グレン・パケット著『科学論文の英語用法百科』を題材に※、特許翻訳における適切な英語表現について考えていきます。※※
今回は、特許翻訳において頻出の表現である「such as」(p.567-577)について見ていきます。
Table of Contents
1.第1編 よく誤用される単語と表現 Chapter 118 ~such as~
118.1 正しい用法
suchとsuch asの一般的な役割などについて次のように解説されています。
一般に、suchは、種類を指摘する役割を果たす。such asは、いくつかの意味を持っているが、どの場合でも、suchにより種類を指す意も伝える。(p.567)
一般に、such asは、ある特性、特徴的なふるまいなどを指して、例として挙げられている物事が、その特性や特徴的なふるまいによって定義されている「種」に属し、その「種」の代表的なものとして考えられているという意味を示す。(p.568)
一般に、such asは、日本語の「たとえば」より「のような」という意味に近い。(p.568)
これを踏まえて、以下、such asの正しい用法を紹介します。
118.1.1 例を提示するために使用される場合
such asに最もよく見られる正しい用法は、例を挙げるために用いられることであり、この用法において、such asには、for exampleに意味が近い場合と、of the same kindに意味が近い場合とがあります。
for exampleの同義語として用いられる場合
(1) Certain operations, such as the exchange or removal of elements, however, are prohibited. |
(1)では、such asをfor exampleに置き換えることができるものの、一般に両者には微妙な意味的差異があることに留意すべきとされています。すなわち、such asを用いて例を持ち出すと、その例がある「種」を代表するから挙げられていることが含意される一方、for exampleを用いる場合そのような意味は表されないと解説されています。
of the same kindの同義語として用いられる場合
(2) The function σ(ρ) is discontinuous at infinitely many points. A function such as this is difficult to treat using our method. |
(2)において、such as thisはof this kindまたはwith this propertyという意味を示しており、関数「σ(ρ)」は、ある種を構成する関する、つまり、無限に多い不連続点を持っている関数を代表するということが暗に示されています。そして、a function such as thisをa function belonging to this classという意味に解釈することが可能と解説されています。
(1)(2)におけるsuch asの文法構造について、such asは、[名詞1]+such as+[名詞2]という構造に含まれており、such as+[名詞2]は[名詞1]を修飾しています。この場合、such asは必ず例を導く役割を果たします。
次の118.1.2は、such asが上記文法構造とは異なる文法構造で使用されている例です。
118.1.2 that which、whatever、whatの同義語として使用される場合
ここでは、such asが上述の[名詞1]+such as+[名詞2]の形をとるひとまとまりの中に入っていない例が紹介されいます。紹介されている4例((3)~(6))うちの1例((3))を以下に記載します。
(3) This general problem, such as it might be in any particular case, cannot be solved with the present method. |
(3)では、such asをwhatever、howeverに置き換えてもさほど意味は変わらないものの、ここでsuch asが実際に示している意味は、of whatever natureに近いとされています。したがって、(1)(2)と同様に、such asがある「種」を指しているというニュアンスが伝えられていると解説されています。
118.2 誤った用法
ここでは、such asの誤った用法が7つの場合に分けて紹介されています。
118.2.1 in the same manner asの同義語として使用される場合
such asを、前置詞asやlikeの代わりとして、similarly to、the same as、in the same mannerのような意味として使用することは誤った用法であるとされ、そのような誤用例とリライト例が計4組紹介されています(そのうちの1組を以下に記載します)。
[1] The quantity σ represents the degree of order, such as the magnetization in ferromagnetic systems. リライト例(1): The quantity σ represents the degree of order, like the magnetization in ferromagnetic systems. |
この誤用例は、単に意味を成していないとされています。
118.2.2 similar toの同義語として使用される場合
まず、上述の[名詞1]+such as+[名詞2]の形について、改めて以下のように解説されています。
上述の[名詞1]+such as+[名詞2]のような構造が(たとえば、第1節の(1)と(2)のように)文法上の単位として用いられている場合には、[名詞2]が、[名詞1]の例のようになっており、ある「種」の物事の代表として挙げられているという意味が示される。したがって、このような使い方では、such asはsimilar toと同意ではない。この場合、such asは意味的にof this typeと似ており、さらに正確に言えばwhose /type/class/ is exemplified byに近い。
そして、such asが、[名詞1]+such as+[名詞2]の構造に含まれながら、誤ってlike、similar to、analogous toなどのような意味を示す意味す目的で使用されている例とリライト例が計5組紹介されています(そのうちの1組を以下に記載します)。
