グレン・パケット著『科学論文の英語用法百科』から学ぶ特許英語 ~by~


グレン・パケット著『科学論文の英語用法百科』を題材に、特許翻訳における適切な英語表現について考えていきます。※※

今回は、特許翻訳においても誤用が多く見られる「by」(p.146-158)について見ていきます。

第1編 よく誤用される単語と表現 Chapter 29 ~by~

29.1 [行為] + by + [道具]のような表現

まず、本Chapter冒頭の「注1」において、byの誤用の原因について次のように述べられています。

ここで考察する多くの誤用は、「によって」、または「で」が誤ってbyと訳されてしまうことに起因するであろう。実際、「によって」や「で」がbyに当たる場合は限られている。

29.1.1 序論

日本人学者による論文においてbyが誤って使用されることが多い例として、

何らかの「道具」(例:ある理論、実験、計算法、物事を調べる手段、実験の設備)を利用して、ある行為が行われるという意味を示す表現

があり、これについて次のように受動態文と能動態文に分けて解説されています。

<受動態文>

以下は、受動態文においてbyが誤用された典型例とリライト例です。

誤用例[1]: The nature of this undulation was analyzed by the single-mode approximation.
リライト例(1): The nature of this undulation was analyzed using the single-mode approximation.

一般的に、前置詞byが[1]のように受身形の動詞とともに用いられる場合には、byの目的語(ここでは”approximation”)は、その受動態文に対応する能動態文の主語に相当するため、[1]を能動態に直すと、次のようになります。

The single-mode approximation analyzed the nature of this undulation.

これは、[1]で実際に示そうとした意味を表す次の能動態文と内容が異なっています。

We analyzed the nature of this undulation using the single-mode approximation.

これについて、以下の重要な解説がされています。

この解説で特に留意すべき点は、(ある行為を描写している文の)動詞が受身形である場合には、byの目的語になりうるのはその行為を行う行為者を表す語のみだということである。(emphasis added)

<能動態文>

能動態文において、byの替わりに、意味がよりはっきりと限定された表現を使用するのが望ましいとされ、そのような表現として以下のような例が挙げられています。

(by) using
with
(by) employing
through
in terms of
by applying
(by) utilizing
(by) making use of
through use of
by means of
with the help of
with the aid of
from

byの替わりにこれらの表現を使用した方がよい理由として、以下のように解説されています。

byはwith the use ofまたはthrough the agency/action ofのような意味を持っているが、これと全く関係のない多数の意味も持っているため、byを使うと、意味が不明瞭かつ不自然になることが多いからである。

29.1.2 「道具」が実験装置である場合

以下は、描写されている行為を行うのは人間であるにもかかわらず、byの使用により、それが何らかの実験装置だという意味が示されてしまっている例です(本書に記載されている3つの誤用例[2]-[4]のうち、[2]を以下に挙げます)。

誤用例[2]: These results were confirmed by a second measurement device.
リライト例(2): These results were confirmed using a second measurement device.

以下は、実際に行為が実験装置により行われている状況を示しており、byが正しく使用されている例です。

(5): The data were taken by a scintillator counter and analyzed in real time by a dedicated computer that, in turn, controlled the threshold of the counter in accordance with results of this analysis.
29.1.3「道具」が手段、過程、方法、などである場合

以下の誤用例では、動詞(was performed)が表しているのが人によって行われる行為であるにもかかわらず、byの誤用が原因でby以下に述べられている手段がそれを行うという趣旨が示されてしまっています(本書に記載されている3つの誤用例[6], [8], [10]のうち、[6]を以下に挙げます)。

誤用例[6]: This integral was performed by the Newman method.
リライト例(6): This integral was performed /with/using/ the Newman method.

以下は、byの誤用によって不自然かつ不正確な文章になっている例です(本書に記載されている2つの誤用例[7], [9]のうち、[7]を以下に挙げます)。

用例[7]: We measured the line width by a specialized technique by Watson.
リライト例(7): We measured the line width /using/with/employing/with the aid of/by making use of/utilizing/ a specialized technique by Watson.

以下の文章において、計算を単純化するのはmethod自体のため、byは正しく使用されています。

(11): The calculation of σ is made much simpler by this method.

