【24の例文に見る】冠詞用法の違いがもたらす意味上の差異


グレン・パケット著『科学論文の英語用法百科』を題材に、特許翻訳における適切な英語表現について考えていきます。

本書の前書き(p.1-10)において、英文における冠詞用法の違い(「a(an)」を使うか「the」を使うか、または無冠詞にするかの違い)により、文全体の意味が大きく異なる場合があることが12対の例文(計24の例文)を使って解説されています(p.4-8「冠詞の機能の概略」)。

本記事では、上記24の例文を記載するとともに、これら例文の解説をまとめています。

第2編 冠詞用法~前書き「冠詞の機能の概略」~

(1a) There’s a hole in the boat!/(1b) There’s the hole in the boat!

(1a)(1b)ともに、船が沈む恐れがあるという背景がある一方、描写する状況は異なり、聞き手はそれぞれに対して逆の反応を示す、と解説されています。

すなわち、(1a)では話し手は船に穴が空いていることを発見しその旨を知らせていることを表しているため、聞き手は恐怖に襲われると思われます。一方、(1b)では、例えば船に水がたまりつつあることから話し手と聞き手は船に穴が空いていることを知っており、その上で話し手は穴を見つけてその旨を知らせているため、聞き手はホッとすると思われます。

つまり、(1a)では名詞「hole」に付く冠詞が「a」であることにより、穴の存在について聞き手は知らされていなかったことを表すのに対し、(1b)では冠詞が「the」であることにより、聞き手にとって穴の存在は既知の情報であることを表しています。

また、(1a)において「a hole」の「a」を削除すると、文は意味を成さなくなると付記されています。

(2a) We need rain./(2b) We need the rain.

(2a)(2b)は、ともに雨が必要だという意味を表している点では似ているものの、実際に雨が降っているかいないかについては逆の現状を示す、と解説されています。

すなわち、(2a)では「rain」に冠詞が付いていないことにより、不特定の抽象的な雨という意味が含まれているため、(2a)は単に雨不足という状態を表し、したがって現在は雨が降っていないという意味に解釈されます。一方、(2b)では、「rain」に冠詞「the」が付いていることにより、「rain」は抽象的な雨ではなく実際に存在する雨を表し、したがって現在は雨が降っていることを示唆しています。

また、(2b)において「the」を「a」に書き換えると、(2a)と同様の文意になると付記されています。

(3a) Do you have the time?/(3b) Do you have time?

(3)の用例は、上記(2)の用例に似ていると解説されています。すなわち、(3a)において「the time」は特定の時間を意味するため、(3a)は「Do you know what time it is?」と同じ意味です。一方、(3b)において「time」は不特定の時間を意味するため、(3b)は「Are you busy?」と同じ意味です。

また、(3a)において「the」を「a」に書き換えるとナンセンスな文章になると付記されています。

(4a) My friend wants a newspaper./(4b) My friend wants newspaper.

(4a)では、「a newspaper」が一まとまりの新聞を指していると解釈されるため、「My friend」は新聞が読みたいという意味で捉えられます。一方、(4b)では「newspaper」に冠詞が付いていないことにより、「newspaper」は「新聞」ではなくそれを構成する「紙」という意味で捉えられます。

また、(4a)において、「a」を「the」に書き換えると、全体の意味はさほど変わらないものの、特定した新聞の最新号が欲しいという含意が強くなり、ただ単に新聞が読みたいというよりも、ある事柄の成り行きが知りたいと思わせる、と付記されています。

(5a) When I was a child, we had a goat at home./(5b) When I was a child, we had goat at home.

(5)の用例は、上記(4)の用例に似ていると解説されています。すなわち、(5a)では「a goat」は一匹のヤギを意味するため、ペットとしてのヤギを表しています。一方、(4b)では「goat」はヤギを成す組織を意味しているため、食べ物としてのヤギを表しています。

また、(5a)において「a goat」を「the goat」に書き換えると、極めて不自然な主張になると付記されています。

(6a) I like painting./(6b) I like the painting.