[4] To understand the behavior of the system in this regime, a quantity such as the coarse-grained carrier density in a semi-conducting material would be useful. リライト例(4): To understand the behavior of the system in this regime, a quantity /like/analogous to/similar to/ the coarse-grained carrier density in a semi-conducting material would be useful. |
ここでは、such asはsimilar toの同義語として用いられており、such asが代表的な例を挙げる役割を果たすことは意味的に不可能であると説明されています。
具体的には、such asを用いたことによって、"coarse-grained carrier density in a semi-conducting material"というのは、ここで考察されているふるまいを理解するために役に立つ量の一つだという意味が示されているが、実際に役に立つと考えられているのは、"coarse-grained carrier density"という量ではなく、その量と似てはいるが、現在の応用に適応した別の量である、と解説されています。このことはリライト例(4)で明瞭に表現されています。
118.2.3 in the following wayまたはof the formの同義語として使用される場合
such asをある量の形態やふるまいなどを表す表現を導く目的で用いることは誤用であるとされ、そのような誤用例とリライト例が計5組紹介されています(そのうちの1組を以下に記載します)。
[9] This can be expressed in terms of a function of x such as exp[γxn]. リライト例(9): This can be expressed in terms of a function of x of the form exp[γxn]. |
ここでは、such asの「例を持ち出す」という本来の役割が不適切に働いているとされています。具体的には、[9]の趣旨をさらにはっきり表現すると、This can be expressed in terms of a function of x. One representative example of such a function is exp[γxn]のようになり、これは明らかに書き手が記述しようとした事柄ではないと解説されています。
118.2.4 includingの同義語として使用される場合
such asとincludingは意味的には近いものの、以下の例文で示すような場合は、includingの方が適切とされています(紹介されている2組の例文のうち1組を以下に記載します)。
[14] This approach has proven to be useful in a number of disparate fields, such as solid state physics, molecular biology and linguistics. リライト例(14): This approach has proven to be useful in a number of disparate fields, including solid state physics, molecular biology and linguistics. |
includingとsuch asの意味的な違いとして、includingを用いた場合には、実際に言及されている例が言及されていない例より意義深いというニュアンスが表されるのに対し、such asを用いた場合にはそのようなニュアンスが含まれないと説明されています。[14]では、書き手の意図は、例として挙げられた分野の差異を強調することだと思われるところ、このような強調は、上記の意味的な違いが理由で、such asよりもincludingによって自然に示されるとされています。
118.2.5 不必要に使用される場合
ここでは、such asが意味的に何の役割も果たしていない例とそのリライト例が計4組紹介されています(そのうちの1組を以下に記載します)。
[16] There are three common experimental techniques such as dielectic measurement, PALS and ellipsometry. リライト例(16): There are three common experimental techniques: dielectic measurement, PALS and ellipsometry. |
ここでは、"three common experimental techniques"と"dielectic measurement, PALS and ellipsometry"は意味的に等しく、A such as Bという表現において、Aに含まれている例の全てがBによって表されていれば、such asを使うのは意味的に誤っていると説明されています。
118.2.6 theとの誤った併用
such asは、例を挙げる役割を果たすので、定冠詞theと併用することはできないとされており、そのような誤用例とリライト例が計2組紹介されています(そのうちの1組を以下に記載します)。
[20] We have obtained the two minimal models, such as Z2 and U(1). リライト例(20): We have obtained the two minimal models, Z2 and U(1). リライト例(20*): We have obtained the two minimal models Z2 and U(1). リライト例(20**): We have obtained two minimal models /analogous to/similar to/corresponding to/ Z2 and U(1). |
ここでは、問題になっているtheは名詞modelsに付いており、theの使い方については2つの解釈が可能とされています。
theの1つ目の解釈は、ここで考えている背景において"minimal models"は2つしかないというものです。しかし、ここでsuch asを使ったことによって、Z2とU(1)がその他の例を代表しているという意味が表されているので、theとsuch asの間に意味的な矛盾が生じているとされています。この解釈における本来の意図は、(20)によって示されています。