特別な例として、以下のようにinduction(帰納法)はbyで導入しても問題ないとされています(能動態”induction proves this theorem”という表現はあり得るため)。

(12):This theorem is proven by induction.

ただし、一般には、数学的な議論においても、「手段が行為を行う」という状況を表す表現は間違っており、例えば、上記誤用例[6]に対応する能動態文”the Newman method performs this integral”が示す意味はかなり不自然であると解説されています。

29.1.4「道具」が議論、計算、などである場合

以下は、「道具」が議論や計算である場合のbyを誤用した例です(本書に記載されている3つの誤用例[13]-[15]のうち、[13]を以下に挙げます)。

用例[13]: This is found by a Webber-like calculation.
リライト例(13): This is found /through/using/with/with the aid of/by making use of/ a Webber-like calculation.

以下の文章において、this argument(議論)が我々を実際に結論へと導くため、”by this artument”は正しい用法とされています。

(16): We are led by this argument to conclude that at most one of these solutions is observable.
29.1.5「道具」がモデルである場合

以下は、「道具」がモデルである場合のbyを誤用した例です(本書に記載されている3つの誤用例[17]-[19]のうち、[17]を以下に挙げます)。

用例[17]: Light mirror nuclei are studied by the shell model.
リライト例(17): Light mirror nuclei are studied /with/using/employing/ the shell model.

比較例として、以下の文章が挙げられています。

(20):We are allowed by this model to investigate both symmetric and asymmetric cases in the same manner.
29.1.6「道具」が数学的な対象である場合

以下は、「道具」が数学的な対象である場合のbyを誤用した例です(本書に記載されている8つの誤用例[21]-[28]のうち、[21]を以下に挙げます)。

[21]: This analysis is carried out by the functions g1 and g2.
リライト例(21): This analysis is carried out /in terms of/using/with/employing/utilizing/by exploiting/with the aid of/by making use of/ the functions g1 and g2.

比較例として、次の4つの例が記載されています。

(29): The final result is influenced little by the perturbing term.
(30): The quantity ξ is defined by the following equation:
(31): The order of these points is changed by the operator Τ.
(32): This relation is expressed by (1.1).

これらの文が描写している状況では、問題の行為は実際に”term”、”equation”、”operator”、”(1.1)”により行われるため、byは正しく使用されているとされています。

29.2 ある結果を人に帰する表現における誤った用法

本Chapterで考察する二つ目の誤った用法の例として以下の例文が記載されています。

[1]: For this purpose, it is convenient to use the theorem concerning rings of this type by Anderson.
リライト例(1): For this purpose, it is convenient to use the theorem concerning rings of this type /proven/obtained/demonstrated/ by Anderson.

研究の結果を人に帰することを、[1]のようにbyだけで表すことはできないとされ、さらに次のように解説されています。

一般に、人がある理論の創始者、ある現象の発見者、ある手段の開発者などであると表現する場合には、その人物がその仕事において行ったことを表す動詞をbyの前に伴う必要がある。(1)はそのような正しい用法を例示している。

続いて、その他の典型的な誤用例が5つ([2]-[6])紹介されており、以下に[2]を記載します。

[2]: This result, by Hobson, is quite revealing.
リライト例(2): This result, /obtained/derived/ by Hobson, is quite revealing.

29.3 as a result、due toなどの同義語として誤用される場合 

byを、何か結果、効果などの原因または根拠を指摘するために用いることはできないとされ、誤用例が4つ([1]-[4])紹介されています。以下に[1]を記載します。

[1]: The value of ω changes significantly by this perturbation.
リライト例(1): The value of ω changes significantly as a result of this perturbation.

このタイプの誤用について、以下のように解説されています。

上記の各誤用例の基本的な文法構造は[名詞1] + [動詞] + by + [名詞2]である。ここで、[名詞1]は、ある変化を経るものを示し、その変化を表す[動詞]の主語になっている。これらの文の本来示そうとした趣旨は、[名詞2]がこの変化を引き起こす行為者だということであるが、byは意味的に不適切なので、上記のような文法構造でこうした趣旨を表すことはできない。

比較例として、byにより行為者が指摘されている正しい用法が挙げられています。

(5):The significant change in the value of ω is caused by this perturbation.

