日本語と英語の発想の違い

※本記事は、『特許翻訳者のための米国特許クレーム作成マニュアル』の『[85]「AのBを折り曲げる」はAを目的語にした英文にする』に加筆したものです。

特許翻訳(日英・英日)をしていると、日本語と英語の発想の違いに気づくことがあります。例えば、「Aの一方端はZにつながっている」という日本語の表現は、英語では「Aは一方端においてZにつながっている」というニュアンスで表現されます。以下は、この英語のニュアンスを感じることができるクレーム例です。

a plurality of parallel legs, each leg is connected pivotally at one end to the container and at the other end to the base to support the container for oscillating movement with respect to the base; and*(下線は付加)

この例文では、legが一方端(one end)においてcontainerとつながり、他方端(the other end)においてbaseとつながっている、と表現されています。つまり、主語はあくまでもlegであり、legの一部分である「一方端」「他方端」についてはそれぞれ「一方端において」「他方端において」というかたちで説明を付け加えています。

日本語では「一方端がcontainerとつながり、他方端がbaseとつながっている」のように「一方端」「他方端」を主語にする方が自然ですが、英語では例文のようにlegを主語にする方が自然です。このように、英語ではモノの「部分」よりもモノ自体を主語や目的語にすることが多いといえます。

この日本語と英語の発想の違いは、次の日本語クレームと英語クレームにも表れています(次の日英両クレームは、内容がまったく同じではありません)。

前記穴部の幅方向長は、前記基板の軸長方向に沿って、長くなっていった後に短くなっていく
A device for supporting objects as recited in claim 1, wherein said vertical support members taper in width, from wide to narrow, in the direction from the ends whereat said vertical support members are connected to said face of said horizontal support member.**(下線は付加)

日本語クレームでは、穴部の「幅方向長」が主語になっており、これが「長くなっていった後に短くなっていく」と表現されています。これに対して、英語クレームでは"said vertical support members"という「モノ」が主語になっており、これが「その幅において」長くなっていった後に短くなっていく、と表現されています。

これは、どちらが正しいかという問題ではないように思われます。つまり、「Aの一方端はZにつながっている」という日本語の発想で書かれた原文を「Aは一方端においてZにつながっている」という英語の発想で英訳しなかったとしても、重大な問題は起きないように思われます。ただ、英語の発想で英訳すると、日本語の発想で英訳するよりも簡潔になることがあるため、この日本語と英語の発想の違いを知っておくと役に立つことがあります。

*Faber, Robert C. "Chapter 3 Apparatus or Machine Claims", "Section 3-1 In General". Faber on Mechanics of Patent Claim Drafting, 7th ed., Practising Law Institute, 2017.
**Kayton, Irving. Patent Practice, Vol.3, 8th ed. Patent Resources Institute, 2004, p.3.8

 

 

-Faber on Mechanics of Patent Claim Drafting, Patent Practice, コラム特許翻訳, 特許翻訳者のための米国特許クレーム作成マニュアル

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