『科学論文の英語用法百科』から学ぶ特許英語~have toとmust~

グレン・パケット著『科学論文の英語用法百科』を題材に、特許翻訳における適切な英語表現について考えていきます。※※

今回は、「have toとmust」(p.323-324)について見ていきます。

特許翻訳では、「本発明では、~するだけでいい」のような文脈で「~するだけでいい」を英訳することがよくありますが、下記の解説は、何をするだけでいいのかを誤解なく表現するために大いに参考になると思われます。

1.第1編 よく誤用される単語と表現 Chapter 63 ~have toとmust~

助動詞have toとmustをonlyと併用すると、下記例のように文意が曖昧になる場合が多いとされています。

誤用例[1] We /have to/must/ change only two parameters.
リライト例(1) Only two parameters need to be changed.
リライト例(1*) We need only change two parameters.
リライト例(1**) We are allowed to change only two parameters.

誤用例[1]では、変える必要があるパラメーターは二つしかないということなのか、それとも三つ以上のパラメーターを変えてはいけないということなのか判断が難しいため、前者の場合を(1)(1*)、後者の場合を(1**)でリライトしています。

この問題について、次のように解説されています。

この問題は、"/have to/must/"が示している必然性がその後ろにくる文章にどうかかっているか二通りに捉えられることに起因する。すなわち、"/have to/must/ change"が一つの単位としてもう一つの単位"only two parameters"にかかっていると解釈すれば、上述の第一の意味にとれるが、一方、"/have to/must/"が一つの単位としてもう一つの単位"change only two parameters"にかかっていると解釈すれば、上述の第二の意味になる1

1会話の中では、[1]の意図を強勢の置き方によって明らかにすることができる。

この他にも、have toまたはmustとonlyとの併用から曖昧さが生じる文法構造として、以下が例示されています。

誤用例[2] Two parameters only /have to/must/ change.
リライト例(2) Only two parameters need to be changed.
リライト例(2*) Only two parameters are allowed to change.
誤用例[3] We /have to/must/ only change two parameters.
リライト例(3) We need only change two parameters.
リライト例(3*) We are allowed only to change two parameters.
リライト例(3**) We need to change only two parameters.
リライト例(3***) We are allowed to change only two parameters.

[2]、(2)、(2*)では、onlyは主語parametersにかかる形容詞twoを修飾する副詞、[3]、(3)、(3*)では、onlyは動詞changeを修飾する副詞、(3**)(3***)では、onlyは直接目的語parametersにかかる形容詞twoを修飾する副詞になっています。


※本記事は、著者グレン・パケット氏の許可を得て作成しています。
※※本記事は、判例(英文法だけでなく特許明細書の記載内容など様々な証拠を考慮して判断される)とは相容れない部分がある可能性があります。本記事は、純粋に英文法の側面から見た適切な英語表現を考えていくことを目的としています。


2.『科学論文の英語用法百科』について

学術論文における英作文についての解説書シリーズ。現在、「第1編 よく誤用される単語と表現」と「第2編 冠詞用法」が出版されている。

筆者は、9年間にわたって、日本人学者によって書かれた約2,000本の理工学系論文を校閲してきた。その間、「日本人の書く英語」に慣れていく中で、日本人特有の誤りが何度も論文中に繰り返されることに気付いた。誤りの頻度は、その英語についての誤解がかなり広く(場合によってほぼ普遍的に)日本人の間に浸透していることを反映しているだろう。そのような根深く定着している誤りに焦点を当て、誤りの根底にある英語についての誤解をさぐり、解説することがシリーズの基本的な方針になっている。(第1編「序文」より)

第1編 よく誤用される単語と表現

シリーズの第一巻となる本書では、日本人にとって使い方が特に理解しにくい単語や表現を扱っている。

第2編 冠詞用法

冠詞についての誤解が原因となる日本人学者の論文に見られる誤りの多さ、またその誤りに起因する意味上の問題の深刻さがゆえに、当科学英語シリーズにおいて冠詞が優先度の高いテーマとなり、この本を第二編とすることにした。(p.1)

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