ここでの動詞(is caused)は、[名詞2]であるperturbationが行う行為を表しており、”This perturbation causes the significant change in the value of ω“という能動態は正しい文章であることから、”by this perturbation”は正しい用法であるとされています。

より深刻な問題を提起する例として、以下の2つの例文が記載されています。

[6]: We consider microlensing events by binary lenses.
リライト例(6): We consider microlensing events /created by/caused by/due to/ binary lenses.
[7]: The error by ignoring this term is negligible.
リライト例(7): The error /introduced/caused/ by ignoring this term is negligible.

[6][7]の問題は、byの目的語によって行われる行為を表す動詞を抜けていることにあり、[6][7]の構文は単に間違っているとされています。

29.4 as shown by、as seen fromなどの同義語として誤用される場合

以下は、byの誤用によって、論理的に問題のある主張を生じてしまっている例です(本書に記載されている4つの誤用例[1]-[4]のうち、[1]を以下に挙げます)。

[1]: These functions are orthogonal by the following argument.
リライト例(1): These functions are orthogonal, as shown by the following argument.

このタイプの誤用について、以下のように解説されています。

これらの誤用例における論述では、それぞれある状況の原因が、その原因になることができない物事に帰されているため、各文とも論理的に間違っている。たとえば、[1]は、ここで述べられている関数が直交する原因は”following argument”だということを主張している。しかしながら、実際は、この議論はこれらの関数に関係を与える原因ではなく、その関係を明らかにする証拠、または証明だけをなす。この意味は(1)の”as shown by”により正しく示されている。(emphasis added)

29.5 数学的展開を描写する表現での誤った用法

数学的な議論において、「φηで展開する」のような表現は、byではなく、in、in terms of、in powers of、in orders ofのような表現を使用するとされており、例文が4つ([1]-[4])挙げられています。以下に[1]を記載します。

[1]: It is known that the partition function Z has an expansion of the above form by using the counting functions.
リライト例(1): It is known that the partition function Z has an expansion in the counting functions of the above form.
リライト例(1*): It can be shown by using the counting functions that the partition function Z has an expansion of the above form.

29.6 reasonとの誤った用法

byはreasonとともに使用することはできないとされ、誤用例が3つ([1]-[3])挙げられています。以下に[1]を記載します。

[1]: This claim can be made by the following two reasons.
リライト例(1): This claim can be made forthe following two reasons.
リライト例(1*): This claim can be demonstrated using the following two considerations.

[1]について、以下のように解説されています。

[1]が表している意味を厳密に解釈すると、この”reasons”自体が主張するということになるが、実際のところ、この”reasons”に与えられた根拠に基づいて、人が主張するということは明らかであろう。


※本記事は、著者の許可を得て作成しています。
※※本記事は、判例(英文法だけでなく特許明細書の記載内容など様々な証拠を考慮して判断される)とは相容れない部分がある可能性があります。本記事は、純粋に英文法の側面から見た適切な英語表現を考えていくことを目的としています。


『科学論文の英語用法百科』について

学術論文における英作文についての解説書シリーズ。現在、「第1編 よく誤用される単語と表現」と「第2編 冠詞用法」が出版されている。

筆者は、9年間にわたって、日本人学者によって書かれた約2,000本の理工学系論文を校閲してきた。その間、「日本人の書く英語」に慣れていく中で、日本人特有の誤りが何度も論文中に繰り返されることに気付いた。誤りの頻度は、その英語についての誤解がかなり広く(場合によってほぼ普遍的に)日本人の間に浸透していることを反映しているだろう。そのような根深く定着している誤りに焦点を当て、誤りの根底にある英語についての誤解をさぐり、解説することがシリーズの基本的な方針になっている。(第1編「序文」より)

第1編 よく誤用される単語と表現

シリーズの第一巻となる本書では、日本人にとって使い方が特に理解しにくい単語や表現を扱っている。

第2編 冠詞用法

冠詞についての誤解が原因となる日本人学者の論文に見られる誤りの多さ、またその誤りに起因する意味上の問題の深刻さがゆえに、当科学英語シリーズにおいて冠詞が優先度の高いテーマとなり、この本を第二編とすることにした。(p.1)


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