「~によっては」をdepending onとしない方がいい

特許明細書では、「~によっては」という表現が頻出します。

特許英訳において、「~によっては」をdepending onとしている例が多く見られますが、depending onで始まる節は、「分詞節という、正しい用法では名詞を修飾する従属節である*」ため、depending onをできるだけこの正しい用法で使うことが好ましく、正しい用法ではない場合にはdepending on以外の表現を検討する必要があると思われます。

以下、「~によっては」を英訳する際にdepending onが正しい用法で使えないと思われる場合の、depending on以外の表現について考えていきます。

depending onの正しい用法ではないように思われる例①
構成によっては、一対のベースストッパ部材が前記ベースフレームに固定される。
Depending on the configuration, a pair of base stopper members are fixed to the base frame.
https://patents.google.com/patent/JP6357284B2/en(下線は付加)

「場合によっては」「構成によっては」「実施例によっては」などの場合、inを使うことが一般的なため、次のように書き換えることができます。

リライト例: In some configurations, a pair of base stopper members are fixed to the base frame.
inを使ったその他の例:
場合によっては、ネットワークは、システム情報に関係する1つまたは複数の情報フィールドを変更し得る。
In some cases, the network may modify one or more information fields related to system information.
https://patents.google.com/patent/JP6972338B2/en(下線は付加)
構成によっては、リモート・ストレージ・サーバおよび通知サーバは、モバイル・デバイスおよび/またはデスクトップ・ウェブ・クライアントと通信するための単一サーバとして実現される。
In some configurations, the remote storage server and notification server are implemented as a single server for communicating with mobile devices and/or desktop web clients.
https://patents.google.com/patent/JP5291240B2/en(下線は付加)
実施例によっては、決済処理ネットワークが金融トークン及び非金融トークンを処理することができる。
In some embodiments, the payment processing network can process financial tokens and non-financial tokens.
https://patents.google.com/patent/JP7209031B2/en(下線は付加)

"In some cases"、"In some configurations"、"In some embodiments"でsomeが使われていることから分かるように、「~によっては」はsomeを使って表現できることがあります。

depending onの正しい用法ではないように思われる例②:
位置によっては、任意の好適な位置において任意の好適な時にチェックアウトプロセスをトリガすることができ得ることから、チェックアウト領域の概念が当てはまらない場合がある。
Depending on the location, the concept of a checkout area may not apply because the checkout process can be triggered at any suitable time at any suitable position.
https://patents.google.com/patent/JP7093783B2/en(下線は付加)
someを使ったリライト例: At some locations, the concept of a checkout area may not apply because the checkout process can be triggered at any suitable time at any suitable position.
someを使ったその他の例:
しかし、一実施形態では、1つまたは複数の相補的音声信号は、初期部分とは異なる時間長を持ってもよく、相補的音声信号によっては、初期部分を全く含まないものもある。
However, in one embodiment, the one or more complementary audio signals may have a different length of time than the initial portion, and some complementary audio signals may not include the initial portion at all.
https://patents.google.com/patent/JP6735100B2/en(下線は付加)

以上の他、『科学論文の英語用法百科』では、誤用されているdepending onをdetermined byやin a manner that depends onなどを使ってリライトした例が紹介されています**

誤用例:In this case, there are two repeatedly interchanging states, depending on the value of q.
リライト例1: In this case, there are two states that are interchanged repeatedly, as determined by the value of q.
リライト例2: In this case, there are two states that are interchanged repeatedly, in a manner that depends on the value of q.
リライト例3: In this case, there are two states that are interchanged repeatedly, as the value of q changes.

また、「~によっては」の類似表現として、「~によって異なる」という表現があり、これもdepending onを使ってdiffer depending onやvary depending onとする例がよく見られますが、名詞を修飾するというdepending onの正しい用法に反しているため、differ depending on等は避けるべき表現と思われます。

科学論文の英語用法百科』では、次のようにdiffer depending onがdepend onに修正されています***

誤用例:The sizes of these compact spaces may differ depending on the directions of their respective shifts.
リライト例: The sizes of the compact spaces may depend on the directions of their shifts.

 

*「本節で挙げるほとんどの誤用例は、"depending"で「によって」の意味を表そうとしたのであろう。実際、dependingはこのような意味を持っているが、日本語の「によって」と比べて、dependingが用いられている構文が論理的に成り立つためのルールはより厳しいので、この語を使う場合には構文に注意を払う必要がある。」
グレン・パケット. 科学論文の英語用法百科: 第1編 よく誤用される単語と表現. 京都大学学術出版会, 2017, pp.239-240
**同上, p.242
***同上, p.244

 

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