(6a)では「painting」は行為を意味し、(6b)では「painting」は物体を意味すると解説されています。

また、(6b)において「the」を「a」に書き換えると、全く不適切とは言えないものの、不自然なほど曖昧な文意となる、と付記されています。

(7a) I have the fears of a wild animal in the city./(7b) I have fears of a wild animal in the city.

(7a)(7b)ともに、話し手がある恐怖を描写している一方、それぞれの恐怖の対象は異なっていると解説されています。

すなわち、(7a)では、話し手は「大都会に置かれた野獣が感じるような恐怖」を感じているのに対し、(7b)では話し手はそのような野獣の「存在」を恐れていることを示唆しています。

また、(7a)において「the fears」を「a fear」に書き換えると、かなり解釈しにくい文章になると付記されています。

(8a) This is a problem./(8b) This is the problem.

(8a)では、話し手はある問題の存在を指摘しており、(8b)では話し手は存在が既に知られている問題を同定している、と解説されています。

また、「problem」は必ず可算名詞のため、(8a)の「a」を削除すると意味を成さないと付記されています。

(9a) The insect changes color in its new environment./(9b) The insect changes the color in its new environment.

(9a)は昆虫の色が変わる現象を表すのに対し、(9b)は昆虫が環境に何らかの影響を与えて環境の色を変えることを表している、と解説されています。

また、(9b)において「the」を「a」に書き換えると、昆虫のいる新しい環境において一色だけが変わるというかなり奇妙な現象を記述することになる、と付記されています。

(10a) There is a time for that./(10b) There is time for that.

(10a)は、「that」をすることが適切な場合もあるが、今回はそのような場合ではないことを表しており、(10b)は、「that」をする時間があるという比較的単純な意味を表している、と解説されています。

また、(10b)において「time」を「the time」に書き換えても文の趣旨は変わらないと付記されています。

(11a) He is not the man I remember./(11b) He is not a man I remember.

(11a)は、話し手が男を覚えていることを表す一方、(11b)は話し手が男を覚えていないことを表しており、(11a)と(11b)はほぼ反対の意味を伝えている、と解説されています。

また、「man」は必ず可算名詞のため、(11a)の「a」を削除すると意味を成さないと付記されています。

(12a) The drought could have catastrophic consequences./(12b) A drought could have catastrophic consequences.

(12a)(12b)はともに、干ばつが破壊的な結果をもたらす恐れを表している一方、(12a)がもう干ばつになっている状態を表し、(12b)がまだ干ばつになっていない状態を表している点で両者は異なる、と解説されています。

また、(12b)において「A drought」を「Drought」に書き換えても(「a」を削除しても)、文意にはほとんど影響がないと付記されています。

(※本記事は、判例(英文法だけでなく特許明細書の記載内容など様々な証拠を考慮して判断される)とは相容れない部分がある可能性があります。本記事は、純粋に英文法の側面から見た適切な英語表現を考えていくことを目的としています。)

『科学論文の英語用法百科』について

学術論文における英作文についての解説書シリーズ。現在、「第1編 よく誤用される単語と表現」と「第2編 冠詞用法」が出版されている。

筆者は、9年間にわたって、日本人学者によって書かれた約2,000本の理工学系論文を校閲してきた。その間、「日本人の書く英語」に慣れていく中で、日本人特有の誤りが何度も論文中に繰り返されることに気付いた。誤りの頻度は、その英語についての誤解がかなり広く(場合によってほぼ普遍的に)日本人の間に浸透していることを反映しているだろう。そのような根深く定着している誤りに焦点を当て、誤りの根底にある英語についての誤解をさぐり、解説することがシリーズの基本的な方針になっている。(第1編「序文」より)

第1編 よく誤用される単語と表現

シリーズの第一巻となる本書では、日本人にとって使い方が特に理解しにくい単語や表現を扱っている。

第2編 冠詞用法

冠詞についての誤解が原因となる日本人学者の論文に見られる誤りの多さ、またその誤りに起因する意味上の問題の深刻さがゆえに、当科学英語シリーズにおいて冠詞が優先度の高いテーマとなり、この本を第二編とすることにした。(p.1)


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