theの2つ目の解釈は、"minimal models"と"Z2 and U(1)"とは意味的に等しいというものです(これは"Z2"と"U(1)"という2つのモデルが必ずしも"minimal models"の全てを成すとは限らない)。しかし、これもsuch asによる意味と矛盾しており、この場合に表そうとした趣旨は(20*)に示されています。
さらに、(20)(20*)とは別の解釈が(20**)に示されています。
118.2.7 コンマに関する問題
such asの前にコンマを入れるべき場合とそうでない場合とがあり、第1節の(1)が前者、(2)が後者の典型を示しています。
such asの前にコンマがある場合は、such asが導く句は「非限定的」または「非制限的」(non-rectrictive、non-defining、non-identifying)と呼ばれ、コンマがない場合は、「限定的」または「制限的」(rectrictive、defining、identifying)と呼ばれます。
この違いが次の文で明らかにされています。
(22) Physically relevant perturbations such as those considered above must be treated carefully. (23) Physically relevant perturbations, such as those considered above, must be treated carefully. |
(22)では、"such as those considered above"は"physically relevant perturbations"の意味を限定しており、その結果、文の焦点はaboveで考察した摂動が代表する種類に絞られています。
これに対して、(23)における"such as those considered above"は、文の主旨から切り離されているため、その焦点を限定しておらず、この文は、「一般に、物理的に意味のある摂動を慎重に扱うべきだ」という意味を表しているとされています。この場合、aboveで調べた摂動は、ただ単に物理的に意味のある摂動の例として挙げられていると解釈されます。
つまり、(22)のsuch as thoseと(23)のsuch asは、意味的にそれぞれof the kindとfor exampleに近いとされています。
必要なコンマがない場合
上記例文から明らかなように、such asをfor exampleのような意味で用いる場合には、その前にコンマが必要です。コンマがないために、伝えられる意味が異なってしまっている例文とそのリライト例が2組紹介されています(そのうちの1組を以下に記載します)。
[24] Several methods have been proposed to determine this value, but they all involve complicating factors such as observational bias and the evolution effect. リライト例(24): Several methods have been proposed to determine this value, but they all involve complicating factors, such as observational bias and the evolution effect. |
[24]では、全てのcomplicating factorsがobservational biasかthe evolution effectのどちらかと同種という意味を表しています。しかし実際には、complicating factorsの意味を限定せずに、observational biasとthe evolution effectを単なる例として挙げようとしていると解説されています。
不必要なコンマがある場合
次の誤用例では、such asが誤って非限定な句を導いており、余計なコンマがsuch asの前に置かれていることによって、不適切な意味が示されています。
[26] The properties of functions, such as ρ(x), have been studied in the context of measure theory. リライト例(26): The properties of functions /like/similar to/in the same class as/ ρ(x) have been studied in the context of measure theory. |
[26]が実際に表している意味をはっきりした表現に書き直すと、The properties of functions have been studied in the context of measure theory, and ρ(x) is one such exampleのようになるとされています。
※本記事は、著者の許可を得て作成しています。
※※本記事は、判例(英文法だけでなく特許明細書の記載内容など様々な証拠を考慮して判断される)とは相容れない部分がある可能性があります。本記事は、純粋に英文法の側面から見た適切な英語表現を考えていくことを目的としています。
2.『科学論文の英語用法百科』について
学術論文における英作文についての解説書シリーズ。現在、「第1編 よく誤用される単語と表現」と「第2編 冠詞用法」が出版されている。
筆者は、9年間にわたって、日本人学者によって書かれた約2,000本の理工学系論文を校閲してきた。その間、「日本人の書く英語」に慣れていく中で、日本人特有の誤りが何度も論文中に繰り返されることに気付いた。誤りの頻度は、その英語についての誤解がかなり広く(場合によってほぼ普遍的に)日本人の間に浸透していることを反映しているだろう。そのような根深く定着している誤りに焦点を当て、誤りの根底にある英語についての誤解をさぐり、解説することがシリーズの基本的な方針になっている。(第1編「序文」より)
第1編 よく誤用される単語と表現
シリーズの第一巻となる本書では、日本人にとって使い方が特に理解しにくい単語や表現を扱っている。
第2編 冠詞用法
冠詞についての誤解が原因となる日本人学者の論文に見られる誤りの多さ、またその誤りに起因する意味上の問題の深刻さがゆえに、当科学英語シリーズにおいて冠詞が優先度の高いテーマとなり、この本を第二編とすることにした。(p.1)