特許明細書では、「AはBを兼用する」「AはBとCを兼用する」のように「兼用」という言葉がよく使われます。もともとある目的のために設けられたものを別の目的ためにも用いることにより、別の目的専用のものを別途設ける必要がないといった文脈で「兼用」がよく見られます。
また、「兼用」は適訳を見つけるのが意外と難しいことでも知られています。以下、「兼用」の英訳アイデアについて考えていきます。
一般的には、「兼用」に対して"also serve as"、"serve both as"という表現が使われています("A also serves as B.""A serves both as B and C.")。多くの場合、"also serve as"、"serve both as"で対処できます(serveの代わりにfunctionが使われることもあります)。
"serve as"に類似した表現として、"double as"があります。
double as: To serve two separate purposes. Because we're understaffed, I have to double as receptionist and file clerk right now. You wouldn't know from looking at it, but this sleeping bag actually doubles as a poncho. https://idioms.thefreedictionary.com/double+as |
2つの例文から分かるように、"double as"は"also serve as"と"serve both as"の両方に使用することができる便利な表現です。一方で、"double as"は若干カジュアルな響きがあるため、特許明細書での使用に抵抗をもたれる可能性が否定できません(あるいは、依頼主から"double as"という表現に馴染みがないと指摘される可能性も否定できません)。
「兼用する」として使える別の表現として、repurposeという動詞も考えられます。repurposeは別の目的に再利用するという意味で使われることが多いですが("To reuse for a different purpose, on a long-term basis, with or without alteration.")、場合によっては「兼用する」や「流用する」として使うことも可能です。
In this invention, the standard LCD display is repurposed as a light-sensitive input device, allowing for both output display and light-based user input within the same component. The present system repurposes existing network infrastructure to create a mesh network for IoT devices, thereby utilizing current installations for enhanced connectivity without the need for additional hardware. |
これらの例文から分かるように、repurposeは他動詞のため受動態としても使用できる柔軟さがあります。また、repurposeを使用すると、例えば「上記兼用により、製造コストを削減することができる」のように原文で「兼用」が名詞としても使われている場合に、repurposeをrepurposingなどに変形することによって、比較的容易に英訳できることがあります。これは、"serve as"の場合ではなかなか難しいと思われます。これが、「兼用」は適訳を見つけるのが意外と難しいと言われる理由の1つです。
以上のように、英訳が難しいことで知られている「兼用」は、一般的には"also serve as"や"serve both as"、ときには"double as"が使われますが、repurposeが便利な場合もあります。状況に応じて、これらの表現を使い分けることが考えられます。