p.126-129)について見ていきます。
Table of Contents
第1編 よく誤用される単語と表現 Chapter 25 ~based~
まず、このChapterの冒頭において、basedの用法について次のように概説されています。
based(動詞baseの受け身形)は本来、受身動詞、および過去分詞として用いられるべきであるが1、動詞を修飾する副詞として誤用されることがしばしばある。これは文法的な誤りであり、いかなる場合でも不適切である2。本章では、このような誤用を示す典型的な例文をみていく3。
1分詞とは、形容詞の働きをすることができる動詞である。分詞には、現在分詞(たとえば、writing、breaking)と過去分詞(たとえば、written、broken)の二種類がある。
2一般に、「に基づいて」をbasedと訳すと、上述のような文法的な誤りが生じるということに注目してほしい。
3本章の解説は、on the basisを取り上げた第89章の解説と合わせて考察すべきである。
25.1 誤った用法
ここでは、"based on"が動詞を修飾する副詞として誤って使用された例とそのリライト例が計10組紹介されており、以下にそのうちの3組を記載します。
誤用例[2]: The following definition was given, based on the ternary Cantor set. リライト例(2): The following definition is based on the ternary Cantor set. |
誤用例[2]では、"based on"が"was given"を修飾しており、誤った用法であるとされています。
誤用例[4]: In the following sections we prove the above statement based on the ergodicity hypothesis of Hamiltonian dynamical systems. リライト例(4): In the following sections we prove the above statement, basing our argument on the ergodicity hypothesis of Hamiltonian dynamical systems. |
誤用例[4]では、"based on"が"prove"を修飾しており、誤った用法であるとされています。
誤用例[7]: Their decision is made based on x(t) and y(t). リライト例(7): Their decision is based on x(t) and y(t). |
誤用例[7]では、"based on"が"is made"を修飾しており、誤った用法であるとされています。
"based on"の正しい用法をより分かりやすくするために、構文を用いた次のような解説が記載されています。
basedは動詞型であり、文法的に動詞として働く場合には、その主語が必要である。たとえば、[名詞1] + is based on + [名詞2]という構文がある。ここでは、[名詞1]は"based"の主語になっており、[名詞2]は前置詞"on"の目的語である。同様に、basedが文法的に形容詞(つまり分詞)として用いられる場合には、それが修飾する名詞を伴う必要がある。たとえば[名詞1] + based on + [名詞2]の用法では、"based"が[名詞1]を修飾しており、[名詞2]は前置詞"on"の目的語である。これらの構造は、「[名詞2]は[名詞1]の基盤・基礎だ」、または「[名詞2]は[名詞1]の根拠だ」、あるいは「[名詞2]は[名詞1]に基づいて作られたものだ」という意味を示す。上記の各誤用例では、[名詞1]が抜けているか、または文法的に誤った形をとっている。
25.2 正しい用法
ここでは、basedの正しい用法例が計9つ紹介されており、そのうちの4つを以下に示します。以下、(1)(3)ではbasedは動詞の働きをしており、(2)(4)では形容詞の働きをしています。
(1) Our calculation is not based on Eq. (17) itself. |
(2) We employ the standard prescription based on perturbation theory. |
(3) This difference is caused by the fact that the perturbative or path-integral approach is based upon the T*-product. |
(4) Equation (6) is interpreted, through consideration based on Eq. (1), as the effective action. |
※本記事は、著者の許可を得て作成しています。
※※本記事は、判例(英文法だけでなく特許明細書の記載内容など様々な証拠を考慮して判断される)とは相容れない部分がある可能性があります。本記事は、純粋に英文法の側面から見た適切な英語表現を考えていくことを目的としています。
『科学論文の英語用法百科』について
学術論文における英作文についての解説書シリーズ。現在、「第1編 よく誤用される単語と表現」と「第2編 冠詞用法」が出版されている。
筆者は、9年間にわたって、日本人学者によって書かれた約2,000本の理工学系論文を校閲してきた。その間、「日本人の書く英語」に慣れていく中で、日本人特有の誤りが何度も論文中に繰り返されることに気付いた。誤りの頻度は、その英語についての誤解がかなり広く(場合によってほぼ普遍的に)日本人の間に浸透していることを反映しているだろう。そのような根深く定着している誤りに焦点を当て、誤りの根底にある英語についての誤解をさぐり、解説することがシリーズの基本的な方針になっている。(第1編「序文」より)
第1編 よく誤用される単語と表現
シリーズの第一巻となる本書では、日本人にとって使い方が特に理解しにくい単語や表現を扱っている。
第2編 冠詞用法
冠詞についての誤解が原因となる日本人学者の論文に見られる誤りの多さ、またその誤りに起因する意味上の問題の深刻さがゆえに、当科学英語シリーズにおいて冠詞が優先度の高いテーマとなり、この本を第二編とすることにした。(p.1)