part ofで複数名詞を修飾することはできない


グレン・パケット著『科学論文の英語用法百科』を題材に、特許翻訳における適切な英語表現について考えていきます。※※

今回は、特許翻訳においても誤用が多く見られる「part of」(p.471-472)について見ていきます。

第1編 よく誤用される単語と表現 Chapter 97 ~part of~

まず、part ofの用法の大前提として次の点が明記されています。

1)part ofは、複数名詞を修飾することはできない。
2)part ofは、ある一つの存在と見なされているものの一部を意味する。

そして、1)2)に沿ったpart ofの正しい用法として、次の例文が挙げられています。

(1) Part of this sample undergoes the phase transition prior to time t0.

1)2)からわかるように、part ofの誤用は、複数名詞を修飾し、複数の個別のものの中のいくつか、という意味を示す目的で使用することであり、このような誤用の原因について、次のように解説されています。

本章で例示する誤用は、英語のpart ofと違って、日本語の「一部」という表現では、複数の個別に存在しているもののうちのいくつかという意味が表せることに起因するのであろう。たとえば、「アジアの一部の国」、「会員の一部」、「一部の種類の細胞」という日本語は自然だが、ここでの「一部」はpart ofと訳されない。むしろ、これらの表現は/some/several/certain/a few/a number of/ Asian countries、/some/several/certain/a few/a number of/ members、/some/several/certain/a few/a number of/ types of cellsになる。

そして、誤用例とこれをリライトした例が計3組([2]~[4])記載されています。以下にそのうちの1組([2])を記載します。

誤用例[2]: A large part of these particles escape in the first 10 μsec.
リライト例(2): A large /fraction/ratio/percentage/number/ of these particles escape during the first 10 μsec.

誤用例[2]について、次のように解説されています。

[2]が描写しているのは、一個一個の粒子が分解して、それぞれの粒子の大きい部分が最初の10μsec以内に脱出するふるまいだと解釈される。

この誤用例では、part ofを使用することにより「複数のもののそれぞれの一部」という誤解を招いていますが、実際に「複数のもののそれぞれの一部」という意味を表現したい場合には、part ofを使用せずに、文章を工夫する必要があると解説されています。例文が2つ([5][6])記載されており、そのうちの1つ([6])を以下に記載します。

誤用例[6]: This is done with the real part of the functions q(x), Δq(x) and (x).
リライト例(6): This is done with the real parts of the functions q(x), Δq(x) and (x).

誤用例[6]では、ある一つの”real part”があり、その”real part”が、三つの関数によって構成された一つのものに対応する様子を記述しているように解釈され、リライト例(6)では、複数名詞”real parts”を用いたことにより、それぞれの関数の実数部分を考えているということが明白に示されている、と解説されています。


※本記事は、著者の許可を得て作成しています。
※※本記事は、判例(英文法だけでなく特許明細書の記載内容など様々な証拠を考慮して判断される)とは相容れない部分がある可能性があります。本記事は、純粋に英文法の側面から見た適切な英語表現を考えていくことを目的としています。


『科学論文の英語用法百科』について

学術論文における英作文についての解説書シリーズ。現在、「第1編 よく誤用される単語と表現」と「第2編 冠詞用法」が出版されている。

筆者は、9年間にわたって、日本人学者によって書かれた約2,000本の理工学系論文を校閲してきた。その間、「日本人の書く英語」に慣れていく中で、日本人特有の誤りが何度も論文中に繰り返されることに気付いた。誤りの頻度は、その英語についての誤解がかなり広く(場合によってほぼ普遍的に)日本人の間に浸透していることを反映しているだろう。そのような根深く定着している誤りに焦点を当て、誤りの根底にある英語についての誤解をさぐり、解説することがシリーズの基本的な方針になっている。(第1編「序文」より)

第1編 よく誤用される単語と表現

シリーズの第一巻となる本書では、日本人にとって使い方が特に理解しにくい単語や表現を扱っている。

第2編 冠詞用法

冠詞についての誤解が原因となる日本人学者の論文に見られる誤りの多さ、またその誤りに起因する意味上の問題の深刻さがゆえに、当科学英語シリーズにおいて冠詞が優先度の高いテーマとなり、この本を第二編とすることにした。(p.1)


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