特許明細書の請求項において、「~手段」という記載がよく見られます。これを英訳する際は、例えば"means for"などにするのが一般的ですが、翻訳者にとっては、なぜ「~手段」が使われているのか、例えば「~装置」とどう違うのかが分かりにくいことがあります。
Patent Practice※(Irving Kayton著)には、こういった疑問のヒントになりそうな解説が載っており、以下、本書を参考に、"means"(手段)がどのようなときに使われるかについて見ていきます(加えて、"means"の形式についても見ていきます)。
"means"の例
Patent Practiceでは、例えばモータ、プーリ群、シャフト、要素Xが協働してAというものを動かすという機能を実行する場合、言い換えれば、Aを動かすという1つの機能を複数の要素によって実行する場合、これら複数の要素を"means"として"means for moving A"と表現する例が紹介されています。
また、上記のモータ、プーリ群、シャフト、要素Yが協働してBというものを動かすという機能を実行する場合、これら複数の要素を"means"として"means for moving B"と表現する例も紹介されています。
このように、"means"表現が使われる例として、1つの機能を複数の要素によって実行する例と、一部の要素が重複する複数の"means"表現を使って、それぞれに異なる機能を実行させる例が紹介されています。
"means"の形式
means表現は、"means for moving A"のように"means"を無冠詞にするのが一般的です。
また、既出の"means for moving A"について再度言及する場合、"the moving means"のようにする("the means for moving A"としない)のが一般的です。(ただし、日本語の明細書では最初から「移動手段」などのように書かれていることが多く、この場合、原文通りに"the moving means"にすることになります。)
また、"means"に機能以外の説明を加えたい場合は、例えば"means, provided next to the engine, for moving A"のように"means"と"for"の間に説明を記載するのが一般的です。
※:Kayton, Irving. Patent Practice, Vol.3, 8th ed. Patent Resources Institute, 2004, pp.3.26-3.36.