コラム洋書多読:"Grinding It Out: The Making of McDonald's"~成功はゴミ箱の中に レイ・クロック自伝~

英語難易度: 2.5 out of 5 stars

Grinding It Out: The Making of McDonald'sは、マクドナルドの創業者といわれるレイ・クロック氏(1902-1984)の自伝です。クロック氏がマクドナルドを全米一のハンバーガーチェーンに育て上げるまでのサクセスストーリーを中心に描いています。

サクセスストーリーではありますが、成功するまでに泥臭い仕事を地道に続けてきたことが描かれており、これは本書の翻訳本のタイトル『成功はゴミ箱の中に』がうまく言い当てていると思います。随所にpersistence(粘り強さ)という語が使われており(例:"Nothing in the world can take the place of persistence.")、後述の映画版ではこれがマクドナルド成功のためのキーワードだと主人公が語っています。

マクドナルドに関する逸話として、マクドナルドのハンバーガービジネスは実はクロック氏が自身で考え出したものではなく、先に考え出して始めていたマクドナルド兄弟からクロック氏が名前ごと買い取ったというものがあり、本書ではこれについて詳しく説明されています。

マクドナルドを始める前、クロック氏はMultimixerと呼ばれるミルクシェイク・メーカーのセールスマンをしており、顧客だったマクドナルド兄弟から教えてもらったハンバーガーの効率的な製造法に感銘を受け、フランチャイズ契約を結んだといいます。

その後、クロック氏の拡大路線に消極的だったマクドナルド兄弟とそれまでの契約を解消し、彼らのハンバーガービジネスを名前の使用権を含め約270万ドル(1960年代当時)で買い取ったということです。

このように、それまでになかった効率的なハンバーガー製造法を考え出したのがマクドナルド兄弟で、このアイデアを全米レベルに広めて成功させたのがクロック氏だったという歴史を本書で楽しむことができます。

マクドナルドに関してもう一つの逸話があり、それは、マクドナルドはハンバーガーを中心とする飲食業を営む傍ら、収入の多くを不動産業によって得ているというものです。具体的には、フランチャイズが新規出店する予定の土地をマクドナルドがまず購入し、そこに店舗を建て、開店後にフランチャイズからの家賃収入を得るという大家さん業をマクドナルドはしていることが一部でよく知られています。

本書ではこのスキームついても詳述されています。クロック氏の右腕であった財務担当ハリー・J・ソネンボーン氏が考え出し、のちにソネンボーン・モデルとも呼ばれたこのスキームによって、マクドナルドのフランチャイズは全米に爆発的に拡大したということです。

そのほか、フランチャイズだけでなく、ある程度の数の直営店をもっておくことの重要性など、私のような異業種に従事している読者にとって勉強になる記述も多々見られます。また、宗教上の理由で肉を食べられない人のためにフィレオフィッシュが開発されたエピソードや、MLBチームのサンディエゴ・パドレスを買収して球団経営に乗り出すエピソード、晩年だった出版当時は慈善家としても活動していたことなどについても綴られています。大統領選出馬の話があったことも示唆されています。

本書をもとに『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』という映画が作られており、本書のエッセンスが詰まった良作だと思います。特に、マクドナルド兄弟がハンバーガーの注文を受けてからお客に出すまでの流れをクロック氏に伝授するときに、駐車場で地面にチョークで線を書いて厨房を再現してシミュレーションする印象的なシーンがあります。これは本書にも描かれているシーンですが、実際に映像で見る方が面白いかと思います(下記30秒あたり)。

また、クロック氏がマクドナルド兄弟から事業を買収した後もマクドナルドという名前を使い続けたことについて語る終盤のシーンも印象的です。これは本書には描かれていなかったように思いますが、名シーンとなっています。

原書の英語は、少々クセのある箇所が見られますが、全般的には読みやすい英語になっています。下積み時代の章(クロック氏は実はピアニストでもあった)を飛ばしてマクドナルド兄弟に出会う章から読み始めても十分に楽しめるのではないかと思います(映画版はほぼこの章から始まっています)。

洋書を読むときのコツとして、映画版がある場合はまず映画版を観て大まかな流れを掴んでから洋書を読むという手法を多くの人が実践しています。本書はこれを実践できるケースで、しかも映画版をアマゾンのプライム・ビデオで観ることができます(https://amzn.to/3nDk3Wv)。

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